公認心理師 2018-65

5年前に筋委縮性側索硬化症〈ALS〉と診断された50歳男性の事例です。
誤嚥性肺炎の既往があり、1年前に胃瘻増設術を受けて、現在は配偶者の介護により在宅で療養しています。

四肢の筋委縮と球麻痺があり、寝たきりで発声は不可能な状態とされています。
この患者の支援にあたって、念頭に置くべき症状を選ぶ設問となっています。

解答のポイント

ALS患者に生じやすい症状を把握していること。
また、その症状の推移についても理解していることが重要となる。
更に、ALS患者には生じにくい症状もあることを把握していること。

ALSについて

難病情報センターに、ALSの情報が記載されています。

筋萎縮性側索硬化症(ALS)とは、手足・のど・舌の筋肉や呼吸に必要な筋肉がだんだんやせて力がなくなっていく病気です。
しかし、筋肉そのものの病気ではなく、筋肉を動かし、かつ運動をつかさどる神経(運動ニューロン)だけが障害をうけます。
その結果、脳から「手足を動かせ」という命令が伝わらなくなることにより、力が弱くなり、筋肉がやせていきます。
その一方で、体の感覚、視力や聴力、内臓機能などはすべて保たれることが普通です。

生じやすい症状について

  • 多くの場合は、手指の使いにくさや肘から先の力が弱くなり、筋肉がやせることで始まります。
  • 話しにくい、食べ物がのみ込みにくいという症状で始まることもあります。いずれの場合でも、やがては呼吸の筋肉を含めて全身の筋肉がやせて力がはいらなくなり、歩けなくなります。
  • のどの筋肉の力が入らなくなると声が出しにくくなり(構音障害)水や食べ物ののみこみもできなくなります(嚥下障害)。またよだれや痰(たん)が増えることがあります。
  • 呼吸筋が弱まると呼吸も十分にできなくなります
  • 進行しても通常は視力や聴力、体の感覚などは問題なく、眼球運動障害や失禁もみられにくい病気です
事例では、構音障害や嚥下障害は既に生じているということになっています。
呼吸筋の弱まりについては、問題文には記載がありませんね。

経過について

  • この病気は常に進行性で、一度この病気にかかりますと症状が軽くなるということはありません。 
  • 体のどの部分の筋肉から始まってもやがては全身の筋肉が侵され、最後は呼吸の筋肉(呼吸筋)も働かなくなって大多数の方は呼吸不全で死亡します
  • 人工呼吸器を使わない場合、病気になってから死亡までの期間はおおよそ2~5年ですが、中には人工呼吸器を使わないでも10数年の長期間にわたって非常にゆっくりした経過をたどる例もあります。
  • その一方で、もっと早い経過で呼吸不全をきたす例もあります。特に高齢者で、話しにくい、食べ物がのみ込みにくいという症状で始まるタイプは進行が早いことが多いとされています。
  • 重要な点は患者さんごとに経過が大きく異なることであり、個々の患者さんに即した対応が必要となります。最近では認知症を合併する患者さんが増えていると云われています。

以上の点を踏まえて、選択肢の検証を行っていきます。

選択肢の解説

『①褥瘡』

褥瘡とは、寝たきりなどによって、体重で圧迫されている場所の血流が悪くなったり滞ることで、皮膚の一部が赤い色味をおびたり、ただれたり、傷ができてしまうことです。
一般的に「床ずれ」ともいわれています。

ALS患者においては褥瘡が生じにくいとされています。
この理由として、患者さんの皮膚のコラーゲンに変化が起こるためではないかという説がありますが、基本的にその理由はいまだ不明です。

さらにALS患者の皮膚はなめし皮のようにしなやかであり、皮膚をつまんで離すと元の位置に戻るのに時間がかかる現象(皮膚のつまみ現象)がみられます。
この現象は発症後通常2年以上経過した患者に認められます。
皮膚のつまみ現象と褥瘡が起こらないことはALSに特異的と考えられます。

ALS患者であっても、ごくまれに褥瘡を合併することもありますが、ALSにみられる褥瘡は処置、治療により速やかに軽快するのが特徴とされています。

また、他の選択肢と比較して「より念頭に置くべき症状か否か」という視点で言えば、除外できる選択肢だと思われます。

よって、選択肢①は除外できます。

『②認知症』

上記でも述べたように、ALS患者で認知症を合併する例が増えているということです。
ALS患者の約30~50%は経過中に前頭葉機能障害で特徴づけられる認知機能障害を示すとされています。

しかし、事例は50歳と若く、認知症を疑わせるような記述も見られません。
ALSの進行に伴うものの中で、より念頭に置くべきものがあると言えます。

よって、選択肢②は不適切と言えないまでも「最も適切」とまでは言えないと判断できます。

『③感覚障害』

感覚障害とは、知覚の異常や感覚の鈍麻など感覚神経の異常反応を生じる障害です。
触覚、痛覚、温度覚、振動覚、位置覚など感覚の鈍化、痺れや痛み、筋力・統制力の低下を生じる運動感覚の失調や逃避反射の喪失などが症状とされます。

上記でも述べたように、ALSは「進行しても通常は視力や聴力、体の感覚などは問題なく、眼球運動障害や失禁もみられにくい病気」です。
ALSでは、視覚、聴覚、臭覚、味覚、触覚などの知覚神経は侵されず、正常なまま維持されます。
一般にALS患者は、この正常な機能を生かして絵画鑑賞を楽しんだり、音楽を聴いたりしています。

よって、選択肢③は誤りと言えます。

『④呼吸筋障害』

厚生労働省はALSの重症度分類を以下のように定めています。

  1. 家事・就労はおおむね可能
  2. 家事・就労は困難だが、日常生活(身の回りのこと)はおおむね自立
  3. 自力で食事、排泄、移動のいずれか一つ以上ができず、日常生活に介助を要する
  4. 呼吸困難・痰の喀出困難、あるいは嚥下障害がある
  5. 気管切開、非経口的栄養摂取(経管栄養、中心静脈栄養など)、人工呼吸器使用
上記の2以上が助成の対象とされています。
また、すでに述べたとおり、ALSにおいては最後は呼吸の筋肉(呼吸筋)も働かなくなって大多数の方は呼吸不全で死亡するとされています。
事例の状態は嚥下障害、構音障害などが既に見られ、自ら助けを求められる状態ではありません
今後は呼吸筋の機能低下が生じる可能性が予見されるため、また、呼吸筋障害は命に直結する症状であることからも、こちらをもっとも念頭におくべき症状と捉えることが適切と思われます。
よって、選択肢④が最も適切と判断できます。

『⑤眼球運動障害』

眼球運動障害とは、外眼筋やその支配神経の障害の結果、眼球の運動が障害された症候です。
共同視が不可能になれば複視(物が二重に見える)も生じるとされています。

上記でも述べたように、ALSは「進行しても通常は視力や聴力、体の感覚などは問題なく、眼球運動障害や失禁もみられにくい病気」です。
ALSでは、眼球の運動に必要な筋肉は侵されにくいので、目の動きで自分の意思を伝えることができます。
声が出なくなり、手や指が動かなくなっても、「瞬きワープロ」を使ってまぶたと眼球の動きだけで意思表示し、原稿を書いている患者もいます。

よって、選択肢⑤は誤りと言えます。

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