公認心理師 2018追加-133

統合失調症の特徴的な症状として、適切なものを2つ選ぶ問題です。

こうした問題で「でもその症状って別の病気でも見られるし」という反論は無意味です。
もちろんその意見自体は否定しませんが、外れ値について意見をし始めるとこういう問題は解くことができなくなります。
例えば、選択肢③の内容は統合失調症ほど特徴的ではないにせよ、思春期の事例にも多く見られます(現象としては)。
ただ、統合失調症ほど自我機能が障害されていないとも言えますね。

あくまでも「統合失調症に特に多く示される症状」を見極める力が問われている問題であると認識して解いていくことです。
内容としては、統合失調症に多い典型的な症状について示したものになっています。
きちんと押さえておきましょう。

解答のポイント

統合失調症の代表的症状の把握と、可能であればその力動的理解をしておくと望ましい。

選択肢の解説

『①複数の人物が自分の悪口を言っている声が聴こえる』

こちらは聴覚性幻覚=幻聴のことを指していると思われます

幻覚をはじめて1つの精神症状と見なしたのはエスキロール(1817)で、幻覚を「感覚器官が外的刺激を受けることなしに、ある知覚を体験したと確信すること」としました。
その後、20世紀になってヤスパースが幻覚およびその周辺現象について以下のように整理しました。

  1. 錯覚:
    ふつうの精神生活の中で日常的に生じる、感覚、知覚の誤りを言う。不注意によっても生じやすい。
  2. 幻覚(真性幻覚):
    ヤスパースは真性幻覚を、知覚の作り変えによって生じたものではなく、まったく新たに生じた知覚であるとした。
    真性幻覚では感覚性が明確(何を言われているかは結構曖昧だけど「声が聴こえる」と明白に述べる)にあり、かつその感覚の起源は明らかに外部世界にあり、かつ客観的な事実と受けとめられている。
  3. 偽幻覚(仮性幻覚):
    真性幻覚に対してその感覚性が明らかでなかったり、外部空間への定位性が曖昧で会ったり、また他にはその客観性について患者自身が半信半疑でいる場合など(「聞こえているわけではないが、わかる」など)。
    学者によって多少異なった使い方がされている概念でもある。
ヤスパースは、真性幻覚は知覚領域の異常現象であり、仮性幻覚は表象領域の異常現象であると明確に分けました。
ただし、このヤスパースの二分法は臨床的に妥当ではなく、真性幻覚と仮性幻覚の間に本質的な区別はつけられないとするジャネやシュレーダーの立場もあります。
ヤスパースの述べる真性幻覚の特徴は、
  • 実体性、実在性、客観性を患者自身が信じていること。体験している事柄が決して幻ではなく実体のあるものであり、客観的に実在していると確信している。
  • 外部空間への定位性をもつこと。その幻覚の源は外部世界にあるとされ、例えば視覚的な幻覚であれば、その場所や方向が指示できる。
  • 感覚性を明確にもつこと。知覚には活き活きとした感覚性がある。
ということになります。
もちろん、臨床的には判別が難しかったり、明確にそうは言えないぞという事例も多くあると思います。
とにかく、幻覚の知見の基本として押さえておきましょう。
こうした幻覚がよくみられる精神障害としては、器質性精神障害、精神作用性物質による中毒性精神障害、統合失調症とその関連精神病が挙げられます
気分障害や境界性パーソナリティ障害でも見られることはありますが、臨床上問題になるほどのものはふつうはありません。
統合失調症の幻覚は以下のような特徴を持ちます。
  1. 被害的内容の幻声が多い
    他者からの自我侵害性、被影響性、作為体験や離人症状と近縁の性質を帯びている。単なる音響の幻聴より人の声を聞くことが多く、しかも脅迫する、蔑視する、罵倒する、非難する、あるいは命令してくる内容が多い。褒めてくるようなものもないではないが、慢性化した不安の少ない時期に見られることが多い。急性期には被害的なものが多い。
  2. 偽幻覚が少なくないこと、むしろ多いこと:
    統合失調症の幻覚では、外部空間への定位性、感覚性が曖昧なことが多い。それなのに実在性、実体性だけは確固としている。また同じ人でも「ハッキリ外で声がする」こともあるし、「胸に響く」と言ったりするように、その時々で幻覚の外部定位性、感覚性については揺れ動く答えをする。
    病状がよくなって、幻覚が弱くなり消えそうになるとき、幻覚の特性が曖昧になるのはよく見られる。
  3. 二重見当識:
    こちらはブロイラーが指摘した。幻覚を体験しながら同時に、普通の感覚、知覚体験をも遂行している。
  4. 妄想との結びつき:
    統合失調症では一次妄想と幻覚が渾然と一つになっていることが多い。幻覚のようでもあるし、妄想のようでもある、という感じ。
  5. 独語と幻覚:
    統合失調症に限らないが、幻聴をもつ人が独り言を言うことは時々ある。幻声と対話している。
このような症状がありますが、やはり被害的内容が多いなどがかなりよく見られるものだと思います。
急性期には被害的内容の幻聴が多い、というのは臨床心理士でも一度出題された覚えがあります。
上記より、選択肢①は適切と判断できます。

『②過剰に悲観的で、自分は貧しく、破産すると信じている』

こちらはうつ病によく見られる妄想の一つ、貧困妄想のことを示しています。
抑うつ的妄想はいろいろですが、代表的なのが以下の通りです。
  • 貧困妄想:
    過度に貧しいと思い込む。貯金がたくさんあっても、破産するという思いから離れられない。
  • 罪業妄想:
    自分はひどい罪人であるというもの。「周りが心配してくれているのに、それに応えられずダメな人間だ」などのようなニュアンスのもの。自分に関係ないことまで自分の責任と感じるなど。
  • 心気妄想:
    自分は大きな病気にかかっているというもの。
これらについては、かねてからうつ病の特徴的な妄想とされていました
妄想主題による妄想の分類では、これらは微小妄想になります
微小妄想は、自殺とも関連しやすいとされていますね。
他にも被害妄想(関係、注察、被毒、追跡、嫉妬等)や誇大妄想(発明、血統、宗教、恋愛等)があります。
以上より、選択肢②は不適切と判断できます。

『③自分の考えが他人に伝わり、周囲に筒抜けになっていると思う』

自我機能はその研究者によって、その特徴が異なりますが、ここではヤスパースの挙げた自我の特徴について挙げていきます。
  1. 自我の能動性、活動性:
    わかりやすくいえば、「自分はここにいる」というはっきりとした意識(存在意識)であり、「自分は今考えている」という意識(実行意識)をもつ。命令されて嫌々ながらいる場合でも「私である」という意識はしっかりとある。
    私とは何ぞや、と悩んでも、それを悩んでいるのは自分であるという感覚は確然と自分の内にあり、それがふつうの自我の状態と言える。
  2. 自我の単一性:
    「自分の手も足も、自分の身体の一部である、私である」「私は一人の人間だ」という意識を指す。自己所属感とも言える。
  3. 自我の同一性:
    「昨日の私も今日の私も同じ私である」という意識、時間の流れのなかでずっと同一の自分が続いているという意識を指す。自我の同一性というよりも、自我の連続性というイメージと思った方がよい。
  4. 外界に対立する自我
    いわゆる自我境界を指している。「自分と他人とは別の人間」という意識のこと
自我に関するこれらの意識は、普段は自覚しなくても、振り返ってみれば疑いようもなく存在しています。
これらが障害されることによって、様々な症状が呈されます。
統合失調症症状の自我心理学的理解があります
上記のヤスパースの自我の特徴に沿って述べていきましょう。
能動性の障害については、統合失調症の典型的な症状である作為体験(させられ体験)があります。
自分の言動が、自分が行っているのではなく、ひとりでに行われたり、他人の意思によって操られていると感じる症状です。
単一性の障害として、ドッペルゲンガーという異常があります。
自分と同じ人間がもう一人いると、そばにもう一人の自分が歩いているのが見える、といった幻影のような体験です。
同一性の障害としては、「私が変わってしまった」という深刻な自分自身の不確実感、過去の自分と今の自分が同一人物ではないという感覚です。
離人感とも繋がりますね。
近年の統合失調症には比較的少ないとされています。
自我境界の希薄化として、自分と他人ないし外界との心理的境界が薄れ、自己の内的世界と外の現実世界との区別が曖昧になるという現象があります。
統合失調症に多い、関係妄想、被害妄想なども自我境界の希薄さによると考えられます。
選択肢にある内容はいわゆる「つつぬけ体験」ですが、最後の自我境界の希薄さによって生じるものと考えられます
自他の境界線が曖昧になるからこそ、自分の内にあるものが外界に漏れ伝わると考えてしまうわけです
以上より、選択肢③は適切と判断できます。

『④気分が高揚し、自信に満ちて、自分が世界の中心であると確信する』

躁状態では、感情の点では爽快で、意気揚々であり、安心、楽天的、誇大的、尊大、自信満々という状態になります
万能感が誇大妄想につながり、それが社会的逸脱行為になるなど周囲の人の苦慮感を高めます
いきなり家を購入してくるなど、家族からすれば大変な話です。
こうした感覚は、高揚した自我感情から発する願望や空想がそのまま異常に強く確信されたもので固定的ではありませんが、そのときに外れた行動を取りやすいので注意が必要となります。
選択肢の内容は、強い万能感やそれを背景にした誇大妄想のことを指していると思われます
そして、そうした事態は統合失調症ではなく、躁病に特に多く見受けられます
よって、選択肢③は不適切と判断できます。

『⑤思考の流れが速くなり、考えが次から次に浮かんできて、話題が一定せず、会話がまとまらない』

こちらは思考奔逸を指していると思われます。
躁気分とともに思考面でも抑制が取れて、思路に異常が生じます
観念が次から次へとほとばしりでて、話題は次から次へ移り、広がっていきます。
しばしば思考の目的がわからなくなります
内容の関連や単なる発音の類似によるつらなりで思路が進んでいくため、発語衝動が亢進しており、早口で多弁になりがちです。
こうした状態を「思考奔逸」と呼び、躁病のときに特徴的に見られるとされています
以上より、選択肢⑤は不適切と判断できます。

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