公認心理師 2018-153

28歳の女性A、会社員の事例です。

事例の内容は以下の通りです。

  • 3か月前に夜遅く一人で歩いていたところ、強制性交罪(強姦)の被害に遭った。
  • その後、気がつくと事件のことを考えていたり、いらいらしてささいなことで怒るようになった。
  • 仕事にも集中できずミスが目立つようになり、上司から心配されるまでになった。
  • 「自分はどうして事件に巻き込まれたのか。こんな私だから事件に遭ったのだろう」
  • 「後ろから足音が聞こえてくると怖くなる」
  • 「上司も私を襲ってくるかもしれない」などと思うようになった。
選択肢の中から、Aに認められない症状として、正しいものを1つ選ぶ問題です。
こちらの事例については、まず、PTSDであると見立てることが求められます。
PTSDの診断基準に照らして、事例の記述がどの症状に該当するのかを結び付けられることが重要です。
PTSDやDSM-5になっての変更点については、以前の記事でまとめてありますのでご参照ください。
PTSDの診断基準Aは、以下のようになっております。
A.実際にまたは危うく死ぬ、重症を負う、性的暴力を受ける出来事への、以下のいずれか1つ(またはそれ以上)の形による曝露:
  1. 心的外傷的出来事を直接体験する。
  2. 他人に起こった出来事を直に目撃する。
  3. 近親者または親しい友人に起こった心的外傷的出来事を耳にする。家族または友人が実際に死んだ出来事または危うく死にそうだった出来事の場合、それは暴力的なものまたは偶発的なものでなくてはならない。
  4. 心的外傷的出来事の強い不快感をいだく細部に、繰り返しまたは極端に曝露される体験をする。
    (例:遺体を収容する緊急対応要員、児童虐待の詳細に繰り返し曝露される警官)。
    注:基準A4は、仕事に関連するものでない限り、電子媒体、テレビ、映像、または写真による曝露には適用されない。
上記の基準に事例Aは該当していると捉えることができます。
また上記以外の以下の基準も満たしています。
  • F. 障害(基準B、C、DおよびE)の持続が1ヵ月以上:
    →事例では「3か月前」の出来事の後となっていて、該当すると推測できます。
  • G.その障害は、臨床的に意味のある苦痛、または両親や同胞、仲間、他の養育者との関係や学校活動における機能の障害を引き起こしている。
    →事例では「上司から心配されるまでになった」とされており、該当すると推測できます。
こうしたPTSDの基準を満たしている可能性が高いことを踏まえ、各選択肢の症状の確認を行っていくことが大切です。

解答のポイント

PTSDの診断基準を把握していること。
事例の症状が、診断基準のどれに該当するか繋げることができる。

選択肢の解説

『①侵入症状』

まずはDSM-5の「侵入症状」を見ていきましょう。
B.心的外傷的出来事の後に始まる、その心的外傷的出来事に関連した、以下のいずれか1つ(またはそれ以上)の侵入症状の存在。
  1. 心的外傷的出来事の反復的、不随意的、および侵入的で苦痛な記憶
  2. 夢の内容と情動またはそのいずれかが心的外傷的出来事に関連している、反復的で苦痛な夢
  3. 心的外傷的出来事が再び起こっているように感じる、またはそのように行動する解離症状(例:フラッシュバック)(このような反応は1つの連続体として生じ、非常に極端な場合は現実の状況への認識を完全に喪失するという形で現れる)。
  4. 心的外傷的出来事の側面を象徴するまたはそれに類似する、内的または外的なきっかけに曝露された際の強烈なまたは遷延する心理的苦痛
  5. 心的外傷的出来事の側面を象徴するまたはそれに類似する、内的または外的なきっかけに対する顕著な生理学的反応。
事例の「気がつくと事件のことを考えていたり」については「基準1」に該当すると思われます
更に、「後ろから足音が聞こえてくると怖くなる」は「基準4」になると思われます。
よって、Aには侵入症状が認められるので、選択肢①は除外する必要があります。

『②回避症状』

まずはDSM-5の「回避症状」を見ていきましょう。
C.心的外傷的出来事に関連する刺激の持続的回避、心的外傷的出来事の後に始まり、以下のいずれか1つまたは両方で示される。
  1. 心的外傷的出来事についての、または密接に関連する苦痛な記憶、思考、または感情の回避、または回避しようとする努力。
  2. 心的外傷的出来事についての、または密接に関連する苦痛な記憶、思考、または感情を呼び起こすことに結びつくもの(人、場所、会話、行動、物、状況)を回避しようとする努力。
事例を読む限り、Aが回避や回避の努力をしている箇所は見受けられません
「上司も私を襲ってくるかもしれない」と「思うようになった」とありますが、こちらは回避症状ではないと判断できます。
以上より、選択肢②は症状として認められないため、こちらを選ぶ必要があります。

『③覚醒度と反応性の変化』

まずはDSM-5の「覚醒度と反応性の変化」を見ていきましょう。
E.診断ガイドラインと関連した、覚醒度と反応性の著しい変化。心的外傷的出来事の後に発現または悪化し、以下のいずれか2つ(またはそれ以上)で示される。
  1. 人や物に対する言語的または肉体的な攻撃性で通常示される、(ほとんど挑発なしでの)いらだたしさと激しい怒り
  2. 無謀なまたは自己破壊的な行動
  3. 過度の警戒心
  4. 過剰な驚愕反応
  5. 集中困難
  6. 睡眠障害(例:入眠や睡眠維持の困難、または浅い眠り)
事例には診断基準と重なる部分が見受けられます。
「いらいらしてささいなことで怒るようになった」は上記の「基準1」に、「仕事にも集中できずミスが目立つようになり」は上記の「基準5」に該当すると考えられます。
以上より、Aには覚醒度と反応性の変化が認められるので、選択肢③は除外する必要があります。

『④認知と気分の陰性変化』

まずはDSM-5の「認知と気分の陰性変化」を見ていきましょう。
D.心的外傷的出来事に関連した認知と気分の陰性の変化。心的外傷的出来事の後に発現または悪化し、以下のいずれか2つ(またはそれ以上)で示される。
  1. 心的外傷的出来事の重要な側面の想起不能(通常は解離性健忘によるものであり、頭部外傷やアルコール、または薬物など他の要因によるものではない)。
  2. 自分自身や他者、世界に対する持続的で過剰に否定的な信念や予想(例:「私が悪い」、「誰も信用できない」、「世界は徹底的に危険だ」、「私の全神経系は永久に破壊された」)
  3. 自分自身や他者への非難につながる、心的外傷的出来事の原因や結果についての持続的でゆがんだ認識
  4. 持続的な陰性の感情状態(例:恐怖、戦慄、怒り、罪悪感、または恥)。
  5. 重要な活動への関心または参加の著しい減退。
  6. 他者から孤立している、または疎遠になっている感覚。
  7. 陽性の過剰を体験することが持続的にできないこと(例:幸福や満足、愛情を感じることができないこと)。
事例には診断基準と重なる箇所が見受けられます。
「自分はどうして事件に巻き込まれたのか。こんな私だから事件に遭ったのだろう」については「基準3」が該当します。
更に「上司も私を襲ってくるかもしれない」は「基準2」が該当すると考えられます。
以上より、Aには認知と気分の陰性変化が認められるので、選択肢④は除外する必要があります。
少し、こうした認知と気分の陰性変化がなぜ生じるのかを考えてみたいと思います。
自分の人生に一貫性を保とうとするという特徴が、人間には備わっています。
それまでの自分の人生のナラティブとは矛盾するような体験については、それをどうにかして自分のナラティブに落とし込んで一貫性を保とうとする力動が働きやすく、それが「自分が悪い」という認知につながりますし、その認知により「私は襲われるような人間である」という認識に至ると考えられます。
強制性交に遭った人が、その後、薄着で夜中に出歩くなどの行動に出る背景には、「私はこういう人間なんだから、ああいう目に遭うのは矛盾がないことなんだ」という一貫性の保持が働いているように感じられることが少なくありません。

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