公認心理師 2020-115

ペアレント・トレーニングに関する基本的な知識が問われている問題です。

私は常々、子どもの問題は「彼らが置かれた状況において、ごく自然な反応を示しているだけ」と考えています(それは親をはじめとした環境に問題があるという意味ではありません。重要なのは子どもの特徴と親をはじめとした環境との嚙み合わせですからね)。

ですから、発達障害児に限らず、心理的問題を呈した子どもの支援において、親との面接は極めて重要であると確信しています。

問115 発達障害のある子どもの親を対象としたペアレント・トレーニングについて、不適切なものを1つ選べ。
① 育児から生じるストレスによる悪循環を改善する。
② 対象は母親に限定していないが、参加者の多くは母親である。
③ 親と子どもが一緒に行うプレイセラピーを基本として発展してきた。
④ 子どもへの関わり方を学ぶことで、より良い親子関係を築こうとするものである。
⑤ 注意欠如多動症/注意欠如多動性障害〈AD/HD〉のある子どもの親に有効である。

解答のポイント

ペアレント・トレーニングに関する基本的理解があること。

選択肢の解説

① 育児から生じるストレスによる悪循環を改善する。
③ 親と子どもが一緒に行うプレイセラピーを基本として発展してきた。
④ 子どもへの関わり方を学ぶことで、より良い親子関係を築こうとするものである。

ペアレント・トレーニングとは、行動変容の学習を通して親の養育行動を変容させることにより、子どもの健全な成長発達の促進や不適切行動の改善を目的とした行動理論に基づく心理教育的アプローチの総称です。

行動理論に基づいていますので、選択肢③の「親と子どもが一緒に行うプレイセラピーを基本として発展してきた」というのは不適切であると言えそうですね(ペアレント・トレーニングの日本での展開については他選択肢でも述べます)。

そもそも選択肢③にあるプレイセラピーとは、「遊びを主たる表現手段、コミュニケーションの表現手段とする心理療法のことを指す。その理論的立場の歴史的展開は精神分析(児童分析)に始まり、関係療法、非指示的心理療法、その他さらに分岐しながら今日に至っている」というものです。

遊びの治療的機能としては、以下が挙げられます。

  1. 関係の絆:遊びを用いることによって、治療関係が結ばれ、維持され、深まる
  2. 大切にされる体験:セラピストが子どもの遊びを大切に扱うことによって、子どもは自分が認められ、大切にされていると感じる。
  3. 関係の投影:様々な重要な人間関係が遊びの中に投影される。
  4. カタルシス・代償行為:単なるカタルシスだけでなく、現実に追求することが困難な願望・衝動を遊びの形で達成させて代償的な満足を得る。
  5. 表現:遊びに込められたメッセージは、言葉では表現し尽くせないものまでも表現する。
  6. 心の作業:子どもが抱える内的課題が遊びという心的活動の中で扱われる。
  7. 前概念的体験:遊びという、意識と無意識の中間領域によって、自我の変容を引き起こす決定的な体験が生じる。
  8. 守り:子どもの行動が「遊びの枠」に収まることによって、遊戯療法の場が治療的に守られる。

こうした機能によってプレイセラピーが治療的になるということですが、ペアレント・トレーニングのそれとはずいぶん異なることがわかりますね。

このように、プレイセラピーとペアレント・トレーニングはその発祥を異にすることはわかりますが、選択肢③の「親と子どもが一緒に行うプレイセラピー」という「親と子どもとプレイ・セラピストが同席してのプレイセラピー」では、「プレイセラピストの子どもとの関わり方を見せる」ということを狙う場合もあり得ます。

ただし、そもそも「親子同席のプレイセラピー」自体がイレギュラーなものですし、「プレイセラピストの子どもとの関わり方を見せる」という目標のもち方は例外的なものです。

あくまでも子どもの支援としてプレイセラピーが行われることを考えれば、ペアレント・トレーニングとはその方向性が異なることはわかるはずですね。

ペアレント・トレーニングの目的や効果としては、親の養育スキルの獲得、親子関係の改善、子育てストレスや抑うつ状態の軽減といった親の心理・認知・行動面の改善と、子どもの行動変容として、生活スキルやコミュニケーション行動などの適応行動の獲得、問題行動の改善という親子両者の行動変容がその特徴となります。

一般に、ペアレント・トレーニングは発達障害児への適用が多いですが、上記のような効果が期待できるので、発達障害のみならずさまざまな対象に適用可能と言えます。

また、ペアレント・トレーニング単独よりも親への全般的な介入の方がより効果的であるか否かを調べるため、子どもの行動に対する親の認識と、親自身の個人的、夫婦間のそして家庭外での適応に注目した「親援助療法」を実施しました。

その結果、ペアレント・トレーニング単独よりも、親援助療法を加えた方がより効果的に、家庭で観察した子どもの行動と親の行動的方略の使用に改善が見られ、2か月後のフォローアップにおいてもよりよく維持されたという結果があります。

すなわち、選択肢①や選択肢④のような親への援助という効果は、ペアレント・トレーニングで期待できると言えますね。

以上より、ペアレント・トレーニングは行動理論に基づいた方法であり、育児から生じるストレスによる悪循環を改善したり、子どもへの関わり方を学ぶことでより良い親子関係を築くことが期待できます。

よって、選択肢③が不適切と判断でき、選択肢①および選択肢④は適切と判断できます。

② 対象は母親に限定していないが、参加者の多くは母親である。

日本における発達障害の親に対するペアレント・トレーニングの実態調査によると、ペアレント・トレーニングの多くはグループ形式での連続講座として実施されており、小学生以下の発達障害のある子どもの親を対象としていることが示されています。

これまで報告されている論文からは、 ペアレント・トレーニングを受けているのは、ほとんどが母親であり、父親を対象としたプログラムや、両親が参加したプログラムは少ない状況です(ちなみに母親の年齢は、そのほとんどが30代前半から中盤でした。その配偶者である父親の年代は、いわゆる「働き盛り」であり、それも影響しているのかもしれませんね)。

なお、多くのペアレント・トレーニングでは、参加者に対して、毎回の参加と、各回ごとに出されるホームワークに取り組むことを義務付けていますが、研究者・治療者によってはペアレント・トレーニング参加希望者に対して、母親自身に知的障害や明らかな精神障害がないこと、子どもと同居していることも条件としています。

ペアレント・トレーニングの参加者に母親が多いのは、父親が長く子育ての「補助的役割」と見なされていた歴史があったり(事実、父親対象のペアレント・トレーニングの内容には補助的なものが多かった)、男女の平均収入の差も関係していると考えられます(例えば、平日に定期的なペアレント・トレーニングが開催されたとき、どうしても収入が多い方が仕事へ行くという形になりやすい。これは社会問題の一つでしょうね)。

しかし、父親がペアレント・トレーニングに参加することで、母親と子育てに関する共通の見解を持つことができたり、互いに支えあう関係になりやすくなると考えられるので、積極的に父親が参加しやすいようなペアレント・トレーニングの形態や社会的な理解が必要だと言えますね。

以上より、ペアレント・トレーニングの対象は母親のみではありませんが、それでも母親の参加がほとんどを占めているのが現状です。

よって、選択肢②は適切と判断できます。

⑤ 注意欠如多動症/注意欠如多動性障害〈AD/HD〉のある子どもの親に有効である。

行動論を中心とした構築されてきたペアレント・トレーニングは、ADHDや反抗挑戦性障害、行為障害に対する、実証的に指示された治療法として確立してきています。

ペアレント・トレーニング・プログラムの要点は、社会的学習の原理に基づく行動変容の技法を親に教えることであり、具体的には、親は、子どもの不適切行動の先行する出来事と結果を変えることを教えられます。

例えば、賞賛、肯定的注目、報酬を伴うことにより向社会的行動を強化していく一方で、無視、レスポンスコストやタイムアウトのような訓練技法により不適応行動を除去していきます。

ペアレント・トレーニングの効果を最大限にするためには、親はこれらの技法を一貫して実施していくことが重要になります。

こうしたADHDへのペアレント・トレーニングが発展してきた背景には、アメリカ合衆国にあるカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)神経精神医学研究所スタッフであるWhithamが著したものの邦訳ならびにそれらに準拠しながら、とりわけ日本においてペアレント・トレーニングを実践するための具体的なガイドラインとして刊行された著作(岩坂・中田・井澗,2004)が、日本でのペアレント・トレーニング導入と実践に大きく寄与しています。

ペアレント・トレーニングには、破壊的行動障害を対象としたDBD-PT(DBDは破壊的行動、PTはペアレント・トレーニングの意味)という具体的なアプローチがあります。

DBD-PTは、問題行動の改善が主要なニーズであり、親のストレスや夫婦の機能などの家族の要因を評価し、親の関わり方の変容だけでなくストレスマネジメントも含めた支援プログラムとして発展してきました。

DBD-PTでは、問題行動の低減や社会スキルの獲得を主たる目標とし、消去やタイムアウトなどの比較的単純な技法を活用します。

子どもや親の行動変容は質問紙によって評価し、グループ形式で主にクリニックにて行われています。

ただし、この方法は一般性を証明するためには有効ですが、ペアレント・トレーニングに含まれる個々の要素の効果は検証しにくいというデメリットもあります。

多くの発達障害がある中で、特にADHDのある子どもの親に有効な理由としては、ADHD自体が環境との相互作用でその状態像が大きく変化するという面があるからだと考えられます。

学校などでの対応も、担任の関わり方を工夫することで教室で過ごす状態像が大きく変わり得るのがADHDですから、これは家庭であればなおさらだろうと思います。

落ち着きのなさ、不注意による危険な事柄が家庭内で生じることで、親としてはただただ叱責するだけという対応がパターン化していることも少なくありません。

そうした状況で適切な対応をすることによって、ADHDは大きく変化する可能性を秘めていると言えるでしょう。

また、ADHD児の親に対するペアレント・トレーニングは、子どもへの薬物療法との併用で用いられていることも多いですが、ADHD児の中には薬物療法が有効でない子どもや、薬物による重大な副作用がある場合、あるいは親のほうに薬物療法に対する抵抗があり、薬物が使用できない場合もあります。

そのような場合、ペアレント・トレーニングとの併用により薬物の量を減少できる利点もありますから、薬物以外の効果的な介入方法であるペアレント・トレーニングが重要になってきます。

こうした種々の理由により、ペアレント・トレーニングはADHD児やその親への支援として有効であることがわかります。

以上より、選択肢⑤は適切と判断できます。

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