公認心理師 2022-144

ステロイドパルス療法を受けた患者の症状に関する問題です。

投与後何日目に副作用が出やすい等の情報がわからないため、あまり明確に解説できていないと感じています。

わかる人がいたらコメントお願いします。

問144 32歳の女性A、会社員。Aは、持病の視神経炎が悪化し、ステロイドパルス療法を受けるため、総合病院に入院した。治療開始後5日目から、食欲低下と不眠が続いている。10日目の夜、病棟内を落ち着きなく歩き回り、看護師に不安やいらだちを繰り返し訴えた。意識障害はなく、原疾患以外の明らかな身体所見も認められていない。眼科の主治医から依頼を受けた精神科リエゾンチームがAの病室を訪問したところ、いらいらした様子で、「どうせ分かってもらえません」と言ったり、「私が悪かったんです」とつぶやいたりして、涙ぐんだ。
 Aの症状として、最も適切なものを1つ選べ。
① 強迫行為
② 誇大妄想
③ 前向性健忘
④ 抑うつ気分
⑤ パニック発作

関連する過去問

なし

解答のポイント

ステイロイドパルス療法とステロイドによる副作用を把握している。

選択肢の解説

④ 抑うつ気分

本問については「視神経炎」および「ステロイドパルス療法」についての解説から入りましょう。

視神経炎は眼球の後ろにある視神経に炎症がおこって視力低下や視野狭窄をきたす病気です。

視神経炎には以下のようにいろいろなタイプがあります。

  • 特発性視神経炎:視神経炎の原因が特定できないもの。
  • 多発性硬化症:神経を包んでいる神経鞘の成分(ミエリン)に対する自己免疫により、神経が脱髄して発症します。四肢や体幹のしびれや脱力を伴うことがあります。
  • 動脈炎性の虚血性視神経症:高齢者に多く、血管に対する自己免疫による炎症が原因で発症します。側頭部(こめかみの付近)の痛みを伴うことがあります。
  • 非動脈炎性の虚血性視神経症:比較的高齢者に多く、動脈硬化などが原因で眼に循環している血管が詰まって起こります。
  • 鼻性視神経症:蓄膿症が悪くなると視神経を圧迫して障害します。
  • 他にはシンナーなどの有機溶剤による中毒性視神経症、レーベル病などの遺伝性視神経症、外傷性視神経症、ビタミンなどの栄養欠乏性視神経症、腫瘍や動脈瘤などによる圧迫性視神経症などがあります。

特発性視神経炎は視神経の炎症が関係していますので、治療にはステロイドパルス療法を行います。

ステロイドパルス療法とは、1グラムのステロイドを3日間連続で点滴することを1クールとして疾患によって1~3クール行う治療法です(治療は点滴にて行われます)。

ステロイド剤は体内で産生される副腎皮質ホルモンの一種で、正常人で一日約5mgが分泌されており、その約200倍である1000mgを一日あたり点滴で合計3日間使用します。

強い効果が期待できますが重篤な副作用が出ることがあり、その場合は早急に対処する必要があるため通常2週間程度の入院が必要です。

特発性視神経炎の場合は自然に治癒することがあり、一年程度の長期間を経過した時点ではステロイドパルス療法を行わなかった場合と変わらない可能性がありますが、有効な場合は視機能の改善を早めることができます。

ただし効果には個人差があり、不充分な場合や無効な場合もあります(効果が不充分であった場合、2回目、3回目を行うことがあります)。

ステロイドの主な副作用とその対策については以下の通りです。

なお、これらの副作用は、全ての人に認められるものではなく、疾患、薬の量、内服期間などによりさまざまですので、自己判断はせず主治医と相談することが大切です。

  1. 易感染性
    体の抵抗力(免疫力)が低下するために、風邪やインフルエンザなどの感染症にかかりやすくなります。投与量が多い間は、感染予防の薬(バクタ配合錠など)を飲むこともあります。日頃は、手洗い、うがい、マスク着用、人混みを避けるなどの一般的な注意が必要です。
  2. ストレス時には要注意
    骨がもろくなり(骨密度が減少し)、圧迫骨折や大腿骨頸部骨折などが起こりやすくなります。予防薬として骨を守る薬(ビスホスホネート薬)を内服します。
  3. 糖尿病(ステロイド糖尿病)
    糖を合成する働きを高めるため、血糖が上がります。投与量が多いほど血糖は上がるので、特に投与量が多い間は、食事療法による予防が大切であり、薬による糖尿病治療が必要な場合もあります。
  4. 消化性潰瘍(ステロイド潰瘍)
    消化管粘膜が弱くなるため、潰瘍ができやすくなります。胃酸分泌を抑制する薬や胃粘膜を保護する薬を予防的に内服します。
  5. 血栓症
    出血を止める働きをする血小板の機能が亢進するため、血管の中で血液が固まってしまう血栓症が起こりやすくなります。予防的に血をサラサラにする薬(抗血小板薬)を内服します。
  6. 精神症状(ステロイド精神病)
    不眠症、多幸症、うつ状態になることがあります。軽度のことが多いですが、よくみられます。ステロイド薬の減量により後遺症なしに改善します。
  7. 満月様顔貌(ムーンフェイス)、中心性肥満
    食欲の亢進と脂肪の代謝障害によりおこります。ステロイド薬の減量により改善します。カロリー制限など食事に注意が必要です。
  8. 動脈硬化、高脂血症
    動脈硬化を促進し、コレステロールや中性脂肪が高くなることがあります。食事に注意し、必要であれば、コレステロールや中性脂肪を下げる薬を内服します。
  9. 高血圧症、むくみ
    体内に塩分が溜まりやすくなるために起こります。塩分を取りすぎないようにします。
  10. 白内障(ステロイド白内障)
    白内障(視界が白く濁る)の進行を早めます。長期に内服する場合は眼科での定期的検査を行い、必要であれば点眼薬で予防します。
  11. 緑内障(ステロイド緑内障)
    眼球の圧力(眼圧)が上昇する(緑内障)ことがあります。自覚症状はほとんどなく、眼圧を測定する必要があります。ステロイド薬投与後、数週間以内に起こり、ステロイド薬の減量・中止にて改善します。
  12. 副腎不全(ステロイド離脱症候群)
    ステロイドホルモンはPSL換算で2.5~5mg程度が副腎皮質から生理的に分泌されています。それ以上の量のPSLを長期に内服した場合、副腎皮質からのステロイドホルモンが分泌されなくなります。そのため、急に薬を飲まなくなると、体の中のステロイドホルモンが不足し、倦怠感、吐き気、頭痛、血圧低下などの症状が見られることがあります(ステロイド離脱症候群)。自己判断で急に内服を中止しないように注意が必要です。
  13. ステロイド痤瘡(ざそう)
    にきび」ができやすくなります。ステロイド薬の減量により改善します。
  14. 大腿骨頭壊死(無菌性骨壊死)
    大量投与でごく稀に起こることがあります。多くの場合、ステロイド薬投与後、数ヶ月以内に、股関節の痛みで発症します。早期発見が大切です。
  15. その他
    増毛、脱毛、生理不順、不整脈、ステロイド筋症、などが見られることがあります。いずれもステロイド薬の減量により改善します。

本事例における「食欲低下と不眠」「病棟内を落ち着きなく歩き回り、看護師に不安やいらだちを繰り返し訴える」「いらいらした様子で、「どうせ分かってもらえません」と言ったり、「私が悪かったんです」とつぶやいたりして、涙ぐんだ」というAの様子については、それだけでも抑うつ的であることが見て取れますが、ステロイドパルス療法の副作用として抑うつなどの精神症状があることが示されています。

ステロイドによる精神症状の7~8割ぐらいは気分障害(躁状態やうつ状態、あるいはそれらの混合状態)であり、実は幻覚や妄想を中心にした統合失調症のような状態、いわゆる精神病状態は1割に過ぎないとされています。

ステロイドパルス療法の5日目、10日目などに症状が出ており、事例で示されている内容がステロイドの副作用によるものか否かは判断がつきにくいところではありますが、現時点ではその可能性も含めて考慮しておくことが大切でしょう。

このことから、本事例で生じているのは抑うつ気分であると考えるのが妥当ですね。

以上より、選択肢④が適切と判断できます。

ちなみに「ステロイドパルス療法」については、実践でよく出会う突発性難聴の治療法としても挙げられます。

こちらは難聴も合併する免疫関係の全身の病気(自己免疫疾患)で治療の一環としてステロイド治療を行なった時に難聴も同時に改善したことに由来します。

それ以降、日本では突発性難聴を含む原因不明の難聴には経験的にステロイド治療がよく行われておりますが、近年の研究からこの病態の解明も進みつつあり、ステロイド治療がいかに分子・遺伝子レベルで繊細な聞こえを感知する細胞を保護するか、機能を取り戻すことに役立っているかが明らかになってきておりこの治療の有効性を後押しするものとなっております。

あるDrから突発性難聴へのステロイドパルス療法に関する説明で「大量のステロイドを投与することで、からだをびっくりさせて治すような感じ。壊れたテレビを叩いて直すみたいな。症状が出始めてできるだけ早く行った方が良い。壊れたテレビも時間が経つと叩いても直らないでしょ?」と言われて、そんなもんなんやなーという印象でした(実際はどんなもんかはわからないんですけど…)。

① 強迫行為
② 誇大妄想
③ 前向性健忘
⑤ パニック発作

ステロイドは精神症状の発症リスクが高い薬剤の一つであり、自殺のリスクは7倍に上昇する、気分障害、精神病性障害、せん妄、軽度認知障害など多彩な臨床症状を呈します。

ただ、ここで挙げられている選択肢の精神症状については、生じやすいとする知見は確認できませんでした(やはり、抑うつや不眠に関する言及が多い)。

とは言え、100%あり得ないと言い切れるほどの知見も持ち合わせていませんので、各症候について解説しつつ、本事例の内容を踏まえて正誤判断していきましょう。

まず選択肢①の強迫行為についてですが、意志に反して頭に浮かんでしまって払いのけられない考えを強迫観念、ある行為をしないでいられないことを強迫行為と呼びます。

一般に強迫行為とは、強迫観念を打ち消すために繰り返し行う行為であり、たとえば「手を一日に何十回・何百回も洗う」「会社に行く途中に何度も自宅に戻って施錠の確認をする」などがよく示されますね。

こうした強迫行為と思われる内容の記述は事例からは読み取れません。

選択肢②の誇大妄想ですが、自己の能力、資質の優位を過剰に信ずるものであり、妄想性障害、統合失調症、躁状態などで出現する割合が高いです。

己が有名で、全能で、裕福で、何かの力に満ちているという幻想的な信念を特徴としており、その妄想は一般的に幻想的であり、典型的には宗教的、SF、超自然的なテーマを持っています。

例えば、自分の力や権威について架空の信念を持っている人は、自分は王族のように扱われるべき支配的な君主であると信じているなど、誇大妄想とそれと関連した誇大さの程度には、さまざまな人や病理の程度において違いがあるものです。

本事例においては、こうした誇大妄想的な記述は見られません。

選択肢③の前向性健忘ですが、新しい記憶の障害を指します(つまり、発症から現在に至る記憶の障害)。

以下の図がわかりやすいと思います。

現在からみれば「前向性健忘」も「逆向性健忘」も選択肢にある「過去」にあたりますが、あくまでも発症時を起点に考えていくことになりますね。

こうした前向性健忘ですが、本事例ではそれを疑わせるような記述は見られませんね。

最後に選択肢⑤のパニック発作ですが、突然理由もなく、動悸やめまい、発汗、窒息感、吐き気、手足の震えといった反応のことを指します(単に動悸がある等だけではなく、死んでしまうのではないかと思うほど強くて、自分ではコントロールできないと感じます)。

こうしたパニック発作を起こし、そのために生活に支障が出ている状態をパニック障害といいます。

パニック発作が繰り返し生じることで、将来の発作に対して過度の不安を覚えるようになったり(予期不安)、発作を引き起こす可能性のある状況を回避するための行動変化がみられたりします。

本事例では、こうしたパニック発作の問題は認められませんね。

本事例における「食欲低下と不眠」「病棟内を落ち着きなく歩き回り、看護師に不安やいらだちを繰り返し訴える」「いらいらした様子で、「どうせ分かってもらえません」と言ったり、「私が悪かったんです」とつぶやいたりして、涙ぐんだ」という反応をどう認識するかが求められているわけですが、ここで示した選択肢の内容では説明しにくいことは確かですね。

以上より、選択肢①、選択肢②、選択肢③および選択肢⑤は不適切と判断できます。

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