公認心理師 2019-47

問47はアレキシサイミアに関する内容です。
心身症自体に関しては2018-129で、心身症の枠組みに含まれるタイプA行動パターンは2018追加-130で出題があります。

問47 アレキシサイミア傾向の高い心身症患者の特徴について、正しいものを1つ選べ。
①身体症状より気分の変化を訴える。
②ストレスを自覚しにくいことが多い。
③身体症状を言葉で表現することが難しい。
④空想や抽象的な内容の夢を語ることが多い。

心身症という一つの症候として捉えることも大切ですが、多くのクライエントに見受けられる「傾向」とも言えます。
よって、きちんと把握しておくことが臨床実践上も有用です。

心身症やその範疇に入る症候について把握するのに成田善弘先生の書籍が有用です。
と言っても、かなり古い本になってしまいます(紹介用のブログパーツも作れないほど)。
ですが、成田先生の著作では歴史的な面やその臨床知見も特定の学派に偏ることなく述べてくださるので、理論的なことを学ぶ上でも非常に役立ちます。

解答のポイント

アレキシサイミア概念について把握していること。

アレキシサイミア

ここではアレキシサイミアに関する歴史から入り、その特徴についてまとめていきたいと思います。

その歴史的経緯

アレキシサイミアという用語は、アメリカの精神科医P.E.Sifneosによって紹介され、1972年のシフネオスの著書「短期精神療法と情動的危機」によってはじめて活字化されました。
シフネオス自身はもともと精神分析医(精神分析学を専門とし、それを治療的に用いている医師)であり、力動的短期精神療法の提唱者です。

シフネオスはさまざまな心身症患者に寝椅子を用いて自由連想を行う精神分析治療を行い、そこで彼らに特有の心理的特徴を見出しました。
すなわち、彼らが情動を言語的に表現するのに著しい困難があること、空想生活に欠けていること、操作的タイプの思考つまり現実的具体的な詳細にかかずらい内的体験を表出しない話し方をすることを見出しました。
こういう特徴を記述するのにアレキシサイミアalexithymiaという用語を作りました。

シフネオスは、この言葉はギリシャ語に由来するとし「a=lack=欠如」「lexis=word=言葉」「thymos=emotion=情動」という意味だとしています(日本にこの概念が入ってきたとき、「word」のところを「work」と誤訳したため一時期混乱が生じました)。
文字通りには「情動を表す言葉の欠如」ということですね。
(ただし、alexithymiaというギリシャ語は無いという意見もあるが)

こうしたアレキシサイミアという用語は、心身症患者に対して多くの臨床家が抱いていた印象とよく合致し、それを明確に言語化したものとして広く世界の臨床家や研究者に受け入れられました。

日本における心身医学の先駆者は池見酉次郎先生です(フォーカシングで有名な池見先生ではありませんよ、念のため)。
池見先生はアレキシサイミアの訳語として「失感情症」を導入しましたが、日本では言語のまま用いられることが多いです。
要するに感情を言葉で表現することの障害、ということですね。

なお心身症患者には、感情だけでなく身体感覚についても主観的に体験しにくい人が多いです。
例えば、摂食障害患者は身体の衰弱感や疲労感をなかなか訴えず、糖尿病患者の中には血糖値が1000以上になっても自覚症状が訴えない人もいます。
こういう特徴を池見先生は「失体感症」「失身体感覚症」と呼んでいます。

アレキシサイミアの判定

そもそもアレキシサイミアという用語は、自由連想法による精神分析を行うときに、患者が示す態度について治療者が抱く印象を記述し、それを整理して概念化したものです。
要するに面接者が患者から受ける印象に由来するもので、対人関係の場でコミュニケーションの特徴あるいは障害として捉えたものです。
面接者の主観に由来するものですから、一種の逆転移として捉えることも可能ということですね。

シフネオスは質問紙法により何人かの精神科医から回答を求めています。
その質問は17項目で、そのうち8項目がアレキシサイミアと関連する鍵質問と指定されています(以下の通りです)。

  • 感情よりも事実関係を細部にわたってくどくど述べる。
  • 適切な言葉を用いて情動を記述する(逆転項目)。
  • 豊かな想像力をもっている(逆転項目)。
  • 行動によって情動を表現する。
  • 行動によって葛藤を回避する。
  • 感情よりも、むしろ出来事をとりまく状況について述べる傾向がある。
  • 気持ちの通じ合いが困難。
  • 思考内容が想像や情動よりも、むしろ外面的な出来事に由来している。
この項目を用いての検証の結果、アレキシサイミアは心身症患者に特徴的ではあるが、神経症やその他の問題でも見られると結論づけています。
このようにアレキシサイミアという現象は、もともと面接者の印象に由来するものであったが、面接者に対してではなく患者に対する質問紙法によってその存在を確認するようになりました。
要は主観的印象だったものが、いつの間にか患者に固有に存在する特徴としてみられるように変わってきているということで、この点は臨床実践上留意すべきことだと思われます。
成田先生は、アレキシサイミアという現象は、あくまでもコミュニケーションの問題として、コミュニケーションの中で治療者のもつ印象であると捉えた方が良いことを明言しています(成田先生が「症状」と言わず「現象」というのはそういうこと)。
関係の質によっては、同一の患者が必ずしもアレキシサイミックでなくなることがあるためということです。

現代におけるアレキシサイミアの特徴

アレキシサイミアの概念は研究者の間で検討されて、現在では以下の特徴としてまとめられました。

  1. 自分の感情がどのようなものであるか言葉で表したり、情動が喚起されたことによってもたらされる感情と身体の感覚とを区別したりすることが困難である。
  2. 感情を他人に言葉で示すことが困難である。
  3. 貧弱な空想力から証明されるように、想像力が制限されている。
  4. (自己の内面よりも)刺激に結びついた外的な事実へ関心が向かう認知スタイル。

こうした特徴に関して、興味深いことに最近の脳科学研究から、自分の内的な感情に気づき・表すことと、自分とは一端離れた視点(他人の視点に立つ)を持つこと=自分を客体化できることとが、実は密接に関係していることがわかってきました。
感情の気づきの問題は共感性、また想像力・空想力などとも大いに関連しているのです。
自分の感情の微妙な変化に気づき言葉に出来ることは、彩り豊かな精神生活を送りスムーズな対人関係を築くことにもつながっていると言うわけです。

二次性アレキシサイミア

極めてストレスフルな状況に曝されることへの反応としてアレキシサイミアが生じるとされています。
慢性腎不全を起こして人工透析が導入されている患者にアレキシサイミアの傾向が見られることが観察されており、アレキシサイミアを心身症の素因としてみられる一次性のものと、透析という極限状況により、あるいは長期透析に曝されることにより生じる二次性のものに分類されています。
自己の身体に関する気づきが乏しいアレキシサイミアの傾向のために、透析導入期における水分制限などの自己管理が適切に行われず、身体合併症の誘発や増悪を生じている可能性が指摘されています。
透析の他にも、ICUの患者、ガン末期の患者などの極限・限界状況におかれた患者にもアレキシサイミアが見られます。
ここには自己の重篤な身体状態、生命予後の悪さなどを否認しようとする心理機制が働いていると考えられています。

以上がアレキシサイミアの概観となります。
これらを前提にしつつ、各選択肢の検証に入っていきましょう。

選択肢の解説

①身体症状より気分の変化を訴える。

こちらは実際と逆のことが記載されていますね。
気分の変化という内的なものへの認識が乏しいことがアレキシサイミアの特徴と言えます
よって、選択肢①は誤りと判断できます。

②ストレスを自覚しにくいことが多い。

ストレスという内的な感覚やそれに伴う感情に対する認識が乏しいことが、アレキシサイミアの大きな特徴の一つです
「言葉を持たない」のではなく「自覚ができないから言葉にならない」ということですね。

よって、選択肢②が正しいと判断できます。

③身体症状を言葉で表現することが難しい。

「情動が喚起されたことによってもたらされる感情と身体の感覚とを区別したりすることが困難」とされていますので、こちらの選択肢は否定されます。
言葉で表現することが難しいのは「情動」であって、身体症状ではありません。

身体症状を「主観的に体験しにくい」という特徴はありますが、これは「言葉で表現することが難しい」ということとは異なります。
あくまでも身体症状による体験=苦しみ等を言語的に表現することが難しいということです

以上より、選択肢③は誤りと判断できます。

④空想や抽象的な内容の夢を語ることが多い。

こちらも「貧弱な空想力から証明されるように、想像力が制限されている」という特徴や「豊かな想像力をもっている(逆転項目)」というシフネオスの考え方に沿っていないことがわかります
ちなみにシフネオスは「空想力の貧困」を第一の特徴として挙げているほどです。

以上より、選択肢④は誤りと判断できます。

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