公認心理師 2020-105

本問は双極性障害に関する問題になっています。

問われている内容は、実は、かなり昔から議論されていた内容ですから、昔から関わっている人からすれば常識の範囲内であると言えます。

問105 双極性障害について、適切なものを1つ選べ。
① 遺伝的要因は、発症に関与しない。
② うつ病相は、躁病相よりも長く続く。
③ 自殺のリスクは、単極性うつ病よりも低い。
④ うつ病相に移行したら、気分安定薬を中止する。
⑤ 気分の変動に伴ってみられる妄想は、嫉妬妄想が多い。

解答のポイント

双極性障害の特徴や問題行動の頻度について理解している。

選択肢の解説

本問の解説で用いた書籍は以下になります。

個人的には神田橋先生の臨床精神医学に載っている「双極性障害の診断と治療」が好きです。

興味がある方がおられれば是非。

① 遺伝的要因は、発症に関与しない。

双極性障害はうつ病と比較すると遺伝しやすいと言われています。

双子の研究というのがあって、遺伝子が同じ一卵性双生児の場合には、二人とも双極性障害を発症する確率は36~80%です。

一方、遺伝子が同じではない二卵性双生児の場合には7~13%という確率が報告されています。

神田橋先生も、双極性障害は遺伝的要素が強いという認識を示されていますね。


躁うつ病は…、もともと気分屋で、気分本位にふわふわ、ひょこひょこ、いろいろするように生まれついている脳で、波がもともとある。それがある狭いところに閉じ込められると、もともとある波が大きくなってきて、生活に支障があるほどになると、病気ということになると考えると大体、病歴と合います。

躁うつ病は遺伝かどうか、まだはっきりしていないらしいですが、私はやっぱり遺伝だろうと思うんです。私はいい加減だから、「これは体質だから、遺伝です」と言い切るの。で、「あなたはこの体質を、お父さんの側から受け継いだか、お母さんの側から受け継いだか、どちらかだ。どっちかの方に、あなたと同じような波のある人がいるんじゃないかと思うけど」と言ってみるんです。これもまあ結構、いい線いきます。まあ6割ぐらいですかね。


確かに家族や親せきの中に、双極性障害を背景にした問題(双極性障害は「行動の人」なので、問題行動が見受けられる。行動の問題は、例えば、アルコール中毒やリストカットなど多岐にわたる)を示している率は高いと言えますから、私も遺伝が関与していると捉えて間違いないだろうと思っています。

ただし、一卵性双生児の研究から、双極性障害は、あるひとつの遺伝子があれば必ず発症するような「遺伝病」ではないことがわかっています(それひとつで双極性障害を起こしてしまうような原因遺伝子は、今のところ見つかっていない)。

おそらく、たくさんの遺伝子の個人差の組み合わせによって発症しやすくなったりすると考えられますが、大規模な研究でも、双極性障害になる危険を2倍以上にふやす遺伝子は、まだ見つかっていません。

親子で顔が似るということがあると思いますが、それは多くの顔のパーツを構成する遺伝子の組み合わせによって生じたものです。

それと同じように、複数の遺伝子が絡み合って双極性障害という状態を形作るのだろうと考えられます。

以上より、双極性障害は遺伝的要因が発症に関与すると言えます。

よって、選択肢①は不適切と判断できます。

② うつ病相は、躁病相よりも長く続く。

双極性障害はⅠ型とⅡ型があります。

Ⅰ型は躁病エピソードが優位であり、Ⅱ型は軽躁病エピソードが優位な型になっています。

まずはDSM-5で示されている各エピソードについて確認していきましょう。


【躁病エピソード】

A.気分が異常かつ持続的に高揚し、開放的または易怒的となる。加えて、異常にかつ持続的に亢進した目標指向性の活動または活力がある。このような普段とは異なる期間が、少なくとも1週間、ほぼ毎日、1日の大半において持続する(入院治療が必要な場合はいかなる期間でもよい)。

B.気分が障害され、活動または活力が亢進した期間中、以下の症状のうち3つ(またはそれ以上)(気分が易怒性のみの場合は4つ)が有意の差をもつほどに示され、普段の行動とは明らかに異なった変化を象徴している。

  1. 自尊心の肥大、または誇大
  2. 睡眠欲求の減少(例:3時間眠っただけで十分な休息がとれたと感じる)
  3. 普段より多弁であるか、しゃべり続けようとする切迫感
  4. 観念奔逸、またはいくつもの考えがせめぎ合っているといった主観的な体験
  5. 注意散漫(すなわち、注意があまりにも容易に、重要でないまたは関係のない外的刺激によって他に転じる)が報告される。または観察される。
  6. 目標指向性の活動(社会的、職場または学校内、性的のいずれか)の増加。または精神運動焦燥(すなわち、無意味な非目標指向性の活動)
  7. 困った結果になる可能性が高い活動に熱中すること(例:制御のきかない買いあさり、性的無分別、またはばかげた事業への投資などに専念すること)

C.この気分の障害は、社会的または職業的機能に著しい障害を引き起こしている、あるいは自分自身または他人に害を及ぼすことを防ぐため入院が必要であるほど重篤である、または精神病性の特徴を伴う。

D.本エピソード、物質(例:薬物乱用、医薬品、または他の治療)の生理学的作用、または他の医学的疾患によるものではない。

【軽躁病エピソード】

A.気分が異常かつ持続的に高揚し、開放的または易怒的となる。加えて、異常にかつ持続的に亢進した活動または活力のある、普段とは異なる期間が、少なくとも4日間、ほぼ毎日、1日の大半において持続する。

B.気分が障害され、かつ活力および活動が亢進した期間中、以下の症状のうち3つ(またはそれ以上)(気分が易怒性のみの場合は4つ)が持続しており、普段の行動とは明らかに異なった変化を示しており、それらは有意の差をもつほどに示されている。

  1. 自尊心の肥大、または誇大
  2. 睡眠欲求の減少(例:3時間眠っただけで十分な休息がとれたと感じる)
  3. 普段より多弁であるか、しゃべり続けようとする切迫感
  4. 観念奔逸、またはいくつもの考えがせめぎ合っているといった主観的な体験
  5. 注意散漫(すなわち、注意があまりにも容易に、重要でないまたは関係のない外的刺激によって他に転じる)が報告される。または観察される。
  6. 目標指向性の活動(社会的、職場または学校内、性的のいずれか)の増加。または精神運動焦燥
  7. 困った結果になる可能性が高い活動に熱中すること(例:制御のきかない買いあさり、性的無分別、またはばかげた事業への投資などに専念すること)

C.本エピソード中は、症状のない時のその人固有のものではないような、疑う余地のない機能的変化と関連する。

D.気分の障害や機能の変化は、他者から観察可能である。

E.本エピソード、社会的または職業的機能に著しい障害を引き起こしたり、または入院を必要としたりするほど重篤ではない、もし精神病性の特徴を伴えば、定義上、そのエピソードは躁病エピソードとなる。

F.本エピソードは、物質(例:薬物乱用、医薬品、あるいは他の治療)の生理学的作用によるものではない。

【抑うつエピソード】

A.以下の症状のうち5つ(またはそれ以上)が同じ2週間の間に存在し、病前の機能からの変化を起こしている。これらの症状のうち少なくとも1つは、(1)抑うつ気分、または(2)興味または喜びの喪失である。
注:明らかに他の医学的疾患に起因する症状は含まない。

  1. その人自身の言葉(例:悲しみ、空虚感、または絶望感を感じる)か、他者の観察(例:涙を流しているようにみる)によって示される、ほとんど1日中、ほとんど毎日の抑うつ気分。 (注:子どもや青年では易怒的な気分もありうる)
  2. ほとんど1日中、ほとんど毎日の、すべて、またはほとんどすべての活動における興味または喜びの著しい減退(その人の説明、または他者の観察によって示される)
  3. 食事療法をしていないのに、有意の体重減少、または体重増加(例:1ヵ月で体重の5%以上の変化)、またはほとんど毎日の食欲の減退または増加(注:子どもの場合、期待される体重増加がみられないことも考慮せよ)
  4. ほとんど毎日の不眠または過眠
  5. ほとんど毎日の精神運動焦燥または制止(他者によって観察可能で、ただ単に落ち着きがないとか、のろくなったという主観的でないもの)
  6. ほとんど毎日の疲労感、または気力の減退
  7. ほとんど毎日の無価値感、または過剰であるか不適切な罪責感(妄想的であることもある、単に自分をとがめること、または病気になったことに対する罪悪感ではない)
  8. 思考力や集中力の減退、または決断困難がほとんど毎日認められる(その人自身の言葉による、または他者によって観察される)
  9. 死についての反復思考(死の恐怖だけではない)。特別な計画はないが反復的な自殺念慮、または自殺企図、または自殺するためのはっきりとした計画

C.その症状は、臨床的に意味のある苦痛、または社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている。

D.そのエピソードは物質の生理学的作用、または他の医学的疾患によるものではない。


双極Ⅰ型障害と診断するためには、躁病エピソードの基準に該当することが必要です(軽躁病エピソードや抑うつエピソードが先行したり、後に続いたりはある)。

とにかく躁病エピソードがあれば双極Ⅰ型障害になるということですが、躁病エピソードのみで抑うつエピソードが存在しないということは滅多にありませんね。

一方、双極Ⅱ型障害と診断するためには、現在または過去に軽躁病エピソードの基準を満たした上で、現在または過去に抑うつエピソードの基準を満たすことが必要になります。

本選択肢で示されている「病相」という表現は、上記の「エピソード」が出ている期間という意味で捉えてよいでしょう。

「うつ病相」であれば「抑うつエピソードが出ている期間」ですし、「躁病相」であれば「躁病エピソードが出ている期間」ということです。

本選択肢では、このいずれの病相の方が長いかが問われています。

多くの場合、躁病エピソードは突然始まり、2週間~4、5ヵ月間ほど続き、持続期間の中央値は約4ヵ月です。

これに対して、抑うつエピソードの持続期間のさらに長く、中央値は約6ヵ月です。

期間には個人差がありますが、高齢者を除いて1年以上続くことはまれで、中年期以降になると、うつ病が起こりやすくかつ長引きやすくなります。

これらについては、DSM-5の基準でも躁病エピソードに「このような普段とは異なる期間が、少なくとも1週間、ほぼ毎日、1日の大半において持続する」とあるのに対し、抑うつエピソードでは「以下の症状のうち5つ(またはそれ以上)が同じ2週間の間に存在」とやや長く取っていますね。

さて、なぜこのような病相によって、その出現期間に差が出るのか考えてみましょう。

躁病エピソードでは、とんど寝ることなく動き回り続け、多弁になって家族や周囲の人に休む間もなくしゃべり続け、家族を疲労困憊させてしまいます。

仕事や勉強にはエネルギッシュに取り組むのですが、ひとつのことに集中できず、何ひとつ仕上げることができないなどの特徴が見られます。

ここからは素朴に考えてもらえばいいと思いますが、上記のような躁病エピソードの状態がずっと続くと、間違いなく生理的に疲弊するのは間違いないですよね。

また、抑うつエピソード中に比べると周囲に対して現実的な負担をかけるという側面もありますから、躁病エピソード中の方が環境が変わりやすい、トラブルが生じる等の要因もあって、病相の期間に差があるのかもしれません。

もちろん個人差の激しい話ですから一概には言えませんが、こうした要因が抑うつエピソードよりも躁病エピソードの方が若干短い要因になっているのかもしれません。

双極性障害では、最初の病相(うつ状態あるいは躁状態)から、次の病相まで5年くらいの間隔があります。

躁やうつが治まっている期間は何の症状もなく、まったく健常な状態になります。

しかし、この期間に薬を飲まないでいると、ほとんどの場合、繰り返し躁状態やうつ状態が起こります。治療がきちんとなされていないと、躁状態やうつ状態という病相の間隔はだんだん短くなっていき、しまいには急速交代型(年間に4回以上の病相があること)へと移行していきますし、薬も効きにくくなっていきます。

こうした病相の変化が経過によっては生じることも理解しておくことが大切ですね。

なお、双極性障害の約2/3の人が「うつ」から始まることがわかってきました。

「うつ」だけを数回繰り返したのちに、ある日突然、「躁」になるタイプがあり、最初 は「うつ病」と思っていたのに、実際には双極性障害だったというケースも少なくないようです。

このように、一般にうつ病相は躁病相よりも長く続くとされています。

よって、選択肢②が適切と判断できます。

③ 自殺のリスクは、単極性うつ病よりも低い。

双極性障害の自殺と、単極性うつ病の自殺の達成率の違いは昔から言われていますが、こちらは双極性障害の方がリスクが大きいです。

そもそも双極性障害は、精神障害のなかでも非常に自殺の危険性が高い疾患です。

この理由として考えられていることを挙げていきましょう。

まずは「躁」から「うつ」に転じたタイミングが最も危険とされていて、それは、「躁」の時の自分の行動を思い返し、激しく自分を責めて自己破壊的な行動に走ってしまうということです。

また、「躁」の症状と「うつ」の症状が同時期に入り混じって表れる「混合状態(気分は落ち込んでいるのに、焦る気持ちが生じて、じっとしていられない)」にある人も自殺率が高いと言われています(落ち込んだ状態での行動→自殺という流れかもしれませんね)。

他にも、自殺者は複数の著名なエピソード (職歴・経歴が不安定、驚くべき法的トラブル・不安障害や物質乱用の併発)を持ち合わせていることもあります(本人の生活が追い込まれている率が高かったり、周囲に迷惑をかけたという罪悪感も強い傾向がありますね)。

こうした傾向のため、双極性障害のなかでも双極Ⅰ型障害患者における自殺の危険率は非常に高く、一般人口の22倍に達しています。

双極性障害の自殺は、うつ病のそれと違って、「まず助からないだろう」という手段を選択する確率が高いです。

つまり、確かな意志のもとで死を選択しているという感じがあります。

これを説明する理屈として、双極性障害(特に双極Ⅱ型)は単極性うつ病と間違えられやすいという点が挙げられます。

双極Ⅱ型障害の軽躁状態は、躁状態のように周囲に迷惑をかけることはありません。

いつもとは人が変わったように元気で、短時間の睡眠でも平気で動き回り、明らかに「ハイだな」というふうに見えます。

いつもに比べて人間関係に積極的になりますが、少し行き過ぎという感じを受ける場合もあります。

しかし、言ってしまえば「そこまで」に過ぎませんから、本人にも周囲にもそれほど違和感なく「そういう人」と受け止められてしまっていることがあります。

そんな中で、彼らがうつ病相に入ったとき、そうした軽躁状態については明確な認識がないため軽躁に関しては言及されないこと、うつ病相の様子は単極性うつ病のそれと見分けがつきにくいこと、などが相まって、単極性うつ病と間違えられてしまいます。

うつ病相が終わって、ふつうの状態もしくは軽躁状態になったときには「治った」と思うことがほとんどですが、双極性障害ですからその後またうつ病相が出てきます。

こうした「治った」→「また再発した」の繰り返しをするうちに、徒労感や無力感が生じやすくなってしまいます。

このような状況での自殺は、明確な意思をもって「この世とおさらば」ということが多く、自殺の既遂率がぐっと上がる要因にもなっていると考えられます。

また、双極性障害を単極性うつ病と認識して治療してしまうと、処方する薬物にも問題が生じてきます。

まだはっきりしたことはわからないのですが、双極性障害の方が抗うつ薬を飲むと、アクティベーションシンドロームと呼ばれる、かえって焦燥感などが強まって悪化してしまう状態が起きやすいのではないか、と疑われています。

ですから、うつ病として治療を受けているけれど、過去に躁状態や軽躁状態があったかもしれないと考えて関わることが大切ですし、とくに「うつ病と診断されて抗うつ薬を飲んだけれど、症状が悪化した」という人に出会った際は、双極性障害の可能性も考えて医師との連携等を行っていく必要があります。

以上より、自殺のリスクは単極性うつ病よりも双極性障害の方が高いとされています。

よって、選択肢③は不適切と判断できます。

④ うつ病相に移行したら、気分安定薬を中止する。

双極性障害には、気分安定薬と呼ばれる薬が有効で、日本ではリチウム、バルプロ酸、カルバマゼピンがあります。

このうち、最も基本的な薬はリチウムであり、リチウムには躁状態とうつ状態を改善する効果、躁状態・うつ状態を予防する効果、自殺を予防する効果があります。

リチウムの副作用として、とくに飲み始めに下痢、食欲不振、のどが渇いて多尿になる、といった症状が出ることがあります。

また手の震えは、有効濃度で服用していても長期に続く場合があり、なかなかやっかいな副作用です。

さらに、血中濃度が高くなり過ぎると、ふらふらして歩けなくなり、意識がもうろうとするなど、様々な中毒症状が出る場合があります。

甲状腺の機能が低下する場合もありますが、これは甲状腺ホルモン剤を合わせて飲むことで対処できます。

しかし、一般に副作用のない薬はありませんし、双極性障害の治療薬は限られていますから、「副作用が出たから、この薬は合わない」とやめてしまうと、せっかく回復できる可能性があるのに、これをみすみす失っていることになってしまいます。

薬には副作用があることを前提として、自分の波のコントロールのために、どのように副作用と折り合いをつけながら治療していこうか、という姿勢が出るように支援に臨むことが大切です。

うつ病相に入ると、リチウムなどの気分安定薬に加えて、抗うつ薬が処方される場合もありますが、抗うつ薬の種類によっては、かえって症状が悪くなってしまうこともあるので注意が必要です。

特に三環系抗うつ薬と呼ばれる古いタイプの抗うつ薬は、躁状態を引き起こすことがあるので双極性障害ではできる限り避けたほうがよいとされています(選択肢③でも説明したように、抗うつ薬にはアクティベーションシンドロームの危険性もあります)。

うつ状態の急性期には、気分安定薬であるリチウムおよびラモトリギン、非定型精神病薬であるオランザピンおよびクエチアピンなどが用いられます。

神田橋先生は以下のように述べていますね。


rapid cyclerというものは、ほとんど抗うつ剤によって作られていると思ってください。抗うつ剤も長く使わない方がいいです。持続的に使うものではない、と思っておいてください。

持続的に使うのは気分安定化薬です。その次に抗精神病薬を使います。それまではうつであっても、抗うつ剤を使ったらダメですよ。

抗うつ剤を使って、持ち上げたり抑えたりとrapid cyclerというような状態を作らないようにしてください。rapid cyclerというような状態になっている人はリチウムが効きにくいです。いちばん効くのはテグレトールです。どうしてだか知りません。そしてだんだんおさまってくると、リチウムに移ったりします。なぜでしょう。わかりません。


いずれにせよ、こうした薬物療法によって、クライエント自身が自らの波をコントロールできるようにしていくことが重要になります。

このほかにも、気分安定薬の神経保護作用を考えておくことが大切です。

双極性障害の人には、軽い脳梗塞の跡が見つかる確率が高いことが報告されています。

脳梗塞は、ある程度の年齢の方ならまったく自覚症状がないうちに起こっていることもよくありますから、これ自体が異常というほどではありませんし、梗塞が起こっている場所も様々です。

これらを考え併せると、脳梗塞が双極性障害の原因になるというより、双極性障害の人は健常の人より神経細胞がダメージを受けやすいのではないかと考えられます。

血液の研究から、双極性障害の人では、細胞の中でカルシウムの濃度が上がりやすいことが報告されています。

神経細胞では、カルシウムは、神経細胞同士のつながりが変化していく現象(シナプス可塑性)や、細胞の生死のコントロールなど、様々な重要な働きをもっていますので、こうした現象が双極性障害の病態と関係しているのかもしれません。

また双極性障害には、リチウムやバルプロ酸などの気分安定薬が有効ですが、この二つの薬は、いずれも神経細胞を死から守り、保護する役目をすることがわかっています。

こうした研究を総合して、双極性障害という病気は、神経細胞がストレス(心理的なストレスではなく、細胞レベルの、たとえば酸素が少ないといったストレス)に弱いということが基盤にあるのではないか、と考えられるようになってきています。

このもともと持っている神経細胞の脆弱性を保護する意味でも、状態が改善していても気分安定薬の継続使用が重要になってくることがわかりますね。

以上のように、双極性障害の治療においては、気分安定薬の継続的な使用が重要になってきます。

よって、選択肢④は不適切と判断できます。

⑤ 気分の変動に伴ってみられる妄想は、嫉妬妄想が多い。

双極性障害の妄想で真っ先に思いつくのは「誇大妄想」です。

DSM-5の躁病エピソードの中に「自尊心の肥大、または誇大」があるように、双極性障害では、自分には超能力があるといった誇大妄想をもつケースもあります(関連しそうなものとして、自分は異性にもてるといった恋愛妄想も見られます)。

気が大きくなって、高額な買い物をして何千万円という借金をつくってしまったり、法的な問題を引き起こしたりするのもよく見られる事態ですね。

また、うつ状態になるとうつ病でよくみられるとされる微小妄想(罪業妄想、貧困妄想、心気妄想)も生じることがあります。

罪業妄想は自分が罪深いと考え、貧困妄想は金銭的に過度な不安が出る(お金をたくさん持っていても)、心気妄想は自分の身体に重大な病気があるのではないかと考える、というものですね。

この点については、DSM-5の抑うつエピソードにも「ほとんど毎日の無価値感、または過剰であるか不適切な罪責感(妄想的であることもある、単に自分をとがめること、または病気になったことに対する罪悪感ではない)」という記述がありますね。

本選択肢で示されている「嫉妬妄想」とは、他から見たら異様なほどの嫉妬感情に支配されている状態を指し、妄想ですから論理的な説明による修正は不可能です(論理的説明で修正できないというのが、そもそも妄想と同定するための条件)。

ちなみに嫉妬妄想は不実妄想とも呼びます。

嫉妬妄想が出やすい病理としては、統合失調症、アルコール依存症、認知症(神経精神症状)などになります。

青年期・壮年期の男性のアルコール依存症に伴う性的不能において見られることがありますし、女性においても更年期の性的機能の変化が関連していることがあります。

これらの場合は、性的欲求の不均衡が不実を確信する素地になっているように見えます。

認知症では、アルツハイマー型や脳血管型において、被害妄想(特に物取られ妄想)や見捨てられ妄想、嫉妬妄想が見られることが多く、レビー小体型では妄想的誤認症候群(カプグラ妄想など)が見られます。

自分が配偶者から見捨てられるのではないかという不安が存在することによって妄想が形成されるように見受けられます。

以上のように、双極性障害では嫉妬妄想が前景に立つことは少ないと言えますし、誇大妄想や抑うつ状態で出やすい妄想が出現する可能性が高いです。

よって、選択肢⑤は不適切と判断できます。

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