公認心理師 2022-12

高次脳機能障害の遂行機能障害で生じる事柄を選択する問題です。

他にも注意障害、記憶障害、失語症などがありますから、それらとの違いも含めて理解できていると良いですね。

問12 高次脳機能障害における遂行機能障害の説明として、最も適切なものを1つ選べ。
① 話題が定まらない。
② 自発的な行動に乏しい。
③ 行動の計画を立てることができない。
④ ささいなことに興奮し、怒鳴り声をあげる。
⑤ 複数の作業に目配りをすることができない。

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解答のポイント

高次脳機能障害の各障害とその特徴を把握している。

選択肢の解説

① 話題が定まらない。
③ 行動の計画を立てることができない。

本問の解説は以下の書籍を参考に進めていきます。

遂行機能とは「目的のある一連の行動を有効に行うために必要な認知能力」のことを指し、実行機能と訳されることもあります。

遂行機能は、家事・料理・買い物・仕事・外出・旅行など日常生活のあらゆる場面で必要となり、何かの問題に遭遇したときに、それを解決するために用いられる認知能力で、社会的に責任ある適切な行為を取るために不可欠な能力と言えます。

この遂行機能を論じる時、必ずと言ってよいほど引用されるのがLezakの定義であり、Lezakによれば、遂行機能(実行機能)には、目標の設定、プランニング、計画の実行、効果的な行動という要素が含まれるとしています(以下に詳しく述べていきます)。

  1. 意思や目標の設定:
    問題解決のためには、まず「問題を解決する」という意思を持ち、「どうしたのか」という目標を明確に設定することが重要である。この目標の設定には、発動性(自ら行動を開始する能力)と動機づけが関わってくるし、自分や環境の認識といった状況の把握、そして目標を明確にする能力や解決されるまで目標を維持する能力が必要である。
    ここに問題があると、対人場面においては会話を始めなかったり、感情の平板化を示したりする。また日常生活では冷蔵庫が空になっていても買い物に行こうとしなくなるなどの問題が生じる。
  2. 計画の立案:
    「問題を解決する」という目標を達成するためには、自分自身や取り巻く環境を客観的に捉えて計画を立てることが必要となる。そのためには問題解決に必要な手段・技能・材料・人物などを想起する能力、もしくは解決のための新しいアイデアを発案する生成的思考あるいは発散的推論の能力、認知的柔軟性が必要である。そして、それらを評価して必要なものを取捨選択して、行動を方向付ける枠組みを構成・組織化する能力が必要である。

    生成的思考に問題があると対人場面では会話を生み出すことができず、言いたいことがなさそうに見える。またオープンクエスチョンに答えることができない。日常生活では買いたい物が無かった時に、代替品を考えることができないなどの問題が生じる。
    構成・組織化する能力に問題がある場合には、話をまとめることが苦手で、話が回りくどく、話題が飛んだりしてなかなか核心に至らない。買い物の際には、リストを作ることをせず、広い店内で買い物するときに案内図を利用せずに行き当たりばったりに探して時間を効率的に使えなくなったりする。
  3. 目的ある行動・計画の実行:
    計画を実行するためには、計画の立案の中で導き出された一連の行動を正しい順序で適切なタイミングで開始し、維持、あるいは中止する能力が必要である。そのためには計画の内容を最後まで維持する能力と、計画にはない行動を行いたくなる衝動をコントロールし、排除する能力が必要である。計画の内容を最後まで維持するためにはワーキングメモリが必要であり、適切なタイミングで開始するためには展望記憶の能力が必要である。課題を維持する能力に問題があると、会話の最中に興味を失っていったり、同じ話題を保つことができなかったりする。買い物ではリストに書いてあってもリストにある物すべてを購入しなかったりすることが起こる。
    衝動をコントロールする能力に問題があると、自分が話す順番まで待てずに他者が話しているのを遮ったり、そのときの話題にふさわしくない内容を話したりする。日常生活では衝動買いが多くなり、買い物をしている時に魅力的に見えた物は不必要でも、予算を超えていても買ってしまうなどの問題が生じる。
  4. 効果的に行動する:
    目標を達成するためには、自分が何を行っているかを意識でき、そして自分自身の行動が計画通りに行われているのかを監視し、必要があれば自分の行動を調整もしくは修正する能力が必要となる。これらの能力はアウェアネスあるいはセルフモニタリングと呼ばれる。
    アウェアネスに問題があると、自分の障害に対して認識がない状態になる。日常生活では、冷蔵庫に食品が無くても買いそろえることが重要な問題であるということに気づかないというように問題に対する認識が乏しくなる。セルフモニタリングに問題があると、会話場面では相手が自分の話題に関心がなくてもそれに気づかず話し続けたり、自らの行動を振り返る力が乏しくなる。

遂行機能は、注意と記憶の間で相互依存し重複する部分を有しています。

その中で課題の持続(課題持続性)や同時に2つ以上の課題を行う(分割性注意)、あるいは課題を切り替える(転換性注意)といった能力は注意機能と重複します(だから選択肢)。

ワーキングメモリ、展望記憶、アウェアネスは遂行機能と注意と記憶の3つの機能と重複して関与しています(特にワーキングメモリが3つの機能の土台となっている)。

上記のように選択肢③の「行動の計画を立てることができない」というのは、Lezakの遂行機能の定義に含まれる機能であり、選択肢③の内容は遂行機能障害によって生じていることがわかりますね。

少しわかりにくいのが選択肢①の「話題が定まらない」についてです。

こちらは、上記の解説では「話題が定まらない」という事態も遂行機能障害で生じているように見えますが、遂行機能障害自体の問題はあくまでも上記で挙げた、①目標の設定、②計画の立案、③計画の実行、④効果的な行動、になります。

つまり「話題が定まらなさ」があったからと言って「遂行機能障害」を必ずしも予見させるわけではなく(逆に、「行動の計画が立てることができない」が見られれば遂行機能障害を疑うことになる)、話題の定まらなさ自体は注意機能障害(会話が長くなると理解できない、雑音に気をとられて相手の話が耳に入らない等)や記憶障害(例えば、当惑作話:その時々の会話の中で一時的な記憶の欠損やそれへの当惑を埋めるような形で出現する作話)や社会的行動障害(対人関係の障害:急な話題転換、さまざまな話題を生み出すことの困難)によっても生じ得るものです。

ちなみに失語症は「話題の定まらなさ」とは異なるものですね(喚語の誤りなどの方が失語症の問題として認識しやすいでしょう)。

つまり、「話題の定まらなさ」は注意機能、遂行機能、記憶機能などの諸機能と関連しつつ生じ得るものであり、それ自体が特定の機能の特徴的な反応というわけではないと言えます。

よって、選択肢①は不適切と判断でき、選択肢③が適切と判断できます。

② 自発的な行動に乏しい。
④ ささいなことに興奮し、怒鳴り声をあげる。

これらは高次脳機能障害の中でも社会的行動障害に類するものであると考えられます。

社会的行動障害の主な症状として、依存性・退行、感情・欲求コントロールの低下、対人技能の拙劣、固執性、意欲・発動性の低下、反社会的行動があり、一般的な対応との対比は以下の通りです(回復期以降のものです)。

社会的行動障害対応
依存性・退行:子どもっぽくなったり、すぐ家族に頼る立ち去って不必要な反応を強化しない
感情コントロールの低下:怒りが爆発する、人前で泣いたり笑ったりする原因を取り除く、環境調整、向精神薬の少量投与、適度な運動
欲求コントロールの低下:我慢ができない正の強化(適応的な行動で褒める、励ます)、段階を踏んで我慢の練習
対人技能の拙劣:他者に対して共感がない、空気が読めない、振る舞いや会話が一方的グループの中で適応的なスキル習得の練習、本人による記録と見直し
固執性:どうでもよい些細なことにこだわり、臨機応変にできない無理のない目標、プレッシャーを遠ざける
意欲・発動性の低下:自分から何かをしようとしない興味のある分野を探す、過去に使用した物を利用して意欲や動機を促す、生活の習慣化
反社会的行動:万引き、性的逸脱、自らの行為の帰結に無頓着逸脱行為をしにくい環境調整(刺激から遠ざける)

そもそも社会的行動障害という用語は、高次脳機能障害者支援モデル事業の中で命名された「行政用語」であり、これは当事者や家族が抱える困難について、より注目され、適切な支援がなされるようにとの目的を持っています(医学的には、神経行動障害や脳器質性精神障害と呼ばれていたものになりますね)。

こうした不適応の背景には、記憶障害、注意障害、遂行機能障害、大脳辺縁系の興奮による易怒性、機能低下への無自覚、自身の状態への受け容れられなさ、などがあるとされています。

以上のように、ここで挙げた「自発的な行動に乏しい」や「ささいなことに興奮し、怒鳴り声をあげる」に関しては、社会的行動障害に類する反応であると見てよいでしょう。

以上より、選択肢②および選択肢④は不適切と判断できます。

⑤ 複数の作業に目配りをすることができない。

これらは注意機能に関連する障害であると考えられます。

注意とは、外的事象(環境内の様々な刺激)や、内的表象(頭に思い浮かぶ考えや記憶など)のなかで、最も重要なものを選択して、それに対する脳の反応を増幅させる機能であり、適切な事象の選択、意識の集中と持続、他の事象への移動、ならびにそれら全体を制御していく機能と考えられます。

人間の処理資源には限界があるため、状況にふさわしい行動を行うためには、心的資源の適切な分配が必要となり、それを注意という機能が担っています。

神経心理学の領域では、注意は通常、方向性注意と全般性注意に大別され、前者の障害は一側方向への空間性注意が障害された半側空間無視と関連しますが、一般に「注意障害」というときには後者を示すことが多く、以下にはこの全般性注意について概説していきます。

全般性注意は、その内容によりいくつかのコンポーネントに分けられ、注意障害もそれに沿って記述されることが多いです。

臨床現場で良く用いられるのがSohlbergらの分類で、注意を以下の5つのコンポーネントに分けて、その機能の説明を行っています。

  • 焦点性注意:内的・外的刺激に対して反応する。
  • 持続性注意:一定時間、一定の強度で注意を向け続ける。
  • 選択性注意:周囲の刺激から必要な刺激を選択し、妨害刺激への注意の転導を抑制する。
  • 転換性注意:注意を現在の対象から他に柔軟に切り替える。
  • 分割性注意:同時に複数のものに対して注意を向ける。

これらのコンポーネントは階層性を有しており、下層の機能は、それよりも上層の機能が正常に働くための基礎になります。

最下層にあるのは、刺激に対して反応できる状態を実現・維持する焦点性注意であり、これは覚醒水準と重なるものと考えられています。

持続性注意と選択性注意はより低次の注意機能、転換性注意と分割性注意はより高次の注意機能と考えられ、特に後者は目的志向的な行動を制御していくという点で、ワーキングメモリや遂行機能の概念とも重なるものです。

本選択肢の「複数の作業に目配りをすることができない」というのは、上記の分割性注意という高次の注意機能であることがわかりますね。

よって、選択肢⑤は不適切と判断できます。

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