公認心理師 2021-30

特定健康診査と特定保健指導に関する問題ですね。

多くの人が受けているものですが、何を根拠として行われているのかきちんと把握しておきましょう。

問30 特定健康診査と特定保健指導について、正しいものを1つ選べ。
① 公認心理師は、特定保健指導を行うことができる。
② 特定健康診査は、介護保険法に基づく制度である。
③ 76歳以上の者は、特定保健指導の対象とならない。
④ 一定の有害な業務に従事する者は、特定保健指導を受けなければならない。
⑤ 特定健康診査は、要支援状態にある40歳以上の者を対象として実施される。

解答のポイント

特定健康診査と特定保健指導の根拠法及びその具体的内容を把握している。

特定健康診査及び特定保健指導の実施に関する基準」や「標準的な健診・保健指導プログラム(平成30年度版、厚生労働省)」を把握していると望ましい。

選択肢の解説

特定健康診査は、いわゆる「健診」のことで、問診、身体測定、血圧測定、血液検査、尿検査などを行います。

メタボリックシンドロームや高血圧、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病を早期発見し、早期対策に結びつけることが目的です。

標準的には、下記の特定健診の基本的な項目が実施されます(加入している保険者によって検査項目が異なる場合があります)。

  • 既往歴(服薬歴、喫煙習慣を含む)
  • 自他覚症状(理学的所見)
  • 身長・体重・腹囲・BMI
  • 血圧
  • 肝機能(AST (GOT)、ALT(GPT)、γ-GT(γ-GTP))
  • 脂質(トリグリセライド、HDLコレステロール、LDLコレステロールまたはNon HDLコレステロール)
  • 血糖(空腹時血糖またはHbA1c)
  • 尿糖・尿たんぱく

これらは一例で、詳細な健診の項目は、一定の基準のもとに、医師が必要と認めた場合に実施されます。

メタボリックシンドロームの対策が目的の一つとなっているために、俗に「メタボ健診」と言われることもありますが、メタボリックシンドロームがわかるだけではありません。

肥満を伴わない、高血圧、糖尿病、脂質異常症や、腎臓、肝臓の検査項目も含まれています。

これらを踏まえ、各選択肢の解説に入っていきましょう。

② 特定健康診査は、介護保険法に基づく制度である。

まずは「特定健康診査と特定保健指導」に関する根拠法を知るためにも、この選択肢の解説から入っていきましょう。

こちらは高齢者の医療の確保に関する法律に基づいています。


第十八条(特定健康診査等基本指針) 厚生労働大臣は、特定健康診査(糖尿病その他の政令で定める生活習慣病に関する健康診査をいう。以下同じ)及び特定保健指導(特定健康診査の結果により健康の保持に努める必要がある者として厚生労働省令で定めるものに対し、保健指導に関する専門的知識及び技術を有する者として厚生労働省令で定めるものが行う保健指導をいう。以下同じ)の適切かつ有効な実施を図るための基本的な指針(以下「特定健康診査等基本指針」という)を定めるものとする。

2 特定健康診査等基本指針においては、次に掲げる事項を定めるものとする。
一 特定健康診査及び特定保健指導(以下「特定健康診査等」という。)の実施方法に関する基本的な事項
二 特定健康診査等の実施及びその成果に係る目標に関する基本的な事項
三 前二号に掲げるもののほか、次条第一項に規定する特定健康診査等実施計画の作成に関する重要事項

3 特定健康診査等基本指針は、健康増進法第九条第一項に規定する健康診査等指針と調和が保たれたものでなければならない。

4 厚生労働大臣は、特定健康診査等基本指針を定め、又はこれを変更しようとするときは、あらかじめ、関係行政機関の長に協議するものとする。

5 厚生労働大臣は、特定健康診査等基本指針を定め、又はこれを変更したときは、遅滞なく、これを公表するものとする。


なお、国民健康保険法第82条にも特定健康診査等に関する内容が含まれていますね。

以上のように、特定健康診査は「介護保険法」ではなく「高齢者の医療の確保に関する法律」に基づく制度だと言えます。

よって、選択肢②は誤りと判断できます。

③ 76歳以上の者は、特定保健指導の対象とならない。
⑤ 特定健康診査は、要支援状態にある40歳以上の者を対象として実施される。

これらは特定健康診査等を受ける年齢に関する内容を問うたものです。

まずは該当する法律を見ていきましょう。


第二十条(特定健康診査) 保険者は、特定健康診査等実施計画に基づき、厚生労働省令で定めるところにより、四十歳以上の加入者に対し、特定健康診査を行うものとする。ただし、加入者が特定健康診査に相当する健康診査を受け、その結果を証明する書面の提出を受けたとき、又は第二十六条第二項の規定により特定健康診査に関する記録の送付を受けたときは、この限りでない。


上記の通り、保険者が義務として実施する特定健康診査は「40歳以上の加入者に対して行われるもの」とされており、ここには選択肢⑤にある「要支援状態」という要件は定められておりません。

上記を更に詳しく述べたものが「特定健康診査及び特定保健指導の実施に関する基準」に定められているので引用しましょう。


第一条(特定健康診査の項目) 保険者は、高齢者の医療の確保に関する法律第二十条の規定により、毎年度、当該年度の四月一日における加入者であって、当該年度において四十歳以上七十五歳以下の年齢に達するもの(七十五歳未満の者に限り、妊産婦その他の厚生労働大臣が定める者を除く)に対し、特定健康診査等実施計画に基づき、次の項目について、特定健康診査を行うものとする。


このように、特定健康診査の対象となるのは「四十歳以上七十五歳以下の年齢に達するもの」とされているわけですね。

なお、65歳以上の高齢者については、介護保険法に基づく地域支援事業の対象者でもありますね。

選択肢③では、主語が「特定保健指導」となっていますが、その前に行われる特定保健診査(特定健康診査の結果により健康の保持に努める必要がある者として厚生労働省令で定めるものに対し、保健指導に関する専門的知識及び技術を有する者として厚生労働省令で定めるものが行う保健指導を「特定保健指導」と呼ぶ)が「75歳まで」ですから、当然76歳以上の者は対象にならないことがわかりますね。

以上のように、保険者は「40歳以上、75歳以下の者」に特定健康診査を受けさせる義務があるということになります。

よって、選択肢④および選択肢⑤は誤り、選択肢③が正しいと判断できます。

① 公認心理師は、特定保健指導を行うことができる。

「保険者は、特定健康診査等実施計画に基づき、厚生労働省令で定めるところにより、特定保健指導を行うものとする」(高齢者の医療の確保に関する法律 第24条)とされており、この実施者を問う選択肢ですね。

この実施者に関する決まりは上記の法律内にはありませんが、以下のように定められております。


第二十八条(実施の委託) 保険者は、特定健康診査等について、健康保険法第六十三条第三項各号に掲げる病院又は診療所その他適当と認められるものに対し、その実施を委託することができる。この場合において、保険者は、受託者に対し、委託する特定健康診査等の実施に必要な範囲内において、厚生労働省令で定めるところにより、自らが保存する特定健康診査又は特定保健指導に関する記録の写しその他必要な情報を提供することができる。


具体的な記述はないものの、病院または診療所に外部委託するということですね。

さて、より具体的な実施者に関しては「特定健康診査及び特定保健指導の実施に関する基準」に示されていました。


第五条(保健指導に関する専門的知識及び技術を有する者) 法第十八条第一項に規定する保健指導に関する専門的知識及び技術を有する者は、医師、保健師又は管理栄養士とする。


このように、医師、保健師、管理栄養士がその実施者として挙げられるわけですね。

更に、上記の実施者には追加が期間限定でなされております。

標準的な健診・保健指導プログラム(平成30年度版、厚生労働省)」を引用していきます。


平成35年度末まで、一定の実務経験がある看護師についても特定保健指導を行うことができ る。「一定の実務経験」とは、平成20年4月現在において、1年以上、保険者が保健事業として実施する生活習慣病予防に関する相談及び教育の業務又は事業主が労働者に対して実施する生活習慣病予防に関する相談及び教育の業務に従事した経験を指す。


このように、平成35年度末すなわち令和5年度末までは、一定の要件を満たすのであれば看護師も特定保健指導の実施者として認められているということですね。

いずれにせよ、特定保健指導の実施者としては「医師、保健師、管理栄養士および特定の要件を満たした看護師が令和5年度末まで」が挙げられており、この中に公認心理師は含まれていないですね。

よって、選択肢①は誤りと判断できます。

④ 一定の有害な業務に従事する者は、特定保健指導を受けなければならない。

特定保健指導に関しては「保険者は、特定健康診査等実施計画に基づき、厚生労働省令で定めるところにより、特定保健指導を行うものとする(第24条)」にあるのみで、本選択肢の「一定の有害な業務に従事する者」という限定はありません。

あくまでも特定健康診査や特定保健指導は、保険者が実施する義務を有し、選択肢③および選択肢⑤の解説で述べた通り、「40歳以上、75歳以下の者」に実施されます。

本選択肢の「一定の有害な業務に従事する者」に対しては、特殊健康診断を実施することが定められており、こちらとの異同を問うているのだと思います。

こちらは労働安全衛生法第66条に以下の通り規定されています。


第六十六条(健康診断) 事業者は、労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による健康診断(第六十六条の十第一項に規定する検査を除く。以下この条及び次条において同じ。)を行わなければならない。

2 事業者は、有害な業務で、政令で定めるものに従事する労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による特別の項目についての健康診断を行なわなければならない。有害な業務で、政令で定めるものに従事させたことのある労働者で、現に使用しているものについても、同様とする。

3 事業者は、有害な業務で、政令で定めるものに従事する労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、歯科医師による健康診断を行なわなければならない。


これらを「特殊健康診断」と呼び、有機溶剤など国が指定する有害な業務に常時従事する労働者は、雇入時、配置替えの際、6ヶ月以内に1回(じん肺健診は管理区分で実施期間がかわります)、それぞれ特別の健康診断を実施する必要があります。

また塩酸や硝酸、硫酸、亜硫酸など歯や支持組織に有害な物質が発散される場所での業務に従事する労働者は、歯科医師による健康診断も受ける必要があります(労働安全衛生法施行令第22条)。

以上より、本選択肢の「一定の有害な業務に従事する者」に対しては、「特定保健指導」ではなく「特殊健康診断」が義務付けられているというのが正しいと言えます。

よって、選択肢④は誤りと判断できます。

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