公認心理師 2018追加-141

84歳の女性Aの事例です。

事例の内容は以下の通りです。

  • 夫と二人暮らしである。
  • Aは2年前に大腿骨を骨折し手術を受けたが、リハビリを拒否したまま退院した。
  • 現在は歩行が困難で、食事は不規則であり、入浴もあまりしていない。
  • Aは易怒的であり夫に暴言を浴びせる。
  • 遠方に住む長女から地域包括支援センターに相談があったため、センター職員が数回訪問し、認知症を疑った。
このときの認知症初期集中支援チームによる支援として、最も適切なものを1つ選ぶ問題です。

まずは「認知症初期集中支援チーム」について把握していることが大切です。
医療にも介護にも接続できていない、あるいは中断している認知症の人に対して自宅を訪問、集中的、包括的に関与し、医療・介護につなぐことによって、在宅生活の継続をめざす多職種チームが認知症初期集中支援チームです。

日本老年医学会が出している「認知症初期集中支援チームについて」という資料が、とてもわかりやすく、これだけで解説・解答が可能です。
この資料をもとにまとめました。

解答のポイント


認知症初期集中支援チームについて理解していること。

認知症初期集中支援チームについて

高齢者の増加に伴い認知症の人が更に増加することが見込まれていることを踏まえ、平成25年9月に厚生労働省において「認知症施策推進5か年戦略(オレンジプラン)」が策定されました。
オレンジプランの柱の一つとして、認知症初期集中支援チームが創設されましたが、その背景には以下のような事情があります。

  1. 早期対応の遅れから認知症の症状が悪化し、行動・心理症状等が生じてから、医療機関を受診している例が散見される。
  2. ケアの現場での継続的なアセスメントが不十分であり、適切な認知症のケアが提供できていない。
  3. これまでの医療・ケアは、認知症の人に「危機」が生じてからの「事後的な対応」が主眼となっていた。

これに対し、今後目指すべきケアは「早期支援機能」と「危機回避支援機能」を整備し、「危機」の発生を防ぐ「早期・事前的な対応」に基本をおくことが求められます。
この「早期支援機能」として期待されるのが「認知症初期集中支援チーム」になります

このチームは、地域での生活が維持できるような支援を、できる限り早い段階で包括的に提供するものであり、新たな認知症ケアパスの「起点」に位置づけられています。
この場合の「初期」とは必ずしも疾患の初期段階という意味ではなく、初動(first touch)を意味しており、「集中」は認知症の人及びその家族を訪問し、アセスメント、家族支援等を包括的・集中的(おおむね6カ月)に行い、自立生活のサポートを行ったうえで本来の医療やケアチームに引き継いでいくことを意味しています

【対象者】

対象者になるのは、年齢が40歳以上で認知症が疑われ、在宅で生活している者になります(40歳以上とすることで若年性認知症も対象となる)。
具体的な関与すべき対象者は以下の通りです。

  1. 医療サービス、介護サービスを受けていない者、または中断している者で以下のいずれかに該当する者。
    1)認知症疾患の臨床診断を受けていない
    2)継続的な医療サービスを受けていない
    3)適切な介護保険サービスに結び付いていない
    4)診断されたが介護サービスが中断している
  2. 医療サービス、介護サービスを受けているが認知症の行動・心理症状により対応に苦慮している事例
    例えば、家族、関係者が対応に苦慮している事例、処遇困難事例の場合の例(精神疾患の合併、社会的困難;独居、近隣からの苦情、老老・認認介護、消費者被害者等)。

チームのサービス許容量を超えて対象者がいる可能性があるがその場合には、地域の資源の実情に応じて、上記の項目に留意し対象者の優先度を決定します。

対象者の把握については、一般的には把握の主体は地域包括支援センターが入手した情報であることが多いです。

【チームの構成や活動体制等】

チーム員は以下の3項目をすべて満たす者とし、複数の専門職(具体的な人数は地域の実情に応じて設定する)にて編成されます。

  1. 保健師、看護師、作業療法士、介護福祉士など医療福祉に関する国家資格を有する者 
  2. 認知症ケア実務経験3年以上又は在宅ケア実務経験3年以上を有する者
  3. 認知症初期集中支援チームで従事するために必要な研修を受講し、試験に合格した者

上記チーム員に加えて、チーム員をバックアップし、認知症に関して専門的見識からアドバイスが可能な専門医を確保することが求められています。

アウトリーチを行う場合、チーム員の人数は2名以上を原則とし、医療系職員と介護系職員それぞれ1名以上で訪問します
また専門医は必要に応じてチーム員とともにアウトリーチを行い相談に応需します
チーム員会議はチーム員(認知症専門医を含む)及び対象者の居住する地区を管轄する地域包括支援センター職員の参加を原則必須とし、その他関係者も必要に応じて参加可能とします。

【初回訪問の枠組み】

訪問時のチーム員人数は複数以上とします(2~3名が望ましい)。
これによって本人と介護者から同時に情報をえたり、一人が直接対応し、一人が記録や室内の様子を観察したりでき、また安全上の問題もクリアできます
訪問所要時間の目安はおおむね2時間以内です。
本人、家族の了解があれば、2時間を超えても差し支えないが、相手の疲労度を考慮し、また短時間で複数回の訪問により関係を築くことが効果的であることも考慮します。
訪問時の留意点としては以下の通りです。
  1. 市町村保健師、地域包括支援センター職員や主治医、介護事業者との連携を常に意識し、情報共有の出来る仕組みを確保すること
  2. 対象者の把握において、チーム員が直接知り得た情報の場合も地域包括支援センターと情報共有のうえ訪問すること
  3. 十分な情報を得るための配慮を行うこと
  4. 家族の同席の確保
  5. 独居の場合は協力の得られる家族やその他の人の同席を調整する
  6. チーム員の受入拒否の可能性の高い場合の対応としては、実施主体である行政(保健師等)の協力を仰ぎながら、支援の糸口を探るといった方法をとり対応方法について各関係機関と協力のうえ支援を図ることが有用なことがある

家庭訪問における基本的姿勢は、まず信頼関係の構築であり、これなくしては次のステップには進めないことを自覚しておくことが重要です。
チームの役割の説明、個別支援内容の項目(家族のいる場合、独居の場合)、チーム員の役割分担等の説明を行いながら信頼関係の構築をはかります。
対象者の記録の作成と保管に関しては台帳を作成し、個別記録を作成します。

【初回訪問における基本的支援内容】

まず認知症初期集中支援チームの役割と計画的関与を行うことの説明をチームができることについてわかりやすく提示して示すことが必要になります。
その後に基本的な認知症に関する情報提供、専門医療機関への受診が本人や家族にとってどのようなメリットがあるのか、介護保険サービス利用が本人や家族にとってどのようなメリットがあるのか説明します

具体的な説明用のツールを用意するなどして、初回はまず認知症初期集中支援チームについて知ってもらうことを最優先します
流れの中で本人および家族への心理的サポートとアドバイス、具体的な各機関との連絡調整にまで進むことも起こりえますが、個別事例ごとに優先順位をつけ可能な範囲で実施します。

初回訪問後にチーム員会議を行います。
初回チーム員会議の果たすべき機能は、まずアセスメント内容の総合チェックを行い、その対象者および介護者に対してどのような医療、介護が必要かをマネジメントし、初期集中支援計画を立案します。
初回会議の参加者は認知症専門医を含むチーム員と対象者の居住する地区を管轄する地域包括支援センター職員が必須であり、必要に応じてかかりつけ医や担当するケアマネジャー、市町村関係課職員を招集します。
同様の会議は随時行われますが、介護保険サービスへの引継ぎ前には必ず開催することとします。

【初期集中支援の実施】

初期集中支援の内容はまず受診勧奨・誘導になります
認知症かどうかの診断がつかない状態では適切な介護計画は立てられないので、チーム員会議での専門医等の助言を踏まえ、医療機関への受診や検査が必要な場合は、本人に適切な医療機関の受診に向けた動機付けをおこない、受診に至るまで支援を行う。

ある程度診断がついたところで介護保険サービスの利用の勧奨・誘導を行います
本人の状態像に合わせた適切な介護保険サービスの利用が可能となるように、本人および家族への支援を行います。
未受診者で要介護認定が必要な場合については、本人等の同意を得たうえで、チーム員がかかりつけ医等に医師の意見書の作成にかかる必要な情報の提供を行い、そしてチーム員による直接支援が加わります

初期集中支援の期間は集中という定義と関連しますが、最長で6カ月をめどに支援の達成を目指します。
6カ月を超える場合は、対象者の居住する管轄の地域包括支援センターへ引き継ぎます。

初期集中支援が終了したのちには介護保険サービスへの円滑な引継ぎが求められます。
初期集中支援チームの役割は引継ぎで終了するわけではなく、引継いだ対象者が医療、介護サービスを継続できているかをモニタリングする必要があります。

選択肢の解説

『①整形外科の医師がチームに加わる』

認知症初期集中支援チームとは、複数の専門職が家族の訴え等により認知症が疑われる人や認知症の人及びその家族を訪問し、アセスメント、家族支援などの初期の支援を包括的、集中的(おおむね6ヶ月)に行い、自立生活のサポートを行うチームを指します
その役割の一つとして、自立生活のサポートを行ったうえで本来の医療やケアチームに引き継ぐことが挙げられます

選択肢にある整形外科の医師については、基本的に認知症のケアのために医療や福祉とつながった後に登場することになります
認知症初期集中支援チームの人員として、「認知症に関して専門的見識からアドバイスが可能な専門医」が入ることはあっても、整形外科医となると違ってくると思われます。

以上より、選択肢①は不適切と判断できます。

『②初回訪問はチーム員の介護福祉士2名で行う』

訪問時のチーム員人数は複数(2~3名)とされています。
複数チームで赴くことによって本人と介護者から同時に情報をえたり、一人が直接対応し、一人が記録や室内の様子を観察したりでき、また安全上の問題もクリアできます

訪問支援を行う場合、チーム員の人数は2名以上を原則とし、医療系職員と介護系職員それぞれ1名以上で訪問します
医療と福祉にまたがる支援になりますから、チームにそれぞれの専門職から入っていくことが適切でしょう。
また専門医は必要に応じてチーム員とともにアウトリーチを行い相談に応需します。

以上より、選択肢②は不適切と判断できます。

『③出来るだけ早くAを精神科病院に入院させる』
『④初回訪問から介護保険サービスの利用を開始する』
『⑤初回訪問で、専門の医療機関への受診に向けた動機づけをAと夫に行う』

初回訪問における基本的支援内容として、認知症初期集中支援チームの役割と計画的関与を行うことの説明をチームができることについてわかりやすく提示して示すことが挙げられます
その後に基本的な認知症に関する情報提供、専門医療機関への受診が本人や家族にとってどのようなメリットがあるのか、介護保険サービス利用が本人や家族にとってどのようなメリットがあるのか説明します

すなわち、認知症初期集中支援チームについて知ってもらったうえで、医療や福祉サービスを受けるよう勧めていくことが初回訪問で行うことだと言えるでしょう。
認知症初期集中支援チームが、認知症の初期からケアを行うチームであるという前提に立つならば、強制的な入院等ではなく、話し合いの中で本人や家族が納得の上で支援を受けるよう促していくことになります。

これらより、選択肢④は不適切であり、選択肢⑤は適切であることがわかります。

また、初回面接の情報や、チーム内会議を経て、ある程度診断がついたところで介護保険サービスの利用の勧奨・誘導を行います
本人の状態像に合わせた適切な介護保険サービスの利用が可能となるように、本人および家族への支援を行います。
初回訪問以降も、本人や家族の同意を得つつ支援を行っていくことが基本となります。

事例の場合、夫も苦慮していることが予想されますが、同時に「自分で世話をしてあげたい」という思いがある可能性も否定できません。
医療や福祉サービスを勧めることが、夫のそれまでのケアを否定することにならないよう配慮しつつ、その苦労を汲み取り、納得いく形で専門機関につなげていきたいところです

よって、選択肢③は不適切と判断できます。

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