公認心理師 2019-124

問124はギャンブル依存、病的ギャンブリングに関する問題です。
支援者としての基本的な理解で解くことが可能な問題内容になっています。
依存症治療を「意思の強弱」で片づける支援者はさすがにいないと信じたいところですね。
2018-94の選択肢⑤で一度出題がありますね。

問124 ギャンブル等依存症について、正しいものを1つ選べ。
①本人の意思が弱いために生じる。
②パーソナリティ障害との併存はまれである。
③自助グループに参加することの効果は乏しい。
④虐待、自殺、犯罪などの問題と密接に関連している。

依存症治療を行ったことがある人なら理解できると思いますが、ギャンブル依存や薬物依存、アルコール依存の治療はなかなか難しい面があります。
基本的に「早期発見」がなされにくく、治療機関を訪れるまでの間に本人や家族が疲弊しきっていることも少なくありません(その辺はWHOが障害と位置づけた「ゲーム障害」と異なる点かもしれませんね)。
彼らには欲求不満解消手段として「即時全部実現」を求めるという傾向があり、長い時間をかけての治療がその傾向とそぐわないという面も少なからずあるでしょう。

とりあえず、ギャンブル障害(DSM-5)の基準は押さえておきましょう。
臨床的に意味のある機能障害または苦痛を引き起こすに至る持続的かつ反復性の問題賭博行動で、その人が過去12カ月に以下のうち4つ(またはそれ以上)を示している。

  1. 興奮を得たいがために、掛け金の額を増やして賭博をする要求。
  2. 賭博をするのを中断したり、または中止すると落ち着かなくなる、またはいらだつ。
  3. 賭博をするのを制限する、減らす、または中止するなどの努力を繰り返し成功しなかったことがある。
  4. しばしば賭博に心を奪われている(例:過去の賭博体験を再体験すること、ハンディをつけること、または次の賭けの計画を立てること、賭博をするための金銭を得る方法を考えていること、を絶えず考えている)。
  5. 苦痛の気分(例:無気力、罪悪感、不安、抑うつ)のときに、賭博をすることが多い。
  6. 賭博で金をすった後、別の日にそれを取り戻しに帰ってくることが多い(失った金を「深追いする」)。
  7. 賭博へののめり込みを隠すために、嘘をつく。
  8. 賭博のために、重要な人間関係、仕事、教育、または職業上の機会を危険にさらし、または失ったことがある。
  9. 賭博によって引き起こされた絶望的な経済状況を免れるために、他人に金を出してくれるよう頼む。

これらの内容はギャンブル依存ではよく見られるものですね。
借金と虚言があり、周囲も(おそらくは本人も)疲れ切ってしまうことが多いです。

解答のポイント

ギャンブル依存に関する基本的な理解があること。

選択肢の解説

①本人の意思が弱いために生じる。

いったんギャンブル依存になってしまうと、ほとんど自然治癒は困難となります。
ギャンブル依存者がギャンブルを開始するのは20歳前後であり、少しずつ進行していき、7~8年で借金が始まることが多いです。
通常、結婚するとギャンブル熱は高まり、子どもが産まれるとさらにギャンブルにのめり込むことが多いです。
この辺は社会的責任等の圧力が関係しているのかもしれません(彼らは、そういった圧力を人一倍感じやすい人たちだと思います)。

早晩、家庭生活にひびが入り、別居や離婚に至りやすいです。
別居や離婚に至らず、例えば、借金の肩代わりを家族が行うとギャンブル依存はさらに重症化します(この辺は依存対象を選ばない、共通した事象かもしれないですね)。
誓約書などを書かせて、親族が借金の尻拭いをするという対応策がよく行われますが、ギャンブルを止めているのは数か月で、やがて再開され、しかももっと激しくなる傾向にあります。
この段階において、ギャンブル依存者にはもはや「意思」は働かないと見た方が良いです

彼らがギャンブルにのめり込むには必ず何らかのメリットがあります。
日々の大変な仕事の憂さ晴らし、疲れのリセット、対人関係上の緊張の緩和、嫌な気持ちを忘れるためなどなどです。
ですが、これらのためにギャンブルにのめり込む中で、彼らの価値観の序列が変化し、ギャンブルが自分がもともと大切だったものよりも上位に位置してしまうようになります。
こうなってしまうと、ギャンブルを中心とした思考・生活が展開されるようになってしまい、それを中心とした対人関係が築かれていってしまうことも少なくありません。
このようにギャンブルにコントロールされた生活を続けることで、それを中心とした世界が築かれてしまい、本人の意思さえもギャンブルの支配下に置かれた状態になってしまいます

以上のように、ギャンブル依存に限らずですが、依存症を「意思の強弱」によって出現するか否かを論じるのは専門家としてナンセンスであると言えます
特に依存症者が、我々のような支援者の前に現れるタイミングは「すでにある程度、依存状態が維持されている」という場合が多いことも思い合せておく必要がありますね。
このタイミングにおいて「意思うんぬん」を治療の場に持ち出すのは、百害あって一利なしと言えると思います。
よって、選択肢①は誤りと判断できます。

②パーソナリティ障害との併存はまれである。

ギャンブル依存には精神疾患の合併が多く、ニコチン依存を含む物質使用障害、アルコール使用障害、パーソナリティ障害、気分障害、不安障害が多いとされています
その割合は調査によって異なるが、ある調査では62.3%に精神科合併症が見られ、その内訳はパーソナリティ障害が最多(42.0%)で、アルコール乱用または依存(33.3%)、適応障害(17.4%)の順でした
この調査では、精神科合併症のあるギャンブル依存はギャンブル依存そのものも重症であると報告しています。

このうち本選択肢と絡んでくるパーソナリティ障害の合併率ですが、25~93%と報告によって大きく異なります
合併するパーソナリティ障害は、境界性パーソナリティ障害は3~70%、自己愛性パーソナリティ障害は5~57%、回避性パーソナリティ障害は5~50%、強迫性パーソナリティ障害は5~59%とされています。

そのなかでも反社会性パーソナリティ障害が最もよく調査されています(選択肢④にもありますが、犯罪との関連も深いためでしょう)。
反社会性パーソナリティ障害の合併率は治療を求めるギャンブル依存では14.6%なのに対して、そうでない場合には40%の合併が見られました。
これは一般住民の中の反社会性パーソナリティ障害の割合(0.6~3%)と比較すると相当高いと言えます。
その理由としてギャンブル依存と反社会性パーソナリティ障害には共通した遺伝因子があるという説もあります。

いずれにせよ、ギャンブル依存とパーソナリティ障害との合併は多いと見なして良いでしょう。
以上より、選択肢②は誤りと判断できます。

③自助グループに参加することの効果は乏しい。

ギャンブル依存の有効な治療法の一つが自助グループへの参加とされています
自助グループは当事者の集まりであり、そこは病的ギャンブラーが一番嫌う非難を含んだ助言や叱責が無い場所です。
ギャンブル依存の代表的な自助グループがGA(Gamblers Anonymous)です。
世界で最初に創設されたのは1957年のアメリカで、半世紀の歴史を有しています。

GAではたいていの参加者がアノニマスネーム(匿名)を使い、アルコール依存症の自助グループであるAAの12ステップを病的ギャンブリング用に改変したテキストを使います。
テキストを使わず「過去を振り返って」「仲間との出会い」などの具体的なテーマに沿ってミーティングする場合もあります。
1回の長さは90分~120分で、各人が次々と自分の心情と現状を話します。
そこにはコメントも助言も忠告も入りません。
徹底して、聞きっぱなしで言いっぱなしのミーティングとされています。
これによって、患者に内在する自然治癒力が目をさまし、賦活されるとされています。

この「聞きっぱなしで言いっぱなし」の中でいろいろ変化が出てくるということが指摘されています。
例えば、最初は聞いていても「俺はそこまで悪くなってない」などのように、自分のマシなところ、自分とは違うところに目が向きがちだったのが、徐々に否認が緩み、「自分も同じように考えていた」などと思うようになります。
その段階になると、ミーティング参加者の言葉は自分を映す鏡として機能するようになり、それまで気づかなかった自身を客観視し、自身の問題の自覚を促すという形になりやすいのです

重要なのは、この種の自助グループの効果は、1週間しか続かないという点です(ちなみに交通安全の講習の効果は3か月とされています。一般的な研修の効果もそれくらいではないかなと思いますね)。
5年ギャンブルをやめていても、自助グループへの参加を止めると、ギャンブルが再開されることも少なくありません。
従って、最低週に1度、自助グループに通うことが重要です。

GAの最終的な目標は人間性の回復です。
具体的には、思いやり、寛容、正直、謙虚を身につけることであり、そうなると無理なくギャンブルのない生き方ができるという考え方を持っています。

もちろん、自助グループの効果がある人ない人もいるでしょう。
何よりも自助グループの雰囲気を「気に入るか否か」が重要な気がします。
気に入れば自助グループの恩恵にあずかることもできるかもしれないですが、そうでない場合でも別の選択肢で治療をしていくことになるでしょう。

以上より、選択肢③は誤りと判断できます。

④虐待、自殺、犯罪などの問題と密接に関連している。

ギャンブル依存の心理社会的因子として、15歳になる前に両親を死別、離婚などによって失うこと、不適切な親の躾(親の不在、一貫性のない言動又は厳しすぎる)、未成年のときに賭博に接すること、家族が物質的・金銭的な傾向が強いこと、家族が貯蓄やお金を計画的に使うことや予算を立てることを重要視しないことなどが挙げられています。

ギャンブル依存と暴力被害との関連についてはカナダの調査があります。
それによると約1/3が性的虐待を受けた経験があり、半数は身体的虐待、2/3は心理的虐待を受けた経験があると回答しています。
このような調査結果は、暴力被害もギャンブル依存の形成に何らかの役割を果たしている可能性があるということになるでしょう

もちろん、ギャンブル依存によって虐待加害者になることも多いでしょう
先述のように家計を顧みないような行動、借金の繰り返しは、家庭環境に明確な打撃を与えます。
家庭不和を招き、虐待の生じやすい環境を構築してしまうと言えるでしょう

また、先述のようにギャンブル依存は精神疾患との併存が多いですが、気分障害の合併は34~78%とされています。
ギャンブル依存の7割以上が少なくとも1回の大うつ病、約半数は反復性の大うつ病の既往を持ち、自殺企図率も高いとされています。
治療を求めるギャンブル依存者の調査では、48%が自殺を考えたことがあると回答し、自殺未遂にも関連しています。
GAでの調査では17~24%が自殺企図の経験があるということです

更に、非行や犯罪はギャンブル依存のリスク因子であると同時にギャンブル依存が深刻化した結果でもあります
未成年者を対象とした調査では、ギャンブル依存と非行の関連を示唆する複数の報告があります。
アルゼンチンのGAに通うギャンブル依存で今までに少なくとも1回以上犯罪行為を行ったものは77%であり、8%は拘留され、4.9%は収監された経験があります(お国柄もあるのかもしれないですけどね)。
別の調査でも電話相談したギャンブラーの32%はギャンブルに関係した違法行為の経験があるということです。

衝動性はギャンブル依存と関連する要因であり、ギャンブル依存は衝動性を介して犯罪行為と関連します。
反社会性パーソナリティ障害との関連の深さは前述の通りですね

以上より、選択肢④は正しいと判断できます。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です