公認心理師 2018追加-77

36歳の男性A、会社員の事例です。

事例の内容は以下の通りです。

  • 3年ほど前から、外出する際に戸締りやガスの元栓を閉めたかが気になって何回も確認するようになった。
  • そのため、最近は外出するのに非常に時間がかかる。
  • また、車を運転しているときに人をひいたのではないかと気になって、頻繁に道路を確かめる。
  • Aは、これらの行為が不合理なものと認識しており、行為をやめたいと思っているが、やめられない。
  • そのほかには思考や行動に明らかな異常はなく、就労を継続している。
Aに対する治療法として、適切なものを2つ選ぶ問題です。
まずこの男性Aが強迫性障害であることは、だいたい理解できると思います。
診断基準で関連のある部分を挙げておくと以下の通りです。
【A. 強迫観念、強迫行為、またはその両方の存在】

強迫観念は以下によって定義される:
  1. 繰り返される特徴的な思考、衝動、またはイメージで、それは障害中の一時期には侵入的で不適切なものとして体験されており、たいていの人においてそれは強い不安や苦痛の原因となる。
  2. その人はその思考、衝動、またはイメージを無視したり抑え込もうとしたり、または何か他の思考や行動(例:強迫行為を行うなど)によって中和しようと試みる。
強迫行為は以下によって定義される:
  1. 繰り返しの行動(例:手を洗う、順番に並べる、確認する)または心の中の行為(例:祈る、数える、声に出さずに言葉を繰り返す)であり、その人は強迫観念に対して、または厳密に適用しなくてはいけないある決まりに従ってそれらの行為を行うよう駆り立てられているように感じている。
  2. その行動または心の中の行為は、不安または苦痛を避けるかまたは緩和すること、または何か恐ろしい出来事や状況を避けることを目的としている。しかしその行動または心の中の行為は、それによって中和したり予防したりしようとしていることとは現実的な意味ではつながりをもたず、または明らかに過剰である。
【B. 強迫観念または強迫行為は時間を浪費させる(1日1時間以上かける)。または臨床的に意味のある苦痛、または社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている】
【該当すれば特定せよ】
  • 病識が十分または概ね十分:
    その人は強迫症の信念がまったく、またはおそらく正しくない、あるいは正しいかもしれないし、正しくないかもしれないと認識している。
  • 病識が不十分:
    その人は強迫症の信念がおそらく正しいと思っている。
  • 病識が欠如した妄想的な信念を伴う:
    その人は強迫症の信念は正しいと完全に確信している。
事例は上記の診断基準を満たしていると考えられ、強迫性障害であることを前提に解いていくことが求められています。
本問は強迫性障害への効果的な治療法について把握していることを問うているといえます。

解答のポイント

事例が強迫性障害である前提で解いていくことができる。
強迫性障害に効果的な治療法について把握していること。

選択肢の解説

『①行動療法』
『②自律訓練法』

強迫性障害に対して効果が高いとされているのは行動療法であり、その中でも治療技法として曝露反応妨害法が有効とされています
公認心理師2018-151には、それを前提として強迫性障害に適切な対応を問う内容が出題されており、正答は曝露反応妨害法の内容になっています。
強迫性障害への行動療法についてはさまざまな技法がありますが、すべてに共通しているのは「不安をこころの器に入れておき、対策をすぐに講じないようにする」ということです。
一種の「がまん療法」と言えますが、背景には「症状を自分でコントロールする(≒自分で自分をコントロールする)」という考えがあります。
強迫性障害者は、症状をコントロールしようと戦っており、それが逆に症状への著しいとらわれを生じさせていることが多いので、その戦う態度を和らげることが大切です。
「不安をこころの器に入れておき、対策をすぐに講じないようにする」という対応は、そのままでおいておくという形に近く、戦う姿勢とは一線を画すものになります。
類似の方法として、「はじめから2時間は手を洗うと決めて、それ以前に止めたくなっても必ず2時間は洗ってください」などと伝えることもあります。
こちらも症状に支配されている状態から、症状を支配する状態への移行を狙ったものと言えます。
上記の技法については、例えば「対策をすぐに講じないようにする」というのはマインドフルネスやフォーカシングにも見られる考え方ですし、手洗いの時間を決めて必ずそれは実施するというのもフランクルやミルトン・エリクソンが実践している技法と共通するところがあります。
さまざまな心理療法はありますが、その発祥の経緯は違っても支援のアプローチには自然と重なってくる面があります。
どこか山登りと似ており、ある心理療法が一番効率的とされている山もありますが、その心理療法が別の山でも効率的とは言えないわけです(けど、決して登れないわけではない)。
強迫性障害という山を最も登りやすいとされている心理療法は行動療法で間違いなく、特に曝露反応妨害法が有名であるということですね
もちろん、自律訓練法が効果的であるという知見も見つけることはできるとは思います。
しかし、自律訓練法が効果的な対象は行動療法に比べて狭いと考えられます
より軽症例が多いか、他の心理療法と組み合わせて用いられるような形で活用されています
自律訓練法一本で臨もうとすることは、富士山を海抜0メートルから登ろうとするような手間と苦労を要します。
それよりも車で5合目まで行って、そこから歩きはじめるような一番効率が良いアプローチ、ここでは行動療法を選択することがクライエントのためであると言えるでしょう。
カウンセラーがある心理療法や技法にこだわることもあって良いのですが、それがクライエントの福利となっているか否かはきちんと見極めねばなりません。
以上より、選択肢①が適切と言え、選択肢②は不適切と考えることができます。

『③非定型抗精神病薬』
『④ベンゾジアゼピン系抗不安薬』
『⑤選択的セロトニン再取り込み阻害薬〈SSRI〉』

強迫性障害の薬物療法には、強迫性障害の原因の1つと考えられている脳内のセロトニン系の異常を調整する働きを持つものを使用することになります
よって、強迫性障害に対する薬物療法の第一選択は、強力なセロトニン再取り込み阻害作用を有する抗うつ薬、すなわちSSRIとされています
SSRI=抗うつ薬というイメージをお持ちの方もおられると思いますが、上記の通り強迫性障害では、セロトニンを調整する働きが強い薬物の効果が大きいという報告が多いため治療では主にSSRIが使用されることになります。
これらの有効性は概ね同等で、いずれも副作用や効果を見ながら漸量し、2~3カ月かけ反応性を評価します。
SSRIを強迫性障害に使う量はうつ病に使う量より、場合によっては倍ぐらいに多くします(多くしないと効かない場合が多い)。
SSRIで十分な改善がみられないときには、少量の抗精神病薬を追加することが有効な場合もあります
強迫性障害ではドパミン神経調節機構の関与も示唆されており、SSRIに治療抵抗性を示す患者には、増強療法として、ドパミン阻害作用を有する非定型抗精神病薬の併用が確立されています(ただし、保険適応外使用)
古くから言われていることですが「強迫性障害が統合失調症の防波堤になっている」という考えがあります(ブロイラーの「仮面分裂病」、アリエッティの「回避された分裂病」など)。
ただ、現在では強迫性障害が統合失調症に移行することは少ないとされています。
ただし、鑑別が難しい例は多く見受けられます。
神田橋先生は、統合失調症の精神病世界がおさまりつつあるときに出てくる確認脅迫にはペロスピロン(ルーラン)が良いとしていますね。
不安が強い場合は慎重に、抗不安薬を用いることもあります。
抗不安薬はSSRIと併用してその場での不安を軽減させるために用いることがほとんどです
ベンゾジアゼピン系抗不安薬を第一選択にすることはないと言って良いでしょう
以上より、選択肢③および選択肢④は不適切と、選択肢⑤が適切と判断できます。

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