公認心理師 2022-23

BPSDに関する問題ですね。

類似した問題も出題されているので、認知症とBPSDに関してはよく勉強しておく必要があると言えます。

問23 認知症の行動・心理症状[behavioral and psychological symptoms of dementia〈BPSD〉]について、最も適切なものを1つ選べ。
① 生活環境による影響は受けない。
② 前頭側頭型認知症では、初期からみられる。
③ 治療では、非薬物療法よりも薬物療法を優先する。
④ Alzheimer型認知症では、幻視が頻繁に見られる。
⑤ 単一の妄想として最も頻度が高いのは、見捨てられ妄想である。

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解答のポイント

認知症の中核症状とBPSDの弁別ができている。

各認知症の特徴を把握している。

選択肢の解説

① 生活環境による影響は受けない。
③ 治療では、非薬物療法よりも薬物療法を優先する。
⑤ 単一の妄想として最も頻度が高いのは、見捨てられ妄想である。

認知症の症状は、中核症状とBehavioral and Psychological Symptoms of Dementia〈BPSD:認知症の行動・心理症状〉とに分けることができます。

国際老年精神医学会(IPA)が、認知障害以外の障害をBPSDと一括して呼ぶことを提唱しています。

ここではまず、認知障害(中核症状;BPSDではない症状)の種類について列挙していきましょう。

  1. 記憶障害は必須の症状:今日用いられている認知症の診断基準はいくつかあるが、そのすべてが認知障害の中心的な症状として記憶障害を挙げている。
  2. 記憶障害だけでは認知症と呼ばない:例えば記憶障害が目立つコルサコフ症候群は認知症とは呼ばれない。認知障害のために日常生活能力(および社会的・職業的能力)の著しい低下が見られることも認知症と診断されるためには必須の要件となる。
  3. 見当識障害は、重症度の目安になる:認知症では、意識が清明であるにも関わらず、時間、場所、人物などについての認識が障害される。認知症では、見当識は時間的見当識→場所的見当識の順に障害され、人物に関する見当識は最も障害されにくい傾向にある。CDRは、この順に障害されることが前提となって作られている。
  4. 失語、失行、失認は部分症状:これらの症状は、広範な大脳障害が原因となる認知症でしばしばみられる。このような障害は、認知症を診断する手がかりとして重視されているが、独立した形で見られることは少なく、多くは認知症の全体的な症状の中の構成成分あるいは部分症状として見られる。
  5. せん妄によるものではない:軽い意識の濁りのある時には、ちょっと見ると周囲からの話しかけにそれなりに答えていても、その状況にそぐわないものになることは少なくない。こうした意識の濁りによる症状はたいてい一過性であり、認知症とは区別される。
  6. 日常生活、社会的・職業的な能力に支障がある:認知機能低下のために日常生活に支障があっても、きわめて軽い場合には認知症とは呼ばない。社会生活を営む上で、明らかな障害が見られるものが認知症と定義される。それぞれの社会で、社会生活・職業活動において要求される能力水準に違いがあるので客観的な基準は存在せず、総合的に判断することが重要になる。
  7. 思考判断力、実行機能の障害:これらの判定は客観的には難しいが、具体的には、①抽象的思考の障害(関連ある単語の類似点・相違点、単語や概念の定義づけ、あるいは、それに類似した課題達成が困難になる)、②判断障害(対人的、家族的、職業的問題や事項を処理するための合理的計画ができない)、③遂行機能の障害(計画を立てる、組織化する、順序だてる、抽象化するといった思考の最も高次の活動が困難となる)、④高次皮質機能の障害(失語、失行、失認、構成失行などが出現する)

実行機能(=計画を立てる、組織化する、順序だてる、抽象化する)は、大脳の高次機能であり、このような機能の障害は認知症において必発の症状とされています。

前頭側頭型認知症や血管性認知症においては、記憶障害などに先行して実行機能の障害が見られることがあります。

上記が認知障害に該当する症状群ですが、これに対してBPSDは、本人の性格や生活環境をはじめ、普段から接している人との関係などによって症状の現れ方が異なるので個人差が大きいとされています。

中核症状よりもBPSDの方が、介護者の負担感を増大させ、医療的な介入が求められる症状とされているので、BPSDの評価は認知症の治療や介護を考える上で、極めて重要と言えます。

国際老年精神医学会が2003年に提示し、日本老年精神医学会が2005年に監訳を行ったBPSDの症状については以下の通りです。

行動面活動性の障害:焦燥、不穏、多動、徘徊、不適切な行為
攻撃性:言語性、身体性
摂食障害
日内リズムの変動
睡眠と覚醒の障害
夕暮れ症候群
とくに不適切な行動
心理面焦燥、うつ、不安、感情不安定、興奮、無為
妄想:ものを盗まれる、隠されるというもの、ここは自分の家でないという
配偶者や介護者:浮気をしている、だましている
幻の同居人妄想
鏡徴候
幻覚:幻視、幻聴、幻嗅、幻触

また、これら以外にも、喚声、性的抑制欠如、不用品の溜め込み、罵り、つきまとい、弄便、失禁などが含まれます。

上記にもあるように、BPSDは「本人の性格や生活環境をはじめ、普段から接している人との関係などによって症状の現れ方が異なる」という特徴があります。

言い換えれば、生活環境や対応がその人に適したものであれば軽減・消失することもあるとされています。

BPSDの妄想の中で最も頻度が高いのは、誰かに財布や通帳など、自分にとって大切な品物を盗まれたという「ものとられ妄想」であり、記憶障害のために誰かが自分のものを持っていったと確信して妄想的に発展するものが多いものです(よって、記憶障害が前景にたつAlzheimer型認知症で多く見られます)。

Alzheimer型認知症では、収納した場所を覚えていないという近似記憶の障害が基になって妄想的な解釈が行われ、ものとられ妄想の形を取ることもしばしばです。

なお、選択肢⑤にある「見捨てられ妄想」は、マスターソンが提唱した境界例に見られる「見捨てられ不安」が関連としては有名ですね(WORUとRORUなどの仕組みを知っておくとより良いですね)。

とは言え、見捨てられ妄想が認知症で生じないというわけではなく、疾患別で見ればAlzheimer型認知症や脳血管性認知症において起こりうる症状の一つではありますが、単一の妄想としては、記憶障害という問題との関連で生じやすい物盗られ妄想が多いと言えます。

こうした妄想の基盤として記憶障害が存在していると理解していれば、例えば、いつも同じ場所に財布を置いておくようにするなどの状況を作ることができれば、そうした妄想的になっていく可能性を減らすこともできるわけです。

このように、環境やケアの影響を大きく受けるBPSDに対する治療の基本は適切なケアであり、それでも不十分なときには薬物療法を併用することも検討していきます。

BPSDを介護者の立場から「問題行動」と見なすのではなく、「その人の何かしらの表現」と捉えて本人の意図するところ、訴えたいことを把握し、本人の立場で対応すると結果的にBPSDの軽減につながるとされています(「公認心理師 2020-21」のパーソンセンタードケアの考え方が役立ちますね)。

このように、BPSDは生活環境による影響が大きく、妄想では物盗られ妄想が高頻度であり、こうした症状に対しては環境を調整するなどの対応が効果的であるとされています。

以上より、選択肢①、選択肢③および選択肢⑤は不適切と判断できます。

② 前頭側頭型認知症では、初期からみられる。
④ Alzheimer型認知症では、幻視が頻繁に見られる。

上記はBPSDの代表的な症状ですが、Alzheimer型認知症では、その中でも自発性の低下といったアパシーが見られます。

また、うつ傾向も見られることがあり、症状を修飾している可能性を考慮する必要があります。

特に初期には記憶障害や実行機能障害に病識があるため、不安、うつ状態、睡眠障害、新奇的な訴えなどの心理的症状の出現が多くなります。

選択肢④の「Alzheimer型認知症では、幻視が頻繁に見られる」ですが、Alzheimer型認知症で多いのは上記の症状であり、幻視が頻繁に見られることはなく、認知症の中で幻視が見られるのはLewy小体型認知症です。

Lewy小体型認知症は、認知症と意識障害、それとパーキンソン症状などを特徴とし、大脳においてLewy小体を認める疾患です。

マッキースらによって1996年に「Lewy小体をともなう認知症」の臨床的診断基準を提唱したのが注目を集めるきっかけになったのですが、それ以前より、通常はパーキンソン病の脳幹部に限局して見られるLewy小体が大脳皮質にもみられることがあることは知られていました。

老年期の認知症患者において、大脳皮質にLewy小体を認めた報告は、岡崎によってなされましたが、その後、日本を中心に多くの症例が報告されています。

小阪ら(1990)は、このような症例をびまん性Lewy小体病と名付けて報告しました。

神経病理診断では、認知症疾患の20%前後とされ、アルツハイマー型認知症について多い変性性認知症疾患です。

1995年第1回国際ワークショップでLewy小体型認知症の名称と診断基準が提唱され、第3回ワークショップで診断基準が改訂されて、変動する認知障害、パーキンソニズム、繰り返す具体的な幻視の中核的特徴に加え、示唆的特徴としてレム期睡眠行動異常症、顕著な抗精神病薬に対する過敏性、SPECTあるいはPETイメージングによって示される大脳基底核でのドパミントランスポーターの取り込み低下が挙げられました。

続いて、選択肢②の「前頭側頭型認知症では、初期からみられる」について解説していきます。

プラハ大学の神経科教授だったアーノルド・ピックは、後にピック病とよばれる「葉性委縮による初老期認知症の症例」を報告しました。

今日、前頭側頭型認知症と呼ばれる病態のほとんどはピック病と呼ばれていました。

しかし、次第に前頭葉や側頭葉に限局的な委縮病変がみられる疾患は、稀ではあってもピック病の他にもあることがわかってきました。

そこで、これらの疾患を一括する概念として、それらの共通点に基づいて前頭側頭型認知症という臨床的な疾患名が広く用いられるようになりました。

病変の部位は、前頭葉、側頭葉が主であり海馬にも変化があります(しばしば線条体、視床、黒質にも変化が及びます)。

神経細胞の脱落、大脳皮質の第二層における小空胞形成による基質の抜け、白質のグリア繊維の増生がみられますが、更に特徴的な変化としてピック細胞あるいはピック嗜銀球が認められます(要は、異常構造物(ピック細胞等)が神経細胞の中に溜まるということですね)。

このように大脳の神経細胞に脱落が認められるなど、不可逆的な変化と言えます。

前頭側頭型認知症の臨床的特徴として、中核的とされているのが「潜行性発症と緩徐な進行」「社会的対人行動の早期からの障害」「自己行動の統制の障害が早期から」「情意の鈍麻が早期から」「洞察力の欠如が早期から」です。

前頭側頭型認知症の神経精神症状をより具体的に示すと以下のように分類できます。

  • 軽度神経精神症候群:
    ピック病では、潜行性に発症し緩慢な進行経過をとりますから、症状が明らかになる以前にさまざまな前駆的な精神症状を見ることがあります。
    疲れやすくて集中力や思考力が低下し、どことなく不活発で、まるで抑うつ気分があるように見えることもあります。
    また、頭痛や頭重感の訴えもあります。些細なことで立腹したり(易刺激性)、うつ気分や自己不全感がみられたり、態度にも落ち着きがなくなる(不穏)といったこともしばしば見られます。
  • パーソナリティ変化:
    人柄の変化は、本病に特有のものです。
    共通する特徴は社会的な態度の変化であり、発動性の減退あるいは亢進です。アルツハイマー型認知症では、少なくとも初期には、対人的な態度が保たれているのと比べると、この行動面での変化が際立っています。ときには周囲のことをまったく無視して自分勝手に行動するように見えることがあります。また、異常に見えるほど朗らかになって冗談をいったり、機嫌がよくなったりすることもあります。このようなことが続くと、もともとの性格と比べて人格の変化が生じたと見做されるようになります。

    ただ、このような時期には、まだ新しい事柄を記憶する能力は比較的残っていることがあって、アルツハイマー型認知症とは違った印象を受けることが少なくありません。
    特に、衝動のコントロールの障害は、欲動の制止欠如とか、人格の衝動的なコントロールの欠落などと表現され、思考において独特の投げやりな態度は考え不精と呼ばれます。
  • 滞続症状:
    しばしば、話す内容に同じことの繰り返しがあります。これは特有な常道的言語で、運動促迫が加わっています。まるでレコードが同じことを繰り返すようであることから、グラモフォン症候群と呼ばれたこともあります。
    この症状は側頭型ピック病において特徴的とされています。言語機能の荒廃にはまだ至っていない段階で見られるものですが、次第に言語の内容は乏しくなります。
  • 言語における症状:
    言語の内容が貧困になり言語解体と呼ばれる状態になります。自発語や語彙が少なくなり言語の理解も困難になります。中期になると、話を聞いても了解できなくなりますし、自発言語も乏しくなりますが、文章の模写や口真似は十分にできるといった超皮質性失語のかたちをとります。
    本病では、まず健忘失語や皮質性感覚失語が始まり、そのうち超皮質性感覚失語、超皮質性運動失語などが明らかになり、最も進行した段階では全失語も見られます。この段階になると、認知症に加えて、失書、失読、失行、失認、象徴能力の喪失などが出現します。
    同じことを繰り返す反復言語、それに反響言語、緘黙、無表情の四徴候は本病の特徴とされています。
  • ピック病の認知症:
    アルツハイマー型と比べると、初期には記憶障害は目立たないことが少なくありません。しかし、抽象的思考や判断力の低下は、最も初期から認められます。また、対人関係において常道的な態度をとることもあって、社会的な活動はもとより、周囲に対して適切な態度をとることができなくなります。
    初期にはそれまで獲得している日常生活上での技能(自動車の運転など)は残っていますが、トラブルを生じたときに自主的な判断で切り抜けるといったことはできなくなります。しだいに記銘力の低下や健忘が、特有な人柄の変化と相まって、認知症の病像を呈するようになります。しかし、注意力や記銘力は後期においてもかなり残っていることが少なくありません。そのため、前頭側頭型認知症は、記憶よりも言語面で目立つ認知症と表現されることもあります。
  • 精神病様症状:
    神経衰弱様の症状が前駆期に見られることがあります。また、自閉的で無関心な対人的態度や反社会的と周囲から受けとめられるような行為から、統合失調症を疑われることもあります。ただ幻覚妄想を見ることは多くありません。
    精神病様症状としては、進行麻痺様症状、統合失調症破瓜様症状、衝動行為を伴う妄想状態、不安でうつ気分を帯びた状態、強迫症状、身体的影響感情などが知られます。後期になると、自発性の低下が目立ち横臥がちとなります。末期には精神荒廃状態となり、原始反射をともなって無動無言状態となることもあります。

まず、中核的特徴である「社会的対人行動の早期からの障害」「自己行動の統制の障害が早期から」「情意の鈍麻が早期から」「洞察力の欠如が早期から」見られるのがわかりますね。

BPSDが普段から接している人との関係などによって症状の現れ方が異なるという前提を踏まえれば、前頭側頭型認知症というパーソナリティ変化などが早期から生じやすい病態では、早期からBPSDが確認できると言ってよいでしょう。

以上より、選択肢④は不適切と判断でき、選択肢②が適切と判断できます。

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