公認心理師 2018追加-26

がん患者とその支援について、正しいものを1つ選ぶ問題です。

サイコオンコロジーと絡む内容になっています。
がんに関する周辺的な事柄やそれへの対処を理解しているかが重要です。

がんは身近な病気ですから、目の前のクライエントががんになることだってあり得るわけです。
その領域に関わりが無くても、公認心理師として必要な知識として、きちんと把握できることはしておきましょう。

解答のポイント

がんの周辺症状やそれへの対応を把握していること。

選択肢の解説

『①合併する精神医学的問題は不安障害が最も多い』
『④がんに起因する抑うつに対しては薬物療法が支援の中心になる』

がん患者の心の動きに目を向けてキューブラー・ロスが示した「死ぬ瞬間」では、否認→怒り→取引→抑うつ→受容という流れになっており、防衛機制を状況に応じて使って心のバランスを保ち、一貫して希望を持ち続けようとします。

がん患者には選択肢のように「不安」を示しますが、ロスの示した「抑うつ」も多く示されます。
がん患者において不安は抑うつと混在する頻度が高く、相互に強い関連を持つことが知られています

操作的診断を用いたがん患者の精神疾患の有病率調査によると、抑うつ・不安を呈する主な精神疾患はうつ病と適応障害であり、大うつ病の有病率が1〜23%、適応障害もしくは小うつ病(大うつ病診断項目が2つ以上5つ未満存在し、2週間以上継続する状態)の有病率が8〜52%であったことが報告されています
このことからも不安と抑うつが混在しやすく、また精神医学的問題としてはうつ病が最も多いことが明らかとなっています

抑うつは患者のQOL低下のみならず、治療選択、自殺、入院期間の長期化、家族のストレスなどに影響することが明らかにされています。
適切な精神療法や薬物療法により治療可能であり、早期の介入が必要となります。

がん患者の抑うつについては、その病態の多様性や多くの関連因子を考慮して、生物学的、心理学的、社会学的な介入が必要になります。
多くの場合、薬物療法と精神療法を併用して支援にあたることが多いです

がん患者へのアプローチとして、認知行動療法のリラクセーション技法は代表的で呼吸法や全身の筋肉を順番に弛緩させる漸進的弛緩法、心地よい場所をイメージするイメージ療法、自律訓練法、催眠療法などの効果が明らかになっています

それ以外にもライフレビューや回想法など人生の振り返りが有効な場合もあります
人生で成し遂げてきたことを整理することで、患者の自己評価は高まり、人生の意味の確認や、抑うつの軽減につながります。
その他、集団精神療法によって、患者の経験や感情を自由に表現できることを重視したアプローチもあります

薬物療法についても、その有効性は示されていますが、一方で、抗うつ薬はその効果の発現に対して数週間要し、しばしば他のがん治療における薬物との相互作用や、有害事象に関する身体的な忍容性が問題となることが多いです。
従って、抗うつ薬の選択は、身体的状況によって行われることが多いとされています。
薬物療法の問題点として、進行癌患者ではしばしば経口投与できないこともありますが、非経口的に投与できる抗うつ薬は三環系になりやすく忍容性の点から避けられることが多いです。

以上より、選択肢①及び選択肢④は不適切と判断できます。

『②がんに起因する疼痛は心理的支援の対象ではない』

がんに伴う痛みについては、多面的に対応していくことが求められます。
薬物等を用いた痛みの緩和以外にも、精神医学的介入による症状緩和の試みも多くなされております

がんに関連する痛みに対する認知行動療法の研究をレビューした結果、治療に関連する急性の痛みに対しては催眠や気晴らしが、がんそのものに関連するような慢性の痛みにはリラクゼーション法が有用であると結論づけられています

痛みにおける研究では、中等度以上の痛みを有する患者の約70%はその痛みにも関わらず鎮痛薬の増量を望んでおらず、その理由として薬の中毒に関する心配、身体的副作用、精神的副作用、薬を内服することへの抵抗感によるものであった。
この点から考えても、痛みに関して「痛みや痛みの治療に関する基本的な知識を提供する」「医療スタッフにどのように痛みの程度を報告すべきか、またどのように痛みについて話し合うべきか」といった心理教育的介入が有効であることが示唆されます

以上より、選択肢②は不適切と判断できます。

『③がん患者の自殺率は一般人口の自殺率と同等である』

がん患者の自殺率に関する疫学的研究では、その先行研究の多くが、がん患者の自殺率は一般人口に比べて有意に高いことを示しています
複数の結果から、がん患者の自殺率は概ね0.2%程度であることが推測されます。

1994年のメタ分析の結果からは、がん患者の自殺率は一般人口に比べて1.8倍有意に高いことが示されています
これらの研究のいくつかでは、診断時の進行がん、及び診断から間もない時期において特に危険率が高いことが共通して示されており、今後、がん患者の自殺予防を考える上で重要な知見と言えます。

以上より、選択肢③は不適切と判断できます。

『⑤包括的アセスメントの対象には、がんそのものに起因する症状と、社会経済的、心理的及び実存的問題とがある』

WHOは緩和ケアの定義として「緩和ケアとは、生命を脅かす病に関連する問題に直面している患者とその家族のQOLを、痛みやその他の身体的・心理社会的・スピリチュアルな問題を早期に見いだし的確に評価を行い対応することで、苦痛を予防し和らげることを通して向上させるアプローチである」としています。
上記の点については、アセスメントを行う上でも重要な事項であると考えるのが妥当です。

また、がんへの心理的反応に関するサイコオンコロジーモデルがありますが、それによると以下のように構成されています。

  1. がんの種類・がん治療法
    がんの部位や病期により予後は様々であり、治療法によりその後の障害の程度も様々です。
  2. 身体的状態:
    身体状態が重篤で、適切な症状緩和やリハビリテーションが行わなければ、心理的反応は当然影響を受けます。一方で、日常生活への支障がない身体状態が確保されると、臨床上問題とならない心理的状態が維持されることが多いです。
  3. 心理・社会・行動学的要因:
    こちらは以下の要素で構成されています。
    ・基本属性:性、年齢、教育、職業、経済状態など
    心理行動学的:性格、コーピング、健康行動など
    ・既往の精神疾患:うつ病、ニコチン依存、アルコール関連障害など
    社会的:配偶者、友人、医療者からのソーシャルサポートなど
    ・環境的:がん告知の状況、精神科・ソーシャルサービスへのアクセスなど
  4. QOL:
    身体機能面、心理的、社会的、スピリチュアルなど。

これらのような諸要因のアセスメントを行い、適切な支援につなげていくことが重要となります。
以上より、選択肢⑤は適切と判断できます。

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