公認心理師 2021-103

メニエール病に関する問題です。

めまい=メニエール病と思いがちですが、かなり鑑別が重要になるので安易に考えないようにしましょう。

問103 メニエール病の説明として、最も適切なものを1つ選べ。
① めまいは一過性で反復しない。
② めまいは難聴や耳鳴りを伴う。
③ めまいの持続時間は数秒である。
④ めまいを起こす疾患の中で最も頻度が高い。
⑤ 過換気をきっかけにめまいが始まることが多い。

解答のポイント

メニエール病の診断基準を把握している。

選択肢の解説

① めまいは一過性で反復しない。
② めまいは難聴や耳鳴りを伴う。
③ めまいの持続時間は数秒である。

メニエール病の診断基準は1974年に厚生省のメニエール病調査研究班により作成され、2008年に厚生労働省何知性疾患克服研究事業前庭機能異常に関する調査研究班により改訂されました。

ここでは、2008年に改訂されたメニエール病の診断基準を示します。


Ⅰ.メニエール病確実例

難聴、耳鳴、耳閉感などの聴覚症状を伴うめまい発作を反復する。

〈解説〉

メニエール病の病態は内リンパ水腫と考えられており、下記のような症状、所見の特徴を示す。

●めまいの特徴

  1. めまいは一般に特別の誘因なく発生し、嘔気・嘔吐を伴うことが多く、持続時間は10分程度から数時間程度である。なお、めまいの持続時間は症例によりさまざまであり、必ずしも一元的に規定はできないが、数秒~数十秒程度のきわめて短いめまいが主徴である場合、メニエール病は否定的である。
  2. めまいの性状は回転性が多数であるが、浮動性の場合もある。
  3. めまい発作時には水平回旋混合性眼振が観察されることが多い。
  4. めまい・難聴以外の意識障害、複視、構音障害、嚥下障害、感覚障害、小脳症状、その他の中枢神経症状を伴うことはない。
  5. めまい発作の回数は、週数回の高頻度から年数回程度まで多様である。また、家庭・職場環境の変化、ストレスなどが発作回数に影響することが多い。

●聴覚症状の特徴

  1. 聴覚症状は、主にめまい発作前または発作と同時に発現・増強し、めまいの軽減とともに軽快することが多い。
  2. 聴覚症状は難聴、耳鳴、耳閉感が主徴で、これらが単独、あるいは合併してめまいに随伴、消長する。また、強い音に対する過敏性を訴える例が少なくない。
  3. 難聴は感音難聴で、病期により閾値が変動する。また、補充現象陽性を示すことが多い。発症初期には低音域を中心とし可逆性であるが、経過年数の長期化とともに次第に中・高音域に及び、不可逆性となることが多い。
  4. 難聴は初期には一側性であるが、経過中に両側性(メニエール病の両側化)となる症例がある。この場合、両側化は発症後1~2年程度から始まり、経過年数の長期化とともに症例数が増加する。

●診断にあたっての注意事項

  1. メニエール病の初回発作時には、めまいを伴う突発性難聴と鑑別できない場合が多く、上記の特徴を示す発作の反復を確認後にメニエール病確実例と診断する。
  2. メニエール病と同様の症状を呈する外リンパ瘻、内耳梅毒、聴神経腫瘍、神経血管圧迫症候群などの内耳・後迷路性疾患、小脳、脳幹を中心とした中枢性疾患など原因既知の疾患を除外する必要がある。これらの疾患を除外するためには、十分な問診、神経学的検査、平衡機能検査、聴力検査、CTやMRIの画像検査などを含む専門的な臨床検査を行い、症例によっては経過観察が必要である。
  3. 難聴の評価はメニエール病の診断、経過観察に重要である。感音難聴の確認、聴力変動の評価のために頻回の聴力検査が必要である。
  4. グリセロール検査、蝸電図検査、フロセミド検査などの内リンパ水腫推定検査を行うことが推奨される。

Ⅱ.メニエール病非定型例

下記の症候を示す症例は、内リンパ水腫の存在が強く疑われるのでメニエール病非定型例と診断する。

1)メニエール病非定型例(蝸牛型)

難聴、耳鳴、耳閉感などの聴覚症状の増悪・軽快を反復するが、めまい発作を伴わない。

〈解説〉
  1. 聴覚症状の特徴は、メニエール病確実例と同様である。
  2. グリセロール検査、蝸電図検査などの内リンパ水腫推定検査を行うことが推奨される。
  3. 除外診断に関する事項は、メニエール病確実例と同様である。
  4. メニエール病非定型例(蝸牛型)は、病態の進行とともに確実例に移行する例が少なくないので、経過観察を慎重に行う必要がある。

2)メニエール病非定型例(前庭型)

メニエール病確実例に類似しためまい発作を反復する。一側または両側の難聴などの聴覚症状を合併している場合があるが、この聴覚症状は固定性で、めまい発作に関連して変動することはない。

〈解説〉
  1. この病型は内リンパ水腫以外の病態による反復性めまい症との鑑別が困難な場合が多い。めまい発作の反復の状況、めまいに関連して変動しない難聴などの聴覚症状を合併する症例ではその状態などを慎重に評価し、内リンパ水腫による反復性めまいの可能性が高いと判断された場合にメニエール病非定型例(前庭型)と診断すべきである。
  2. 前項において難聴が高度化している場合に、めまいに随伴した聴覚症状の変化を患者が自覚しない場合がある。十分な問診と、必要であれば前庭系内リンパ水腫推定検査であるフロセミド検査を行うなどして診断を確実にする必要がある。
  3. 除外診断に関する事項は、メニエール病確実例と同様である。
  4. メニエール病非定型例(前庭型)の確実例に移行する症例は、蝸牛型と異なって少ないとされている。この点からも、この型の診断は慎重に行うべきである。

Ⅲ.メニエール病診断基準(簡易版)

この簡易版は、著述などの際に簡略に記載できるように、メニエール病診断基準の解説部分を省略したものである。簡易版を利用する場合は、必ず診断基準の全文を参照し、内容を十分理解する必要がある。

①メニエール病確実例

難聴、耳鳴、耳閉感などの聴覚症状を伴うめまい発作を反復する。

②メニエール病非定型例

下記の症候を示す症例をメニエール病非定型例と診断する。

  1. メニエール病非定型例(蝸牛型):聴覚症状の増悪・軽快を反復するが、めまい発作を伴わない。
  2. メニエール病非定型例(前庭型):メニエール病確実例に類似しためまい発作を反復する。一側または両側の難聴などの聴覚症状を合併している場合があるが、この聴覚症状は固定性で、めまい発作に関連して変動することはない。
    この病型の診断には、めまい発作の反復の状況を慎重に評価し、内リンパ水腫による反復性めまいの可能性が高いと判断された場合にメニエール病非定型例(前庭型)と診断すべきである。

●原因既知の疾患の除外

メニエール病確実例、非定型例の診断にあたっては、メニエール病と同様の症状を呈する外リンパ瘻、内耳梅毒、聴神経腫瘍、神経血管圧迫症候群などの内耳・後迷路性疾患、小脳、脳幹を中心とした中枢性疾患など原因既知の疾患を除外する必要がある。


まずはこの診断基準を踏まえて、ここで挙げた選択肢の解説をしていきましょう。

選択肢①の「めまいは一過性で反復しない」ですが、診断基準として「難聴、耳鳴、耳閉感などの聴覚症状を伴うめまい発作を反復する」とありますし、めまいの特徴についても「めまい発作の回数は、週数回の高頻度から年数回程度まで多様である。また、家庭・職場環境の変化、ストレスなどが発作回数に影響することが多い」とありますから、「一過性で反復しない」というのは不適切な内容であると言えますね。

また、選択肢②の「めまいは難聴や耳鳴りを伴う」については、診断基準の「難聴、耳鳴、耳閉感などの聴覚症状を伴うめまい発作を反復する」に合致するものと見なすことができます。

更に選択肢③の「めまいの持続時間は数秒である」については、めまいの特徴として「めまいは一般に特別の誘因なく発生し、嘔気・嘔吐を伴うことが多く、持続時間は10分程度から数時間程度である。なお、めまいの持続時間は症例によりさまざまであり、必ずしも一元的に規定はできないが、数秒~数十秒程度のきわめて短いめまいが主徴である場合、メニエール病は否定的である」とありますから、本選択肢の内容だとメニエール病という診断には否定的になります。

以上より、選択肢①および選択肢③は不適切と判断でき、選択肢②が適切と判断できます。

④ めまいを起こす疾患の中で最も頻度が高い。

メニエール病は、その名前自体はとても有名ですが、実際の頻度はめまい全体の数%~十数%に過ぎません(良性発作性頭位めまい症が最も多いとされている)。

「めまい=メニエール病」と考えられがちですが、上記のようにメニエール病には明確な診断基準が設けられていますから、これに該当しなければ別の疾患を考える必要があります。

メニエール病の鑑別診断では、以下の疾患も考えておくことが重要です。

  • めまいを伴う突発性難聴:メニエール病との鑑別上もっとも重要な疾患。メニエール病初回発作では、めまいを伴う突発性難聴との鑑別が困難な場合があり、この場合、突発性難聴ではめまい発作を反復しないので、必要な場合はめまいの反復を確認した上でメニエール病と診断する。
    めまいを伴う突発性難聴で前庭障害が高度な場合は、前庭障害後遺症としての浮動感の反復をきたすことがあり、これと発作性めまいの反復とは区別して考える必要がある。
    なお、突発性難聴、急性低音障害型感音難聴は、メニエール病確実例に移行する症例があるので注意が必要である。
  • 外リンパ瘻:中耳・髄液圧変化などにより内耳窓が破裂することで発症する。頭部外傷、潜水、いきみ、鼻かみなどが誘因となる。これらの発症誘因と発症時のPOP音、発症後の耳内水流感などの症状から鑑別するが、確定診断が困難な場合も少なくない。
    症例によってはメニエール病と類似しためまい、難聴の反復症例があるが、めまいは高度の発作性ではないことが多い。
  • 内耳炎:中耳真珠腫あるいは急性中耳炎などに随伴して発症する。発症状況、CTによる中耳病態評価で鑑別する。
  • 内耳梅毒:内耳梅毒でメニエール病に類似した症状を発現することがあり、病態として内リンパ水腫の可能性が高いと考えられる。この場合、メニエール病との鑑別は非常に難しい。
    血液梅毒反応が陽性の場合は本疾患を疑い、梅毒の経過を参考に診断する。
  • 聴神経腫瘍:聴神経腫瘍が突発難聴として発症する症例は少なくない。比較的稀ではあるがメニエール病と同様の症状を反復する症例がある。ABR、MRIにて鑑別する。
  • 神経血管圧迫症候群:メニエール病と類似の症状を示すことが少なくない。通常のメニエール病治療で奏功しない例では要注意である。
    MRIにて小脳橋角部の血管走行異常がみられる例が多い。
  • 聴神経腫瘍以外の脳腫瘍:各種の小脳角部腫瘍でメニエール病類似の症状を示す場合があり、メニエール病の経過によりCT/MRIの画像診断を行うことが推奨される。

前述の通り、めまいを示す疾患の中でメニエール病は高頻度というわけではありませんが、かなり類似した症状を示す他疾患が多く見られます。

臨床実践場面で診断をする必要は私たちにはありませんが、いくつかの可能性を考慮して医療につなげるくらいの力は持っておきたいところですね。

以上より、選択肢④は不適切と判断できます。

⑤ 過換気をきっかけにめまいが始まることが多い。

メニエール病の病態は内リンパ水腫による前庭と蝸牛の障害であり、上記の診断基準にも「過換気」については見当たりませんね。

過換気については「過換気症候群」がまず思い浮かぶと思いますが、この症候群ではめまいが高頻度で出現します(過換気症候群の概要は「公認心理師 2021-115」を参照)。

過換気症候群の臨床症状を見てみると以下の通りです。

  • 精神症状:不安感、死の恐怖感、抑うつ状態、パニック
  • 呼吸器症状:安静時の発作性呼吸困難(運動時にはない)、空気飢餓感(酸素が足りない、空気が薄い)、頻呼吸
  • 神経・筋症状:口唇、四肢のしびれ、四肢の痙攣、振戦
  • 循環器症状:胸痛、動悸
  • 中枢神経症状:頭痛、めまい、意識障害など
  • 消化器症状:腹痛、悪心、口喝、腹部膨張感(過剰な空気の嚥下による)
  • その他:発汗、全身倦怠感

上記の中枢神経症状の中に「めまい」がありますね。

こうした内容を踏まえると、過換気症候群もメニエール病との鑑別が必要なのかもしれません。

というのも、メニエール病と過換気症候群はストレス因が影響しているという点で類似しております。

メニエール病の発作の予防では、何はともあれストレス除去が重要であり、睡眠不足や過労を避け、飲酒喫煙を禁じ、塩分を控え、水分を十分に取り(メニエール病と水分とは深い関係がある。内リンパ水腫つまり「むくみ」が大きな要因だから)、適度な有酸素運動を行う、といった生活指導を行いながら、必要な薬物療法を行っていくことになります。

以上より、過換気をきっかけにめまいが生じるのは過換気症候群であると考えられます。

よって、選択肢⑤は不適切と判断できます。

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