公認心理師 2022-9

ディスレクシアに関する問題です。

過去問で出題されている内容と同じですが、言語圏に関する内容は初出だったかなと思います(とは言え、他の選択肢で解くことが可能ですね)。

問9 子どものディスレクシアの説明として、最も適切なものを1つ選べ。
① 知的能力障害(精神遅滞)を伴う。
② 生育環境が主な原因となって生じる。
③ 文字の音韻情報処理能力に問題はない。
④ 読字と同時に、書字にも障害が見られることが多い。
⑤ この障害のある人の割合は、言語圏によらず一定である。

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公認心理師 2019-86

解答のポイント

ディスレクシアに関する基本的な理解を有している。

選択肢の解説

① 知的能力障害(精神遅滞)を伴う。
② 生育環境が主な原因となって生じる。
③ 文字の音韻情報処理能力に問題はない。
④ 読字と同時に、書字にも障害が見られることが多い。

学習障害という概念が登場する以前から、英語圏では知能が低くないにも関わらず、主として読みの能力に困難を示す「ディスレクシア」の存在が知られていました。

1950年代には、軽度の脳障害と学習上のつまづきや多動などの行動特徴との関連が想定され、微細脳損傷という用語が用いられるようになりましたが、1960年代になると、教育学的な立場から学習障害という概念が登場しました。

現在は学習障害(限局性学習症、LD)の概念は整理されており、読み書き能力や計算力などの算数機能に関する、特異的な発達障害のひとつであり、読字の障害を伴うタイプ、書字表出の障害を伴うタイプ、算数の障害を伴うタイプの3つが存在するとされています(この辺はDSM-5でも「該当すれば特定せよ」とされていますね)。

教育の立場では文部科学省の定義にあるとおり「全般的な知的発達に遅れはないものの聞いたり話したり、推論したりする力など学習面での広い能力の障害」を指し、医学的LDは「読み書きの特異的な障害」「計算能力など算数技能の獲得における特異的な発達障害」を指すことが多いです。

なお、DSM-5の限局性学習障害の基準Dには「学習困難は知的能力障害、非矯正視力または聴力、他の精神または神経疾患、心理社会的逆境、学業的指導に用いる言語の習熟度不足、または不適切な教育的指導によってはうまく説明されない」とありますから、選択肢①(知的能力障害)と選択肢②(生育環境:心理社会的逆境)は否定されることになりますね

ディスレクシア自体は脳損傷によって後天的に生じる場合もあり、その場合は「失読症」と表現されますが、一般に「ディスレクシア」と呼ぶ場合は発達性の読字障害を指す際に用いられる表現です。

ディスレクシア=読字障害とされてはいるものの(DSM-Ⅳでは読字の障害とされていた)、文字の習得過程に起こる障害であるため書字にも障害があることが多く、「読み書き障害」とも呼ばれることがありますね(こっちの方がメジャーな言い方かもしれません)。

読字が基本的な障害になるのでしょうが、読字と書字は深くつながっているので、通常、読み能力だけでなく書字能力も劣ることになります

これらの点から選択肢④の「読字と同時に、書字にも障害が見られることが多い」というのは適切であることがわかりますね。

なぜ、こうした症状が生じることになるのか、大まかに述べていきましょう。

識字プロセスには、文字や単語を構成する音に結びつけて分析する「音韻的処理」(主に表音文字)から、単語・文章そのものからダイレクトに意味を理解する「正字法的処理」(表意文字も含む)までいくつかの段階があります。

ディスレクシアの主症状である文字と音を結びつけ操作する力は、後天的に脳のいろいろな部位をつなげながら学んでいきます。

音韻的処理とは大雑把に言えば、読むために文字を認識し、音と結び付け、いくつかの文字のつながりで単語として認識し、理解することを指しますが、これがスムーズにできないと、たどたどしい、読み間違える、音読すると意味が分からないなどの症状が出ます。

つまり音韻的処理は、①字と音を結びつけること(「あ」の文字 →「ア:A」という音であるとすぐにわかる)、②文字を単語として認識し、意味や読み方を頭の中の記憶から探してくること(「れ」「い」「ぞ」「う」「こ」のひらがなが連続してある →「しんごうき」→の意味や視覚イメージができる)、という段階があるということです。

ディスレクシアの場合、こうした音韻的処理に問題があることが指摘されており、例えば「ぬ」という言葉を見て「ヌ」という音なのか「メ」という音なのかで迷ったり、なかなか音が出てこなかったりということがあれば、音韻処理に少し課題があるということにあります。

また、例えば「ぞれいうこ」と書いてあっても、なんとなく「れいぞうこ」と多少正確でなくても読めるのが一般的ですが、ディスレクシアの場合はそういった処理が苦手で、単語にまとめたり、意味をイメージしたりすることに困難があります。

なお、発達性ディスレクシアの読字や書字の特徴には、以下のものがあります。

  1. 文字を一つ一つ拾って読むという逐次読みをする
  2. 単語あるいは文節の途中で区切って読む
  3. 読んでいるところを確認するように指で押さえながら読む(これらは音読の遅延、文の意味理解不良につながる)
  4. 文字間や単語間が広い場合は読めるが、狭いと読み誤りが増えて行を取り違える
  5. 音読不能な文字を読み飛ばす
  6. 文末などを適当に変えて読んでしまう適当読み
  7. 音読みしかできない、あるいは訓読みしかできない
  8. 拗音「ょ」促音「っ」など、特殊音節の書き間違えや抜かし
  9. 助詞「は」を「わ」と書くなどの同じ音の書字誤り
  10. 形態的に類似した文字「め・ぬ」等の書字誤りを示す

これらも把握しておくとディスレクシアの可能性を認識しやすくなるでしょう(ただし、こういうのは実地で学ぶのが一番ですね)。

以上より、選択肢①、選択肢②、選択肢③は不適切と判断でき、選択肢④が適切と判断できます。

⑤ この障害のある人の割合は、言語圏によらず一定である。

発達性ディスレクシアの発生頻度はアルファベット語圏で3~12%と報告されています。

日本では2002年に続いて2012年に小中学校教師を対象とした全国調査が行われ、それによると学習面に著しい困難を示す児童生徒は4.5%存在することが示されています。

この数字からも明らかなように、ディスレクシアの出現頻度は欧米と比較して日本は明らかに低いことがわかります。

この要因として挙げられているのが、言葉の特性です。

ディスレクシアの人にとって読み書きを困難にする一番の原因である「音と文字の関連性」が日本語では少なく、「あ」は「あ」としか読まず、それ以外の読みに関しても多くても濁音・半濁音になるなどに過ぎません。

これに対して、英語の場合では「a」という文字があって、これが単語のどこにくっつくかで、いろんな音に変わってしまい、ディスレクシアの人にとってより混乱が起こりやすくなってしまうわけです。

事実、ディスレクシアの割合は日本が5%以下なのに対して、アメリカ3〜10%(2000年)、イギリス5〜17%(1998年)、ドイツ 5%(1997)、イタリア2%(1969)と報告されており「文字と音の対応」が複雑な言語ほど、ディスレクシア人口は多い傾向にあります。

読み書きについては、正確には小学校4年生くらいにならないと日本語のディスレクシアはハッキリとわからないことがあります。

ここまで読んだ人の中には気づいた人もいるでしょうが、上記は「日本語の特性上、ディスレクシアであっても読み書きができてしまっている可能性」を示唆しています。

ディスレクシアがあったとしても日本語だとそれが顕在化しにくいので、気づかれていないというケースも少なくないと言えます。

そう考えると本選択肢の「ディスレクシアは言語圏によらず一定である」という可能性もないわけではないのですが、やはりここは「ディスレクシアと診断されている割合が、言語圏ごとによって異なるか否か」で判断すべきでしょう。

よって、選択肢⑤は不適切と判断できます。

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