公認心理師 2018追加-31

心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律〈医療観察法〉に規定する内容として、正しいものを1つ選ぶ問題です。

類似問題としては公認心理師2018-119がありますが、医療観察法単体としての問題は今回が初めてですね。
医療観察法に関するアウトラインは、以前の記事で書いていますのでご参照ください。

解答のポイント

医療観察法の重要な事項について把握していること。

選択肢の解説

『①指定医療機関の指定は、法務大臣が行う』

医療観察法第2条に各用語の定義が示されております。
それによると「指定医療機関」とは、「指定入院医療機関及び指定通院医療機関をいう」とされています(第2条第3項)

そして指定入院医療機関の指定については、同条第4項に記載があります。
「この法律において「指定入院医療機関」とは、第四十二条第一項第一号又は第六十一条第一項第一号の決定を受けた者の入院による医療を担当させる医療機関として厚生労働大臣が指定した病院(その一部を指定した病院を含む)をいう

同様に指定通院医療機関については、同条第5項に記載があります。
「この法律において「指定通院医療機関」とは、第四十二条第一項第二号又は第五十一条第一項第二号の決定を受けた者の入院によらない医療を担当させる医療機関として厚生労働大臣が指定した病院若しくは診療所(これらに準ずるものとして政令で定めるものを含む。第十六条第二項において同じ)又は薬局をいう
薬局が含まれるんですね。

以上より、指定医療機関の指定は厚生労働大臣が行うとされています。
よって、選択肢①は誤りと判断できます。

『②精神保健観察の実施は、保護司が従事する』

精神保健観察は、主に退院後の地域社会における処遇として示されております。
医療観察法第106条にその方法が記されています。

  1. 精神保健観察に付されている者と適当な接触を保ち、指定通院医療機関の管理者並びに都道府県知事及び市町村長から報告を求めるなどして、当該決定を受けた者が必要な医療を受けているか否か及びその生活の状況を見守ること
  2. 継続的な医療を受けさせるために必要な指導その他の措置を講ずること
更に同法111条にも以下のような記載があります。
「指定通院医療機関の管理者並びに都道府県知事及び市町村長は、第四十二条第一項第二号又は第五十一条第一項第二号の決定を受けた者について、第四十三条第二項の規定に違反する事実又は第百七条各号に掲げる事項を守らない事実があると認めるときは、速やかに、保護観察所の長に通報しなければならない
本選択肢で問われているのは、こうした方法を誰が実施するかです。
医療観察法には処遇の終了又は通院期間の延長が規定されており、同法第54条第3項に詳しい記載があります。
指定通院医療機関及び保護観察所の長は、前二項の申立てがあった場合は、当該決定により入院によらない医療を行う期間が満了した後も、前二項の申立てに対する決定があるまでの間、当該決定を受けた者に対して医療及び精神保健観察を行うことができる
このように精神保健観察については、保護観察所が受け持つことになります。
そして、具体的な実施者としては医療観察法第20条に記載があります。
  1. 保護観察所に、社会復帰調整官を置く
  2. 社会復帰調整官は、精神障害者の保健及び福祉その他のこの法律に基づく対象者の処遇に関する専門的知識に基づき、前条各号に掲げる事務に従事する
  3. 社会復帰調整官は、精神保健福祉士その他の精神障害者の保健及び福祉に関する専門的知識を有する者として政令で定めるものでなければならない。
本選択肢の回答に大切なのは、上記の「前条各号に掲げる事務」が何なのかを知っておくことです。
上記第2項にある「前条各号に掲げる事務」とは、以下を指します。
  1. 第三十八条(第五十三条、第五十八条及び第六十三条において準用する場合を含む。)に規定する生活環境の調査に関すること。
  2. 第百一条に規定する生活環境の調整に関すること。
  3. 第百六条に規定する精神保健観察の実施に関すること。
  4. 第百八条に規定する関係機関相互間の連携の確保に関すること。
  5. その他この法律により保護観察所の所掌に属せしめられた事務
上記の通り、精神保健観察は保護観察所の社会復帰調整官が実施するということになります
以上より、選択肢②は誤りと判断できます。

『③対象となる行為には、恐喝や脅迫が含まれる』

医療観察法第2条に本法における対象行為の規定が示されています
  1. 刑法(明治四十年法律第四十五号)第百八条から第百十条まで又は第百十二条に規定する行為
  2. 刑法第百七十六条から第百八十条までに規定する行為
  3. 刑法第百九十九条、第二百二条又は第二百三条に規定する行為
  4. 刑法第二百四条に規定する行為
  5. 刑法第二百三十六条、第二百三十八条又は第二百四十三条(第二百三十六条又は第二百三十八条に係るものに限る)に規定する行為

具体的な罪名については上記の刑法の条項を引く必要がありますが、それは以下になります。

  1. 現住建造物等放火、非現住建造物等放火、建造物等以外放火と各未遂罪
  2. 強制わいせつ、強制性交、準強制わいせつ及び準強制性交と各未遂罪
  3. 殺人、殺人関与及び同意殺人と各未遂罪
  4. 傷害(傷害致死を含む)
  5. 強盗、事後強盗と各未遂罪(強盗致死傷を含む)
上記のうち、強制わいせつ(未遂含む)と強制性交(未遂含む)を分けて、いわゆる6罪種と呼ばれています
ちなみに傷害は軽微なものは除外されます。
上記にある「強制性交罪」は以前は「強姦罪」という名称でしたが変更されています。
名称以外の変更点としては以下の通りです。
  • 強姦罪では、男性器を女性器に挿入しなければ強姦罪とはならなかった。しかし、今回の改正で「性交等」となり、犯罪行為に該当する範囲が広がり、性交・肛門性交(アナルセックス)・口腔性交(オーラルセックス)を暴行・脅迫を用いて(もしくは13歳未満の者に対して)行えば強制性交等罪が成立する。
  • 強姦罪では3年以上の刑期だったのが、5年以上ということに厳罰化されている。
  • 非親告罪になった。強姦罪では親告罪で「被害者が言わなければ、警察は操作できない」罪だった。しかし、被害者が泣き寝入りすることが多いことが問題視され、変更となりました。ちなみに「強制わいせつ罪」も非親告罪に変更されている。
こちらも併せて押さえておきましょう。
以上より、選択肢にある恐喝や脅迫は含まれておりません
よって、選択肢③は誤りと判断できます。

『④精神保健参与員は学識経験に基づき、審判でその意見を述べなければならない』

精神保健参与員は医療観察法第15条に以下のように定められています。
  1. 精神保健参与員は、次項に規定する名簿に記載された者のうち、地方裁判所が毎年あらかじめ選任したものの中から、処遇事件ごとに裁判所が指定する
  2. 厚生労働大臣は、政令で定めるところにより、毎年、各地方裁判所ごとに、精神保健福祉士その他の精神障害者の保健及び福祉に関する専門的知識及び技術を有する者の名簿を作成し、当該地方裁判所に送付しなければならない。
  3. 精神保健参与員の員数は、各事件について一人以上とする
  4. 第六条第三項の規定は、精神保健参与員について準用する。
精神保健参与員の具体的な関与については同法第36条に以下のように記載されています。
裁判所は、処遇の要否及びその内容につき、精神保健参与員の意見を聴くため、これを審判に関与させるものとする。ただし、特に必要がないと認めるときは、この限りでない
上記の通り、精神保健参与員の関与については、審判に参加することはあり得ますが、必要がないと認める時には行わなくてよいとされています
一方、選択肢の内容は審判で意見を述べる「法的義務」を有していると読み取れますので、明らかに医療観察法の内容と齟齬があることがわかります
以上より、選択肢④は誤りと判断できます。

『⑤被害者等は、裁判所の許可により審判を傍聴できるが、意見を述べることはできない』

医療観察法の審判段階での被害者支援に関する選択肢になっています。
医療観察法施行前には、被害者等に処遇の決定過程を知る仕組みが無いことや、入院医療機関の体制の違い等で医療の提供内容にバラツキがあること、退院後の処遇を確実に継続させるための仕組みがないこと等が課題として指摘されていました。

「被害者等の傍聴」については医療観察法第47条に記載があります。

  1. 裁判所は、この節に規定する審判について、最高裁判所規則で定めるところにより当該対象行為の被害者等(被害者又はその法定代理人若しくは被害者が死亡した場合若しくはその心身に重大な故障がある場合におけるその配偶者、直系の親族若しくは兄弟姉妹をいう)から申出があるときは、その申出をした者に対し、審判期日において審判を傍聴することを許すことができる。
  2. 前項の規定により審判を傍聴した者は、正当な理由がないのに当該傍聴により知り得た対象者の氏名その他当該対象者の身上に関する事項を漏らしてはならず、かつ、当該傍聴により知り得た事項をみだりに用いて、当該対象者に対する医療の実施若しくはその社会復帰を妨げ、又は関係人の名誉若しくは生活の平穏を害する行為をしてはならない
まず第1項には審判を傍聴できる旨が、第2項には審判で知り得た情報を用いて対象者の社会復帰を妨げるような行為を禁じています。

医療観察法は、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者に対し、その適切な処遇を決定するための手続等を定めることにより、継続的かつ適切な医療並びにその確保のために必要な観察及び指導を行うことによって、その病状の改善及びこれに伴う同様の行為の再発の防止を図り、もってその社会復帰を促進することにあります(第1条第1項)。
被害者等の意見には、処罰感情等が入り込まざるを得ず、選択肢の内容のように意見を述べることが可能になってしまうと、上記の適切な処遇・医療の確保・社会復帰の促進が阻まれる可能性が高くなります

本選択肢で問われているのは、医療観察法以前は被害者等に裁判傍聴の権利が無かったこと、医療観察法によってそれが可能になったこと、しかし対象者の社会復帰等の促進のためにも裁判で意見を示すことまではできないこと、といった一連の流れになります。

以上より、選択肢⑤は正しいと判断できます。

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