公認心理師 2021-32

ある制度の特徴を述べ、それに合致する制度を選択する問題です。

正解は導きやすいですが、他選択肢の制度も学ぶようにしておきましょう。

問32 精神障害などにより、財産管理などの重要な判断を行う能力が十分ではない人々の権利を守り、支援する制度を何というか、正しいものを1つ選べ。
① 医療観察制度
② 介護保険制度
③ 成年後見制度
④ 障害者扶養共済制度
⑤ 生活福祉資金貸付制度

解答のポイント

様々な制度に関して、大枠の理解を有していること。

選択肢の解説

① 医療観察制度

「医療観察制度」とは、心神喪失又は心神耗弱の状態で(=精神の障害のために善悪の区別がつかないなど、通常の刑事責任を問えない状態)殺人、放火等の重大な他害行為を行った人の社会復帰を促進することを目的とした処遇制度です。

医療観察法第2条に本法における対象行為の規定が示されています。

  1. 刑法(明治四十年法律第四十五号)第百八条から第百十条まで又は第百十二条に規定する行為
  2. 刑法第百七十六条から第百八十条までに規定する行為
  3. 刑法第百九十九条、第二百二条又は第二百三条に規定する行為
  4. 刑法第二百四条に規定する行為
  5. 刑法第二百三十六条、第二百三十八条又は第二百四十三条(第二百三十六条又は第二百三十八条に係るものに限る)に規定する行為

具体的な罪名については上記の刑法の条項を引く必要がありますが、それは以下になります。

  1. 現住建造物等放火、非現住建造物等放火、建造物等以外放火と各未遂罪
  2. 強制わいせつ、強制性交、準強制わいせつ及び準強制性交と各未遂罪
  3. 殺人、殺人関与及び同意殺人と各未遂罪
  4. 傷害(傷害致死を含む)
  5. 強盗、事後強盗と各未遂罪(強盗致死傷を含む)

上記のうち、強制わいせつ(未遂含む)と強制性交(未遂含む)を分けて、いわゆる6罪種と呼ばれています。ちなみに傷害は軽微なものは除外されます。

医療観察制度は、2005年に成立した「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律」に基づき、適切な処遇を決定するための審判手続が設けられたほか、入院決定(医療を受けさせるために入院をさせる旨の決定)を受けた人については、厚生労働省所管の指定入院医療機関による専門的な医療が提供され、その間、保護観察所は、その人について退院後の生活環境の調整を行います。

この法律の成立のきっかけは、2001年に起こった池田小学校事件で、この事件をきっかけにして2005年に本法律が施行されました。

また、通院決定(入院によらない医療を受けさせる旨の決定)を受けた人及び退院を許可された人については、(原則として3年間)厚生労働省所管の指定通院医療機関による医療が提供されるほか、保護観察所による精神保健観察に付され、必要な医療と援助の確保が図られます。

通院決定に関しては、地域社会における処遇ということですね。

なお、これを担当するのが社会復帰調整官(医療観察法第20条に規定)です。

ちなみに医療観察法のアウトラインはこちらで示していますね(古い記事なので軽く解説してある程度ですが)。

以上より、本選択肢の内容は「精神障害などにより、財産管理などの重要な判断を行う能力が十分ではない人々の権利を守り、支援する制度」には該当しないことがわかります。

よって、選択肢①は誤りと判断できます。

② 介護保険制度

介護保険導入の背景としては、高齢化の進展に伴い、要介護高齢者の増加、介護期間の長期化など、介護ニーズはますます増大してきたことが挙げられます。

それによって、元々は子どもや家族が行うものという風潮が強かった親の介護ですが、高齢化が進むにつれ、介護を必要とする高齢者の増加や核家族化の進行、介護による離職が社会問題となりました。

すなわち、従来の老人福祉・老人医療制度による対応には限界がきていました。

そんな中、平成9年(1997年)の国会で制定された介護保険法に基づき、平成12年(2000年)4月1日から施行されたのが日本の社会保険制度です。

介護保険法は、加齢に伴って生ずる心身の変化に起因する疾病等により要介護状態となり、入浴、排せつ、食事等の介護、機能訓練並びに看護及び療養上の管理その他の医療を要する者等について、これらの者が尊厳を保持し、その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう、必要な保健医療サービス及び福祉サービスに係る給付を行うため、国民の共同連帯の理念に基づき介護保険制度を設け、その行う保険給付等に関して必要な事項を定め、もって国民の保健医療の向上及び福祉の増進を図ることを目的とする(第1条)ものです。

制度的なことに関しては、厚生労働省の資料をご覧ください。

法律的にはいろいろ述べられていますが、一般に介護保険制度とは「65歳以上の高齢者または40歳~64歳の特定疾病患者のうち、介護が必要になった人を社会全体で支える仕組み」と考えておけば良いでしょう。

より突っ込んだ内容に関しては「公認心理師 2018追加-134」に出題されていたので、こちらも参照にしておきましょう。

こちらの資料も詳しく述べられていますね。

以上より、本選択肢の内容は「精神障害などにより、財産管理などの重要な判断を行う能力が十分ではない人々の権利を守り、支援する制度」には該当しないことがわかります。

よって、選択肢②は誤りと判断できます。

③ 成年後見制度

成年後見制度に関しては「公認心理師 2019-103」で出題があり、その概要に関しては示されております。

公認心理師法の欠格事由に挙げられており、「2018追加-1の選択肢①」でもしっかりと出題がありましたね。

比較的解きやすい問題と言えそうですね。

認知症、知的障害、精神障害などの理由で判断能力が不十分な場合、不動産や預貯金などの財産を管理したり、身のまわりの世話のために介護などのサービスや施設への入所に関する契約を結んだり、遺産分割の協議をしたりする必要があっても、自分でこれらのことをするのが難しい場合があります。

また自分に不利益な契約であってもよく判断ができずに契約を結んでしまい、悪徳商法の被害にあうおそれもあります。

このような判断能力の不十分な人たちを保護し、支援するのが成年後見制度です。

法定後見制度は「後見」「保佐」「補助」の3つに分かれており、判断能力の程度など本人の事情に応じて制度を選べるようになっています。

法定後見制度においては、家庭裁判所によって選ばれた成年後見人等(成年後見人・保佐人・補助人)が本人の利益を考えながら、本人を代理して契約などの法律行為をしたり、本人が自分で法律行為をするときに同意を与えたり、本人が同意を得ないでした不利益な法律行為を後から取り消したりすることによって本人を保護・支援します。

後見はほとんど判断出来ない人を対象としており、精神上の障害(知的障害、精神障害、認知症など)によって判断能力を欠く常況にある者を保護するという形になっています。

保佐人は、判断能力が著しく不十分な人を対象としており、精神上の障害(知的障害、精神障害、認知症など)によって判断能力が特に不十分な者を保護します。

簡単なことであれば自分で判断できるが、法律で定められた一定の重要な事項については援助してもらわないとできないという場合です。

補助は、判断能力が不十分な人を対象としており、精神上の障害(知的障害、精神障害、認知症など)によって判断能力が不十分な者を保護します。

大体のことは自分で判断できるが、難しい事項については援助をしてもらわないとできないという場合です。

民法第7条によると、精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者については、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人、補助監督人又は検察官の請求により、後見開始の審判をすることができるとされています。

なお市町村長も65歳以上の者、知的障害者、精神障害者につきその福祉を図るため特に必要があると認めるときは後見開始の審判を請求することができることとされています(老人福祉法32条、知的障害者福祉法28条、精神保健福祉法51条の11の2)。

なお、平成25年5月、成年被後見人の選挙権の回復等のための公職選挙法等の一部を改正する法律が成立、公布されました(平成25年6月30日施行)。

これにより、平成25年7月1日以後に公示・告示される選挙について、成年被後見人の方は、選挙権・被選挙権を有することとなります。

また、この改正では、併せて、選挙の公正な実施を確保するため、代理投票において選挙人の投票を補助すべき者は、投票に係る事務に従事する者に限定されるとともに、病院、老人ホーム等における不在者投票について、外部立会人を立ち会わせること等の不在者投票の公正な実施確保の努力義務規定が設けられました。

以上より、本選択肢は「精神障害などにより、財産管理などの重要な判断を行う能力が十分ではない人々の権利を守り、支援する制度」に該当することがわかります。

よって、選択肢③が正しいと判断できます。

④ 障害者扶養共済制度

「障害者扶養共済制度」は、障害のある人を扶養している保護者の連帯と、相互扶助の精神にもとづき、障害のある人の生活の安定の一助と福祉の増進に資するとともに、親亡き後の障害のある人の将来に対し、保護者が抱く不安の軽減を図る目的で生まれたものです。

具体的には、障害のある人を育てている保護者が毎月掛金を納めることで、保護者が亡くなった時などに、障害のある人に対して一定額の年金を一生涯支給するというものです。

パンフレットに載っている特色を転載すると以下の通りです。

  • 都道府県・指定都市が条例に基づき実施している任意加入の制度です。
  • 加入者(保護者)が死亡し、または重度障害になったとき、障害のある方に毎月2万円(2口加入の場合は4万円)の年金が生涯にわたって支給されます。
  • 付加保険料(保険に係る経費分)を徴収していないので、掛金が低廉となっています。
  • 掛金の免除制度があります。
  • 加入者(保護者)が都道府県・指定都市に支払う掛金全額が所得控除の対象になります。
  • 障害のある方が受け取られる年金については所得税及び地方税がかかりません。また、生活保護を受給される場合にもこの年金は収入認定されません。
  • 全国の都道府県・指定都市で加入でき、転出(引っ越し)した場合は転出先の都道府県・指定都市で継続できます。

関連するものとして、厚生労働省から通知「障害者扶養共済制度の広報啓発について」が出ていますね。

以上より、本選択肢の内容は「精神障害などにより、財産管理などの重要な判断を行う能力が十分ではない人々の権利を守り、支援する制度」には該当しないことがわかります。

よって、選択肢④は誤りと判断できます。

⑤ 生活福祉資金貸付制度

生活福祉資金貸付制度は、低所得者や高齢者、障害者の生活を経済的に支えるとともに、その在宅福祉および社会参加の促進を図ることを目的とした貸付制度です。

昭和30年に民生委員の世帯更生運動から創設された資金制度であり、他の貸付制度が利用できない所得の低い世帯、障害を持つ人や介護を要する高齢者が同居している世帯に対して、地区の担当民生委員の援助と指導に併せて資金の交付を行うことにより、世帯の経済的自立と生活意欲の助長および社会参加の促進を図る貸付制度とされています。

この制度は、都道府県社会福祉協議会を実施主体として、県内の市区町村社会福祉協議会が窓口となって実施されています。

低所得世帯、障害者世帯、高齢者世帯等世帯単位に、それぞれの世帯の状況と必要に合わせた資金、具体的には、就職に必要な知識・技術等の習得や高校、大学等への就学、介護サービスを受けるための費用等の貸付けが行われます(個人ではなく、世帯に対する貸付制度です)。

生活福祉資金の種類としては4つあり、以下の通りになっています。

  • 総合支援資金:生活支援費、住宅入居費、一時生活再建費
  • 福祉資金:福祉費、緊急小口資金
  • 教育支援資金:教育支援費、就学支度費
  • 不動産担保型生活資金:不動産担保型生活資金、要保護世帯向け不動産担保型生活資金

貸付には要件がありますから、利用したい場合にはチェックしておく必要がありますね(政府広報オンラインに詳細が載っています)。

ちなみに、生活福祉資金貸付制度では、新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえ、貸付の対象世帯を低所得世帯以外に拡大し、休業や失業等により生活資金でお悩みの人に向けた、緊急小口資金等の特例貸付を実施しています(厚生労働省の「新型コロナウイルス感染症の影響により生活資金でお悩みの皆さまへ」)。

コロナ禍で困窮する世帯が出てくる中、相談に来られる人にこうした情報提供ができるというのも公認心理師にとって必要なことですね。

以上より、本選択肢の内容は「精神障害などにより、財産管理などの重要な判断を行う能力が十分ではない人々の権利を守り、支援する制度」には該当しないことがわかります。

よって、選択肢⑤は誤りと判断できます。

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