公認心理師 2019-51

問51は緩和ケアにまつわる概念の理解を問うています。
緩和ケアの問題は繰り返し出題されていますね。

問51 緩和ケアにおける家族との関わりについて、正しいものを2つ選べ。
①グリーフケアは家族には行わない。
②リビングウィルの表明には家族の承諾が必要である。
③患者の死後、遺族へは励ましの言葉がけが最も有効である。
④アドバンス・ケア・プランニングに家族も参加することが望ましい。
⑤レスパイトは家族の看護疲れを緩和するために患者が入院することである。

過去問では、終末期患者に関する対応(2018-66)や制度(2018-54)の設問が中心でしたが、今回は家族との関わりにまつわる内容となっています。
ですから、在宅ケアなども含めた視点を持っておくことが大切になります。

解答のポイント

緩和ケアにおける家族支援の重要性を把握し、その支援に関連する概念を理解していること。

選択肢の解説

①グリーフケアは家族には行わない。
③患者の死後、遺族へは励ましの言葉がけが最も有効である。

こちらは悲嘆にまつわるテーマですね。
愛する家族や親しい友を亡くした後に体験する複雑な情緒的状態を「グリーフ(悲嘆)」と呼びます
悲嘆反応は、愛する人を亡くした場合に生じる正常なストレス反応であり、それ自体は病的なものではありません。
そして悲嘆反応は時間的経過に伴って通常の生活に戻る道筋を辿るのが一般的です。

悲嘆の時間軸の区分は便宜的なものであり、現実的にはどのくらい経ったら慢性期であるとか、ここからが再適応期であるなどははっきりと分けることはできません。
ここでは大まかに「急性期」「慢性期」「再適応・再構築期」と分けて、一般的に生じやすい悲嘆反応を挙げていきます。

まずは死別直後の「急性期」です。
主な反応は以下の通りです。

  1. ショックと否認:
    心理的に麻痺し、無感覚になる。この状態はしばしば「気丈に」対応していると周囲から評価される。持続時間は数時間から数週間までまちまちである。
  2. 悲嘆の苦痛の発作:
    ショックと否認の段階が過ぎ、死別を現実として受け容れたときに生じる激しい感情の波を指す。
これらは数週間から数カ月続くとされています。

続いて死別後数か月からの「慢性期」です。
こちらは心理的・身体的・社会的と反応を分けることができます。

  1. 心理的反応-抑うつ感、悲哀感:
    きっかけの有無にかかわらず悲しみの波に襲われる。無感動になり、喜びを感じない。物事に興味を持てない。
  2. 心理的反応-死者への探索行動・追慕・切望:
    死者のイメージへのとらわれ。死者が未だ生きているかのように感じ、行動する。死者のことが頭から離れない。
  3. 心理的反応-罪悪感・罪責感:
    サイバーズギルトと、自分が死に責任があると感じることによる罪責感とがある。とくに子どもを亡くした親には頻繁に生じる。
  4. 心理的反応-怒り:
    事件や事故に巻き込まれた被害者遺族には特に生じやすい。生きている家族、友人や知人、医者や援助者、被害者遺族では加害者、警察官、司法関係者、さらには死者自身に向けられる。死に対する反応の相違から怒りが家族に向けられる場合、遺族同士が傷つけあう結果になる。怒りの感情は非常に激しく、周囲の理解を得にくいため、遺族の孤立を招く。
  5. 身体的反応-睡眠障害、夢:
    遺族の睡眠障害は、眠りにつく前の空白の時間に生じる死者や市に関するイメージへの恐れのために生じることがある。「眠れない」「眠りが浅い」「夜中に目が覚める」などさまざまなタイプの問題が見られる。夢の内容は、死そのものや死者の苦しみに関することも多く、遺族に苦しみをもたらす。
  6. 身体的反応-その他:
    喉が締め付けられる感じ、息切れを伴う窒息感などの呼吸器反応。
    動機や不整脈などの循環器反応。
    腹痛や胃もたれ、食欲不振、吐気、嘔吐、下痢・便秘などの消化器反応。
    頭痛、四肢の脱力感、虚脱感など。
  7. 社会的な反応:
    社会からのひきこもり。死別直後のひきこもりは、刺激をもたらす社会からの一時的な逃避となり、傷つきを癒す役割を果たすこともある。しかし、長期にわたるひきこもりが続くと、回復の過程に問題を来たすことも。
これらは死別後数か月より持続期間には個人差があるとされています。

最後の「再適応・再構築期」では、死者が重要な役割を果たしていた死別前の世界観が過去のものとなり、死者のいない世界に適応して生活することができます。
新しい考え方、興味の対象が生じるなどが起こります。
現状を受け容れて未来の計画を立てることが可能になってくるとされています。

繰り返しますが、これらは愛する人を亡くした場合の「一般的な反応」であり、それ自体は病的なものではありません。
通常の悲嘆反応を示している遺族の場合は、自然に回復していくことが多く、必ずしも全ての人が遺族ケアを求めているわけではありません。
欧米の研究では、遺族ケアを受ける遺族の割合は10~30%であり、配偶者を失った遺族、若年の遺族、うつ病に罹患した遺族、患者の苦痛症状を目撃した遺族、自尊心が低い遺族、対処能力が低い遺族が利用する傾向があることが明らかにされています。

しかし、緩和ケアにおいて遺族ケアは重要なものとして位置づけられ、遺族ケアに対する遺族のニーズがあることが、実践現場からも報告されています
ウォーデンは、死別に適応するためには4つの課題(グリーフワーク)を完了する必要があると述べています

  1. 喪失の事実を受容する
  2. 悲嘆の苦痛を乗り越える
  3. 故人のいない環境に適応する
  4. 個人を情緒的に再配置する
遺族がこれらの課題を達成できるように支援すること、そして治療的介入が必要となる「複雑性悲嘆」に陥っている人、陥りそうな人を早期発見することが遺族ケアの目標となります。

このようなワークを完了していくために行われる支援が「グリーフケア」と言います。

グリーフケアにまつわる具体的な関わりとしては以下の書籍に記載がありました。

こちらによると、死別遺族へのケアとして、話を聴く際のポイントが以下のように示されております。

  1. 話をさえぎらない:
    聴く側がつらい話であっても、さえぎったり話題を変えてはいけない。遺族は自分の感情が受け容れられなかったと感じる。
  2. 自分の体験を強要しない:
    支援者が同様の体験をしていたとしても、それを率先して語ってはいけない。また自分にとって有効だった解決法を強制してはいけない。死別の体験はそれぞれの遺族に固有のものであり、自分と同じような体験を別の遺族がしているわけではない。
  3. 感情をそのまま受け入れる:
    遺族が示す感情の中には、強い怒りや罪悪感などのように不合理で納得しがたいものが含まれていることもある。そうした場合、支援者はその感情を否定したり訂正したくなることがある。しかし、否定せずにそのまま聞く姿勢こそが、援助者に強く求められている。ネガティブな感情は、遺族自身もなかなか表に出せないで苦しんでいる場合がある。適切な感情表出の場の提供は、援助の重要な役割の一つである。
  4. 安易の同調しない:
    遺族は自分の感情や考えを受け容れてほしいという気持ちと、簡単にわかるはずがないという気持ちの両方をもっている。またすでに周囲から理解を得られずにつらい体験を重ねている場合もある。
    そんなとき「あなたの気持ちはよくわかる」「私には全部理解できる」など遺族に安易に同調する言葉は、かえって遺族の不信感を招き、新たな傷つきを生じかねない。
    遺族は死別によって通常の世界観が変容するほどの悲痛な経験をしており、そこからはさまざまな感情や価値観が生まれるのは当然のことである。聴き手は可能な限り想像力を凝らし、遺族の現状について知識を広げるなど遺族の感情や価値観を理解するよう努めてほしい。
    基本的には「悲しいのですね」「つらいのですね」と遺族の感情を中心に受容し、言語化することが大切である。

上記の「感情をそのまま受け入れる」ということが、実は「励ます」ということと全く異なるアプローチになります

励ますとは「いま現在の状態から別の状態に変えようとするアプローチ」と言えます。
グリーフケアに限らずですが、多くのクライエントに必要なのは、クライエントが「今ここ」でその体験を十分に体験できるように支援していくことです
グリーフケアで言えば、故人のことを語る時も、過去の故人ではなく、今の故人に向かって語りかけることで遺族が「今」を生きられるように支援していきます。

子どもと話すときでも、落ち込んでいる子どもに「大丈夫」「やればできる」と伝えるのは一般的だろうと思いますが、本当に大切なのは「ダメであっても生きていけるという根拠のない安心感」です。
「大丈夫」「やればできる」といった励ましは、実は「今の(ダメな)あなたを受け容れない」というスタンスの表明となってしまうこともあり得るのです。

そもそも、悲嘆反応のような「自然反応」に対して、心理支援者(というよりも人間)ができることは非常に少ないのです。
それは支援者に「無力感」を生じさせることもあるでしょう。
多くの人にとって無力感は苦痛なものであり、たいていはそこから離れようとするのが一般的ですが、そこにじっと留まっていられることが心理支援者の役割といえます
何もできないかもしれない、何も支えにならないかもしれない、それでもその場に留まり、遺族の苦しみと共にいようとするかどうかが大切なのだと思います。

以上より、選択肢①はそもそものグリーフケアの意図と逆の記述になっており、選択肢③は遺族へのグリーフケア(というよりも臨床実践の基本的姿勢)として不適切と言えます。
よって、選択肢①および選択肢③は誤りと判断できます。

②リビングウィルの表明には家族の承諾が必要である。
④アドバンス・ケア・プランニングに家族も参加することが望ましい。

これらはいずれも患者による早期からの意思表示、意思決定の自由を実現に関する事柄にまつわる内容です。

まずアドバンスディレクティブという概念があり、こちらは患者の意思決定能力が無くなったときに、延命治療をどうするかなどを患者が事前に選択し、文書あるいは口頭で医師に伝えておくことを指し、「代理人決定(患者の意識が低下した際に、患者に代わって意思決定をする人)」「延命治療をはじめとした個々の治療の選択に関する内容」が含まれます
アドバンスディレクティブを文書で指示したものを「リビングウィル」といいます日本尊厳死協会のホームページに詳しく記載があります)。

1976年のアメリカにおいて、脳の障害により植物状態になった女性の親が人工呼吸器を外すよう裁判所に訴え、裁判所がそれを認めました。
その判決を受けて、カリフォルニア州で、成人が末期状態になった時に生命維持装置の不使用・取り外しを前もって指示する書面を作成しておく権利が法制化されました。
これをきっかけにリビングウィルという概念が広く普及されたと言われています。

リビングウィルはその後ヨーロッパの国々においても広がっていますが、延命治療の差し控え・中止など、認められる範囲は国によって異なります。
日本では、「自分の命が不治かつ末期であれば、延命措置を施さないでほしい。苦痛を和らげる緩和ケアは行なってほしい」という意思を文章で表すことをリビングウィルとして、一般財団法人日本尊厳死協会が普及・啓発活動を行なってきました。
ただし、現在の日本では、このようなリビングウィルについて規定する法律は制定されていません

ですが、上記の日本尊厳死協会のリビングウィルに関する説明事項には以下のように記載があります。

  • もしもの時、どのような医療を望むか、望まないかはあなた自身が決めることです。これは憲法に保障されている基本的人権の根幹である自己決定権に基づいています。
  • LW作成にはかかりつけ医や医療チーム、訓練を受けたアドバイザーから十分な説明を受け、ご家族を含めた話し合いを繰り返し、よりよい選択をすることを推奨します。この相談過程をアドバンス・ケア・プランニング(Advance Care Planning:ACP)と言い、現在、LW作成に望ましい形とされています。
  • ご家族や医療者との話し合いや合意は望ましいのですが、最も優先されるべきはご本人の意思です。LWを作りたくない方は作る必要がなく、強制されたものは無効です。大切なことは、医療者、ご家族、あなたをサポートしてくれる方とLW情報を共有し、理解し合えることです

このように、リビングウィルの表明に重要なのは、あくまでも個人としての選択であるとされています
もちろん、家族等との話し合いで決めることが重要とはされていますが、あくまでも個人の意思の表明という意味合いとしてリビングウィルがあると考えてよいでしょう
ただし、法的拘束力はないと理解しておくことも大切ですし、拒否できない基本的なケアというものもあることを理解しておきましょう(雨風を防ぐ手段、保温手段、清潔保持対策、食べ物と水分の経口摂取は拒否できない)。

さて、上記にも少し出てきましたが、医療者や家族を含めた話し合いを繰り返し、よりよい選択ができるよう話し合う相談過程をアドバンス・ケア・プランニング(Advance Care Planning:ACP)と呼びます

アドバンス・ケア・プランニングは、アドバンスディレクティブの文書を作成することのみではなく、意思決定能力低下に備えて今後の治療・療養について患者・家族と医療従事者があらかじめ話し合う自発的なプロセス全体を指します
患者の価値を確認し、個々の治療の選択だけでなく、全体的な目標を明確にさせることを目標にしたケアの取り組み全体ということです。

患者が望めば、家族や友人とともに行われます。
患者が同意のもと、話し合いの結果が記述され、定期的に見直され、ケアにかかわる人々の間で共有されることが望ましいです
アドバンス・ケア・プランニングで検討することとしては「患者本人の気がかりや意向」「患者の価値観や目標」「病状や予後の理解」「治療や療養に関する意向や選好、その提供体制」などが含まれます。

アドバンス・ケア・プランニングは、アドバンスディレクティブに対する有効性への疑問から発展してきました。
アドバンスディレクティブでは…

  • 患者が将来を予想すること自体が困難
  • その時点の選択が今も同じかわからない
  • 代理決定者がその内容を知らない
  • 代理決定者が、患者がなぜそのような判断をしたかがわからない
  • 実際の状況が複雑なために、アドバンスディレクティブの内容を医療・ケアの選択に活かせない

…などが指摘されてきました。

そこから患者・代理決定者(家族など)・医療者が、患者の意向や大切なことをあらかじめ話し合うプロセスが重要と考えられるようになり、アドバンス・ケア・プランニングへとつながっていきます
話し合うプロセスを共有することで、患者がどう考えているかについて深く理解すること、価値感を理解し共有することが可能になり、複雑な状況に対応可能になるとされています。

以上より、選択肢②は誤りと判断でき、選択肢④は正しいと判断できます。

⑤レスパイトは家族の看護疲れを緩和するために患者が入院することである。

こちらは在宅緩和ケアの枠組みの中で重要な概念となります。
在宅緩和ケアでは、自宅のみならず居宅(介護施設、グループホーム、ケアハウスなど)も含んだ場所で提供される緩和ケアのことです。
在宅緩和ケアには介護支援や生活支援も含まれ、患者を取り巻く環境を整えて、患者や家族が安心して過ごせるような支援を提供することが大切です。

在宅緩和ケアでは様々な医療従事者(医師、看護師、薬剤師、理学療法士、作業療法士、栄養士、鍼灸師など;もちろんここに公認心理師も)や、介護福祉従事者(ケアマネージャー、ホームヘルパー、介護福祉士など)が関わります。

患者や家族が安心して過ごせる替えを提供するための在宅緩和ケアでは、以下のような条件が必要になってきます。

  1. 24時間体制の訪問診療、訪問看護:
    患者や家族が困ったときにすぐに連絡が取れるよう、また急な症状の変化に対応できるように24時間対応できる訪問診療や訪問看護が必要になる。
    患者や家族にとって、いつでも連絡でき、必要なときに訪問してもらえるという心構えがあれば、より安心して在宅療養することができる。
  2. 苦痛症状の緩和:
    適切な症状コントロールが行われれば、痛みや呼吸困難などの終末期特有の症状が緩和され、在宅療養の継続や在宅における看取りが実現できる。
  3. 関わる医療・介護福祉従事者の連携体制:
    在宅ケアに関わる医療・介護福祉従事者はそれぞれの所属機関が異なることが多い。
    より良いケアのためには患者の状態を共有し、その時々の問題に対して、それぞれの職種が協力して関わることが必要になる。
    患者を中心としたチーム医療を展開することが大切。
  4. 医療ニーズの高い患者に対応できるレスパイトケアが利用できること
    在宅療養において、家族は患者のケアを担う介護者になる。
    患者と同居している家族介護者にとっては、身体的・精神的負担が大きくなり、その限界が訪れると在宅での療養が困難になる。
    そこで在宅ケアを担う家族の心身の疲労を回復し、介護負担を軽減するレスパイトケアを利用することが大切になる(respite:息抜き、小休止)
    ショートステイ、デイサービス、療養通所介護などがある。

他にも条件はありますが、選択肢にあるレスパイトケアは在宅での緩和ケアにおいて特に重要であることがわかります。

レスパイトケアは、介護者が一時的に介護から離れて休息し、リフレッシュしてもらうための家族支援サービスのひとつであり、在宅介護支援として短期間患者に緩和ケア病棟に入院してもらうことを指します
日本では、1976年に心身障害児を対象としたショートステイからレスパイトケアが始まりました。
緩和ケアの在宅療養の継続につながる支援の一つと言えますね。
家族の一時的な病気や旅行、仕事など介護の負担が大きい時などに利用可能とされています。

以上より、選択肢⑤は正しいと判断できます。

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