公認心理師 2018追加-32

知能とその発達について、誤っているものを1つ選ぶ問題です。

以前、知能については一度まとめていますので、こちらの記事をご覧ください。
知能については高齢期と絡めた問題が出たことはありましたけど、こういった知能そのものについての問題は初めてでした。

基本的内容になっているので、押さえておきましょう。

解答のポイント

知能に関する基本的知識、知能の発達について把握していること。

選択肢の解説

『①知能指数とは一般的に「精神年齢÷生活年齢×100」の値を指す』

知能指数と呼び習わすものとして、生活年齢と精神年齢の比を基準とした「知能指数」と、同年齢集団内での位置を基準とした標準得点としての「偏差知能指数」の2種類があります

知能指数を算出する方法の検査では、「精神年齢÷生活年齢×100」で算出されます(成人の場合は生活年齢を18歳程度に固定して計算)。
これに対して偏差知能指数を算出する方法の検査では、「(個人の得点−同じ年齢集団の平均)÷([15分の1または16分の1]×同じ年齢集団の標準偏差)+100」で算出されます。
※ビネー式の場合は16分の1、ウェクスラー式の場合は15分の1を使用します。

一般に知能指数と呼ぶときには「偏差知能指数」ではなく、「精神年齢÷生活年齢×100」で計算される「知能指数」を指します
臨床実践で偏差知能指数が用いられることが多いのは「同一集団内と比較してどの程度に位置しているか」が厳密に把握できるという利点のためです。
しかし、「精神年齢÷生活年齢×100」という生活年齢に対する発達の相対的速度が測られるものを「知能指数」と呼び、偏差知能指数とは分けて論じられます。

ある程度の年齢に到達すると厳密な数字が出なくなるなど「知能指数」の問題は指摘されていますが、あくまでも偏差知能指数は「同一集団内」という条件が入っているので、広い意味での「知能指数」とイコールするには無理があると言えましょう

「知能指数」は歴史的には、知能指数の考え方自体はドイツのシュテルンの創案によりますが、フランスで開発された最初の知能検査であるビネー=シモン尺度がアメリカにわたり、ターマンらによってスタンフォード=ビネー知能検査に発展していった時に取り入れられ、実用化されました。

以上より、選択肢①は正しいといえ、除外することが求められます。

『②流動性知能は主に神経生理学的要因の影響を受けて形成される』
『④結晶性知能は主に経験や教育などの文化的要因の影響を受けて形成される』

流動性知能/結晶性知能という分類はCattellが知能因子説で提唱したもので、正式には流動性一般知能、結晶性一般知能と言います。
知能を構成している因子を因子分析によって抽出したものを知能因子と呼びますが、このなかでキャッテルはサーストンの多因子説に賛同しつつも、因子分析の結果、多因子から構成される知能構造は流動性知能と結晶性知能という2つの共通因子によって単純化できると考え、こちらの分類を提唱しました。

流動性知能とは、新しい場面への適応を必要とする際に働く能力であり、脳髄ないし個体の生理的成熟に密接に関係していると考えられています
一般に速度が重視される検査項目、たとえば、時間を限って取り組ませる課題や反応の時間に関するものです。
特徴をまとめると以下の通りです。

  • 文化や教育の影響を比較的受けにくい。
  • 個人の能力のピークが早期(10代の後半から20代の前半)に現われる。
  • 老化に伴う能力の衰退が顕著である。

結晶性知能とは、過去の学習経験を高度に適用して得られた判断力や習慣であり、流動性知能を基盤とするが、経験の機会など環境因子、文化因子により強く影響されると考えられています
特徴をまとめると以下の通りです。

  • 文化や教育の影響を大きく受ける。
  • 能力のピークに達する時期が遅い。
  • 老化による衰退が緩やか。

以上より、選択肢②および選択肢④は正しいと言え、除外することが求められます。

『③知能は全般的に青年期前期にピークに達し、その後急速に衰退する』

まずは青年期前期が何歳くらいかを知っていることが前提ですね。
一応、エリクソンの発達段階を示しておきましょう。

  1. 乳児期(0歳~1歳6ヶ月頃)
  2. 幼児前期(1歳6ヶ月頃~4歳)
  3. 幼児後期(4歳~6歳)
  4. 児童期・学齢期(6歳~12歳)
  5. 青年期(12歳~22歳)
  6. 成人期前期(就職して結婚するまでの時期)
  7. 成人期後期;壮年期(子供を産み育てる時期)
  8. 老年期(子育てを終え、退職する時期~)

上記より青年期は12歳~22歳とされ、一般的に「前期」に該当するのは12歳~15歳の中学生の期間と言われています
この時点で、その年齢がピークであるはずがないとわかりますね

知能の発達については、以下の図が傍証になると思われます。

図からもわかるとおり、加齢の影響を受けやすい流動性知能は10代半ばを境に緩やかな衰退傾向にありますが、結晶性知能はそのまま上昇傾向にあります(流動性知能は30代がピークという研究もあります。この辺の曖昧さは選択肢⑤と関連しますね)。
選択肢の内容は流動性知能について指しているようにも思われますが、それでも選択肢内の「急速に衰退する」という表現は誤りだとわかります

知能に限定されませんが、大脳皮質の委縮は30歳から始まり、10年で約2%の変化があるとされています
知能も徐々には減退していきますが(流動性知能は下がってきますから、全体としても少しずつ下がってくるのはわかりますね)、「青年期前期」でも「急速に衰退」でもないことは確実です

知能の発達のピークは従来考えられていたよりもずっと遅く、60代頃にあるという知見も見られます(もちろん「知能の発達」をどう定義するかも重要ですが)。
その知見では、その後若干の衰えはみられるが、低下が加速するのは80代後半から90代に入ってからということです。

以上より、選択肢④は誤りと言え、こちらを選ぶことが求められます。

『⑤知能の発達曲線は横断研究と縦断研究のデータで大きく食い違うことがある』

こちらについては横断研究と縦断研究の特徴が絡んできます。

横断研究では、世代による就学率・学歴の相違(時代によってかなり就学率は違う)、テストを受けることへの慣れの相違(教育行政によって、テストの多さは世代によって異なる)、メディアの普及や教育的・文化的環境の相違(教育機会の違いや情報を得られる手段の多様化など)、などが影響する可能性が考えられています

縦断研究では、繰り返しによる練習効果(何年も繰り返しテストを行うので、訓練されてしまっている)、参加者の脱落による生き残り効果(テストができなくて嫌な人は研究対象から抜けやすく、残るのはそういったテストが得意な人たち)等が影響してきます

これらの違いが研究結果を歪めることになるので、必ずしも正確なデータを採ることが容易ではありません。
このファイルをご参照ください(もとのファイルはこちらです)。

以上より、選択肢⑤は適切と言え、除外する必要があります。

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