公認心理師 2018-110

反応性アタッチメント障害について、誤っているものを1つ選ぶ問題です。

愛着については、他でも出ていましたね(問題90)。
近年になって、マルトリートメントという概念が多く聞かれるようになりました。
発達障害との関連で語られることも多くなっており、環境要因の重要性が適切に見直されてきているような印象です。

解答のポイント

反応性アタッチメント障害の診断基準を把握していること(特にICD-10)。
マルトリートメント、ASDとの関連などを把握していること。

選択肢の解説

『①認知と言語の発達は正常である』

こちらについてはICD-10に以下のような記述があります。
「反応性愛着障害の小児は言語発達が障害されることがあるが(F80.1で記述された型)、自閉症に特徴的なコミュニケーションの質的な異常は示さない」
「自閉症と異なり、反応性愛着障害は、環境の変化に反応を示さない持続的で重篤な認知上の欠陥を伴わない

すなわち「認知上の欠陥は伴わない」ものの「言語発達が障害されることがある」とされています。
よって、選択肢①が誤りであり、こちらを選ぶことが求められます。

『②乳幼児期のマルトリートメントと関係が深い』

1960年代に「虐待」という概念を、アメリカのケンプが広めました。
身体的虐待への関心が高まったことに加え、フェミニズム運動が活発になるにつれて性的虐待にも注目が集まるようになりました。

1980年代になると、マルトリートメント(mal(悪い)treatment(扱い))という、より生態学的な概念が提出され、日本では「不適切な養育」と訳されています
子どもに対する大人の不適切な関わり全般を指す、虐待よりも広範な概念です。

友田明美先生は「子どもの脳を傷つける親たち」の中で、マルトリートメントと愛着障害(反応性愛着障害)との関連を以下のように論じています。

  • 愛着障害とは、安全が脅かされるような体験をしたときに、こころを落ち着けるために戻る場所がない状態を指します。
  • 親が子どもに対して虐待やネグレクトなどのマルトリートメントをする、あるいは養育者が何度も替わるなどが原因で、子どもにとっての安全な場所が用意されていない状態です。
上記の根拠となっているのは、こうしたマルトリートメントによって脳神経の一部の正常な発達が阻害されるという研究報告です。
より医学的な内容については「いやされない傷-児童虐待と傷ついていく脳」に示されています。
「被虐待児は褒めても、あまり効果が見られない」などを明確に示してあり、児童臨床に携わるならば欠かせない内容となっています。
その他にも海外の研究で、5歳ごろまでに何らかのマルトリートメントを継続して受け続けると、76%が愛着障害を起こすとされるなど、愛着障害と乳幼児期のマルトリートメントは深い関係があると見てよいです。
よって、選択肢②は正しいと言え、除外する必要があります。

『③自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害〈ASD〉と症状が一部類似する』

反応性アタッチメント障害は、抑制型・脱抑制型に分類されており、特に抑制型がASDに類似しているという報告があります。
ICD-10における記述を抜き出すと以下の通りです。

  • 第一に、反応性愛着障害の小児は社会的な相互関係と反応性の正常な能力をもっているが、広汎性発達障害の小児はもっていない。
  • 第二に、反応性愛着障害では、最初はさまざまな状況で社会的反応の異常なパターンが行動の全般的特徴であるが、もし継続的に責任をもった養育が行われる正常な環境に育てられれば、大幅に改善する。広汎性発達障害ではこうした改善は起こらない。
  • 第三に、反応性愛着障害の小児は言語発達が障害されることがあるが(F80.1で記述された型)、自閉症に特徴的なコミュニケーションの質的な異常は示さない。
  • 第四に、自閉症と異なり、反応性愛着障害は、環境の変化に反応を示さない持続的で重篤な認知上の欠陥を伴わない。
  • 第五に、行動、関心、活動にみられる、持続的な、限局した、反復性で、常同的なパターンは反応性愛着障害の特徴ではない。
これらの記述は、反応性アタッチメント障害と広汎性発達障害の類似していることを踏まえた上での記述と言えます。

上記のように、反応性愛着障害の抑制型とASDの類似点が見られるためか、DSM-5の反応性愛着障害には「自閉スペクトラム症の診断基準を満たさない」と記載があり、しっかりと鑑別するよう求められています

杉山登志郎先生は「発達障害のいま」の中で以下のように述べられています。

  • 容易に想像できるように、自閉症スペクトラム障害と子ども虐待とが掛け算になった場合には、重複愛着障害と言わざるを得ない病態ができあがるので、この国際診断上の規定(ASDと愛着障害を同時に診断してはいけない)も本当に正しいのか、疑問が残るところである
こうしたASDと虐待の掛け算は、臨床実践上も頷けるところが多いと思います。
また友田明美先生の「子どもの脳を傷つける親たち」にも以下のように述べられています。
  • 反応性愛着障害では、自分の殻に閉じこもって他人と目を合わせないなど、自閉症に似た症状がみられることがあります。
いずれにせよ、この反応性愛着障害とASDは併存することも普通にあり得るというのが臨床的な見解だろうと思います。
現状では診断を重ねることはできませんが、臨床上はこれらの類似点についてしっかり把握しておくことが重要になるでしょう。

以上より、選択肢③は正しいと言え、除外することが求められます。

『④常に自分で自分を守る態勢をとらざるを得ないため、ささいなことで興奮しやすい』

愛着障害のある子どもたちの特徴として、「衝動の制御、感情の調節、問題解決において不完全さを見せる」とされています。
愛着に対する主要な要求は、通常、近接を求める行動によって表現されますが、これが拒絶されると、攻撃性につながることをボウルビィは明らかにしました。

この点は土居先生の甘え理論でも指摘されています。
甘え感情は「受け入れるか否かは相手次第」という特徴があるので、これが受け入れられないと強く傷つき、被害感を生じさせやすいとしています。
過度に被害的になり易かったりすることも被虐待児には見られます。

愛着を受け入れてもらえないことや、自分が環境から侵害される体験が多い子どもは、自分を守る構えが自然とできあがります
怒られるのを避けるために、日常のちょっとしたことで嘘をつくことが多くなったり、何かを指摘されるのを過度に恐れたりが見られます。
こうした状況では、他の子どもの些細な行動を気にしてトラブルを招くことも多くなります。

上記より、選択肢④は適切と判断できます。

『⑤養育者が微笑みかける、撫でるなど、それまで欠けていた情動体験を補うような関わりが心理療法として有効である』

DSM-5において、以下のような「不十分な養育の極端な様式を経験している」としています。

  1. 安楽、刺激、および愛情に対する基本的な情動欲求が養育する大人によって満たされることが持続的に欠落するという形の社会的ネグレクトまたは剥奪
  2. 安定したアタッチメント形成の機会を制限することになる、主たる養育者の頻回な変更(例:里親による養育の頻繁な交代)
  3. 選択的アタッチメントを形成する機会を極端に制限することになる、普通でない状況における養育(例:養育者に対して子どもの比率が高い施設)

本選択肢の対応は、上記の1で示された持続的に欠落した基本的な情動欲求を補うという心理療法になると思われます。

「撫でる」などの身体接触を倫理違反とするか否かという話もあるでしょうが、本選択肢では「養育者が」となっているので問題なしと判断します。
あくまでも「養育者」が行うことを「公認心理師」が助言する等の支援と捉えていきます(成人になった女性に対して、愛着障害があるから「撫でる」というのは以ての外ですが)。

本問と関連がありそうな心理療法として「修復的愛着療法」があります。
修復的愛着療法の目標として以下が挙げられています。

  • 親子関係における安定性愛着行動を促進する(アイコンタクト、肯定的な感情、養育、安全なタッチ、欲求充足、愛情表現)
  • 相互の目標が修復された、親子間のパートナーシップを発展させる。
  • 調律、共感、支持、親から子への肯定的な感情を増大する。
  • 発達的に適切な制限、規則、境界で養育的な枠組みと構造を創造する。
  • 親を子どもにとっての安全基地として機能できるようにする
  • 親との安定性愛着の徴候を促進する。

これは2週間の集中治療で、アタッチメント対象となる養育者への支援と心理教育、治療的介入から始め、子ども本人への治療的介入を行います。

詳しい枠組みについては割愛しますが、上記の通り、愛着障害へのアプローチとして選択肢の内容に近いものは存在します
よって、選択肢⑤は適切と判断できます。

私個人の意見ですが、こうした愛着体験を補完的に行っていくという対応には懐疑的です。
いくつか理由はありますが、まずは「育て直す」というニュアンスを含む治療が個人的に違和感を覚えること、愛着の傷つきは「修復される」類のものではないようにも思えることなどです。

では、何もできないかと言われればそうではなく、支援者に求められるのは「自分の職域、職場の規定、個人としての限界」などを踏まえ、その範囲内で安定した人物として居ることだと思っています。
愛着障害を招く保護者の態度として、こうした「安定性」に欠けていることがかなり多いためです。

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