公認心理師 2021-15

TEACCHプログラムに関する問題です。

かなり基本的な内容が問われていますね。

問15 TEACCHの説明として、最も適切なものを1つ選べ。
① 青年期までを支援対象とする。
② 生活や学習の環境を構造化する。
③ 被虐待児を主な支援対象とする。
④ 標準化された統一的な手順を適用する。
⑤ 視覚的手がかりを使わずにコミュニケーションを支援する。

解答のポイント

TEACCHプログラムの概要を把握している。

選択肢の解説

① 青年期までを支援対象とする。
③ 被虐待児を主な支援対象とする。

※以下の記述では「自閉症児」という言葉を多く使っていますが、これはTEACCHプログラムが立ち上がった当時の呼び名がそうであったので、そのまま使用しています。ご存じの通り、現在では自閉症スペクトラム障害(ASD)が該当します。

TEACCHとは、Treatment and Education of Autistic and related Communication handicapped Childrenのそれぞれの頭文字をとった造語であり、日本では「自閉症と関連するコミュニケーション障害児の治療と教育」と訳されています(ティーチ、と読みます)。

1966年にアメリカのSchoplerらが自閉症児を中心とする発達障害児のための「子どもの研究プロジェクト」を立ち上げました。

その成果が認められ、1972年にノースカロライナ州の自閉症児支援の一つとして、ノースカロライナ大学医学部精神科に設立されたプログラムがTEACCHです。

1960年代のアメリカでは、フロイトの精神分析の考えが主流であり、自閉症も心の病であると考えられていました。

ショプラーの師であるブルーノ・ベッテルハイム(愛はすべてではない、が有名ですかね)は、冷蔵庫のように冷たい母親が原因で自閉症になるという考えていました。

しかしながら、自閉症児のきょうだいはほとんどがノーマルであるという事実から、多くの学者(リムランド、ウィング、ラターなど)が情緒障害児説に疑問を感じており、その中でショプラーはその原因を神経心理学、つまりは脳の障害ではないかと考えるようになったのです。

当時から多くの自閉症児の臨床に関わっていたショプラーは、多くの自閉症児が言葉の理解が弱く、異なった状況から情報を統合することができなかったり、定型発達の子どもと比べて感覚が異なっていると考えました。

しかし、一方では視覚的な刺激に強いこともわかっていたので、自閉症児の学習スタイルをオーガナイズする方法として、視覚的な強さを利用するべきではないかと考えるようになりました。

こうした流れの中でショプラーは、自閉症児を治すという発想ではなく、自閉症児のスキルを向上させることへと方法を転換し、それらを補うためには、自閉症児に活動しやすいような場を設定する、いわゆる「構造化」による支援を考えるに至りました。

まずは自閉症であるかどうかの適切な診断と発達評価を重視し、自閉症の子どもを最も知っているのは保護者であるため、親を共同治療者あるいは専門家の仲間として関わることが有効であると考えました。

そのため、自閉症の子どもだけではなく、親のスキルの向上にも焦点を置くようになっています。

こうしたいわゆるペアレントトレーニングの流れが出てきたということですね。

こうしたTEACCHですが、特徴が以下のようにまとめられております。

  • 自治体規模の介入:ノースカロライナ州政府の全面的なバックアップと全州規模での実施。
  • ゆりかごから墓場まで:幼児期から成人して地域で生活するまで、障害児の一生を地域で生活するための長期的体系的プログラムである。
  • 自閉症児の文化:自閉症の人々の行動様式を文化の一つとして捉え理解しようとする。
  • 親は共同療育者:専門家のセラピストの支援と同等以上に、親の療育への関与が期待される。
  • 構造化された教育:予測不能な状態が苦手である特性を持つ自閉症児に対して、整理され、構造化された環境をつくる。

選択肢①と関わる部分としては「ゆりかごから墓場まで」がありますね。

ASD児は、乳幼児期からその特徴が出始め(特徴的なのが言語によらないコミュニケーションの発達の遅れ。共同注意など)、3歳以降になると対人関係上の特徴(呼ばれても振り返らない、積極的に関わろうとしない等)や興味の特徴(一定のパターンの運動に没頭する、順序や物の配置が同じであることに強くこだわる、文字や数字などの記号的なものにこだわる等)などが出てきます。

TEACCHプログラムの特徴は、こうした早期の段階から支援をはじめ、地域社会で暮らすことを目指しているという点にあり、それが「ゆりかごから墓場まで」ということの意味になります。

ですから、ノースカロライナ州政府との協力により州内で生涯にわたる支援システムが構築されており、学校への支援、進学や就労時の移行支援、成人期の就労や居住支援なども行っています。

以上のように、TEACCHプログラムでは、ASD児を対象にしており(被虐待児ではない:選択肢③)、支援は「ゆりかごから墓場まで」という長期にわたって行われています(青年期までではない:選択肢①)。

よって、選択肢①および選択肢③は不適切と判断できます。

② 生活や学習の環境を構造化する。
④ 標準化された統一的な手順を適用する。
⑤ 視覚的手がかりを使わずにコミュニケーションを支援する。

既に述べた通り、TEACCHの基本は、個人に合わせて個別化された支援であり、そのための方法として構造化を用います。

個人の苦手を補うよう、環境を物理的・視覚的に整えるためにアセスメントを重視し、CARS:小児自閉症評定尺度やPEP:自閉症・発達障害児教育診断検査などが開発されています。

TEACCHプログラムは、それぞれの子どもに合わせて支援法を考えていくオーダーメイドのアプローチであり、共通しているのは構造化を用いて、特に視覚的な刺激を活用する点にあります。

以下では、本選択肢のテーマになっている、構造化と視覚的手がかりについて詳しく述べていきましょう(個別化された支援がTEACCHですから、選択肢④の「標準化された~」については不適切だとわかりますね)。

ASD児は、自分の周囲で「今、何が起きているか」「この後、何が起きるか」「自分は何をすればいいか」が明確に整理されていない場合、いつ・どこで行動すべきか、自分で判断するのが苦手です。

つまり、自由な空間では判断に迷い、混乱してしまいがちなので、「構造化」という手法を用いて環境を整理することで、状況理解を容易にします。

具体的には、多目的な場所にするのではなく、「休む場所」「一人で勉強する場所」など活動と場所を結びつけることも有効な手段の一つであり、これを「物理的構造化」と呼びます。

このように、エリアと期待される行動を対応させる(勉強する場所、遊ぶ場所、落ち着く場所)とともに、そのエリアの間を明確な仕切りで分ける(ついたて、棚、囲い、カーペット)などの工夫も重要になります。

そして、ASD児は先を見通すことなども苦手なので、スケジュールを決めるといった対応を取ることが多いです。

何かをする状況では、①どんな活動(学習や作業)をするのか、②どのくらいの時間、あるいは量の作業や活動をするのか、③その課題や活動はいつ終わるのか、④終わった後は何をするのか、何をしてもよいのか、などを明確にしていくことになります。

また、コミュニケーションにおいては、特に「話しかける」などの音声コミュニケーションよりも、イラストや写真で提示する視覚的なコミュニケーションの手法にASD児は強みがある場合が多いとされています。

そのため、指示や、意思表示をイラストや写真を使って行うようにします(これを「視覚的構造化」と言います)。

絵や図を使った療育を続けていくと、子どもはカードが特定のものを示すことを覚えて、それを自分から使うようになります。

カードを使って食べたいものを表現したり、トイレに行きたい気持ちを伝えたりすることを覚える等、視覚的な手段を用いてコミュニケーションが育っていくわけですね。

ただし、全てのASD児が資格を使った理解を得意としているわけではありません。

子どもによって、理解しやすい方法は様々で、中には絵よりも音を好む子どももおります。

また、こうした絵カードを使ったアプローチが、いつの間にか「親の思い通りに動かそうとする手段」と変貌を遂げないように支援者は注意深く見ておく必要があります。

こうした事例において、絵カードを見るとパニックを起こすまでになったASD児を見たことがあります。

このような「本来、自分を助けてくれるもの」に対して強い拒否反応を示すようになってしまうと、重要なコミュニケーションの方法をかなりの長期間にわたって失うことになってしまいます。

これは別にASD児の絵カードに限ったことではなく、「子どもの興味の強度・速度を超えないようにする」という親としてのマナーのお話ですね。

河合隼雄先生が文化庁長官だったとき、文化財の布の修復のときに「もともとの布よりもちょっとだけ弱い布を使って修復する」ということを聞いたそうです。

河合先生は、この例の中で、教育者の意欲が子どもの意欲を超えて関わってしまうと、かえって子どもの意欲が出てこなくなるということを述べておられました。

実際に習い事や社会体育(少年野球とかサッカーとかのこと)の中で、親が強い意欲で進めてしまい、大きくなってからそれらの競技を好まなくなっている例を多く見ています。

この辺のマナーは子どもを育てる多くの支援者も知っておく必要があるでしょうね。

以上のように、TEACCHは個別的なアプローチであり、構造化の手法を用い、視覚的手段を活用していることがわかりますね。

よって、選択肢④および選択肢⑤は不適切と判断でき、選択肢②が適切と判断できます。

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