公認心理師 2019-84

問84はリハビリの手法に関する問題ですね。
リハビリについて詳しい方にとっては、それほど難しくない内容だったのではないでしょうか。

問84 脳損傷後に記憶障害を呈する者に対して、スケジュール管理のためのメモリーノートの使用を勧めることがある。これに該当するリハビリテーション手法として、正しいものを1つ選べ。
①環境調整
②反復訓練
③外的代償法
④内的記憶戦略法
⑤領域特異的知識の学習

日めくりカレンダーに、その日の予定を書き込むなども外的代償法の一つですね。
このように、その人の阻害された機能を外的に補うようにするということが、記憶障害のみならず多くの人の支援にとって大切なことになります。

その人のもつ機能ではできないことを「できると信じること」は、非常に無責任な姿勢だと私は考えています。
専門家としてクレバーに、その人の機能を見立て、それに合わせて支援法を考えていくことが大切です。

解答のポイント

記憶障害者の代表的なリハビリテーション技法を把握していること。

選択肢の解説

①環境調整

記憶障害者への訓練は、以下のような方法があります。

  • 反復訓練
  • 環境調整
  • 内的記憶戦略法:
    視覚イメージ法、顔-名前連想法、ペグ法、言語的方略、PQRST法、言語的仲介法、語頭文字記憶法、脚韻法、物語作成法…
  • 外的補助手段

特に、記憶障害者をとりまく周囲の環境に手を加えて生活や仕事をしやすくすること、すなわち環境調整はすべての患者に必要な支援です。
具体的には、物理的環境、生活全般、コミュニケーションの3側面において記憶への負担が少ない環境を作るということが挙げられるでしょう

物理的環境に対する支援としては、戸棚などの収納内容をラベルにして貼る、行動の順序をチェックリストにして貼る、行動できたらカレンダーにシールを貼ってフィードバックする、という訓練を系統的に行い、自立が可能になるよう支援していくことなどが考えられます。
生活全般について記憶への負担を減らすためには、生活パターンや日課を決めて規則正しい生活をする、予定の変更は最小限に抑えるなどが有効です。
会話やコミュニケーション面での調整としては、記憶障害のある人に話しかける場合はまず自分の名前や役割を名乗る、話題やテーマを具体的に伝えて話しかけ、折に触れて繰り返す、何かを説明したり、指示したりする時は必ず紙に書いて目につく場所に貼る、といった配慮などが考えられます。

また、例えば、家族に障害を説明し理解してもらい、本人が混乱に陥る前に適切なタイミングで援助を依頼する、大切なものを見つけやすいように整理する、身につけるなどのように、家族にアプローチして環境を整えることも重要です。

こうした環境へのアプローチは、記憶の訓練を行う場合などにも行うことが重要で、訓練を効率よく実施するために欠かせないことです。
また、訓練環境を家庭生活や職場の環境に類似して設定することで、家庭での混乱が少なくなるように配慮します。

以上のように、環境調整は幅広く行われるものですが、問題文にある「メモリーノートの使用を勧める」というのは別の手法の一つとして紹介されるものです。
よって、選択肢①は誤りと判断できます。

②反復訓練

記憶障害者へのリハビリテーションの実際的な方法としては…

  1. 直接的に記憶力を訓練しようとする反復訓練
  2. 代償法としてまとめられる外的代償法および内的代償法
  3. 学習法の改善による認知訓練
  4. 環境調整

…などが挙げられています。
記憶障害者に対して推奨される一般的方策として、情報の入力時に十分の注意を払い、情報を反復復唱し、記憶補助具を活用し、論理的に情報の想起を試みることなどが行われているということですね。

記憶障害のリハビリテーションでは、戦略的訓練法としてPQRST法があり、こちらは反復訓練方法のひとつです。

  • Preview:予習
  • Question:質問
  • Read:精読
  • State:記述
  • Test:試験

…で構成されています。

記憶自体を良くすることには限界がありますが、それを補う方法を「意識して」繰り返して練習し、「意識しなくてもできる」まで身体に覚えさせることは可能です
他の方法とも絡ませながら、それを反復して身につけることには価値が大きいと言えるでしょう。

このように、反復練習は他の手法とも絡ませながら実践されるものですが、問題文にある「メモリーノートの使用を勧める」というのは別の手法の一つとして紹介されるものです。
よって、選択肢②は誤りと判断できます。

③外的代償法

記憶障害を有する人々には、記憶の外的補助具の使用がしばしば勧められます。
記憶障害者は、記憶の記銘、想起といった自らの記憶機能を用いて活動することが困難になるため、それらを外的に補うもの、すなわち補助具が使用されることになります。
こうした補助具を用いて記憶機能を外的に補うことを「外的代償法」と呼びます

代表的な補助具として、メモリーノート、手帳、リスト、アラーム、ICレコーダーなどがあります。
記憶障害者の日常生活で用いられる補助具に関する調査では、最も利用されていた補助具の上位3つは、カレンダー、メモリーノート、リストとなっており、なかでもメモリーノートは比較的扱いやすくしかも多種にわたる情報を保持することができます
メモリーノートは検索すればその例が沢山示されています。

このように問題文で示されているメモリーノートの使用は、外的代償法の手法を用いたものであると判断できますね

さて、こうした外的代償法ですが、実は基本的な考え方は何も記憶障害の有無に関係なく広く理解しておくべきものです。
基本的には「その人が何らかの理由でできないことに対して、外的なものを活用してできるようにする」ということがあります(ここまで広げると環境調整とも重なってきますね)。
例えば、1歳2歳の子どもが赤信号で渡ろうとするときに、パッと持ち上げたり手を掴んだりするのと同じです。
1歳2歳の子どもにできないこと(赤信号では危ないという認識が持てない)に対して、保護者という「外的なもの」を用いて、赤信号で渡らないようにするということですね。

このように外的代償法の補うツールとして「人間」も含めると、外的代償法は人の成長のあらゆる場面で活用されていることがわかりますね。
例えば、保護者が子どものゲームを止めたり、時間を制限したりすることは「子どもが自分では止められないことを、親という外的なツールを用いて止めている」と考えることも可能ですよね。

もちろん、こういう場合に大切なのは「その人にそれをする力が本当に無いのか?」ということです。
本当は力があるけど、それが発揮される状態に無いのであれば、どういう環境の整え方や関わり方をすれば、その力が発揮されるかを考えていくのが支援となっていくわけですね。
子どもに止める力があるのに口出ししてしまうのは「余計なお世話」になるので、どのくらいその人の力を信じることができるのか、というテーマと絡んできます。

いずれにせよ、問題で示されている手法は外的代償法と見なして相違ないでしょう。
以上より、選択肢③が正しいと判断できます。

④内的記憶戦略法

先述の通り、記憶障害のリハビリテーションでは内的記憶戦略法が採られることが多く、これは主に視覚や言語のイメージと結び付けて記憶しやすくする方法です
具体的には、視覚イメージ法、顔-名前連想法、ペグ法、言語的方略、PQRST法、言語的仲介法、語頭文字記憶法、脚韻法、物語作成法などの方法が考案されております。

その人に内的に保持された能力を活用し、記憶を補助する方法と言えるでしょう。
こちらも記憶障害の支援ではよく行われるものですが、問題文にある「メモリーノートの使用を勧める」というのはある意味対極に位置する手法と言えるでしょう。
よって、選択肢④は誤りと判断できます。

⑤領域特異的知識の学習

こちらはSchacter&Gliskyの提唱した概念で、重篤な健忘症患者でも何らかの新しい知識を獲得可能であることを示しています。
内的補助技法がうまく日常生活に般化できないのであれば、むしろごく限られてはいても、日常生活に必要な意味情報を獲得する方が記憶障害患者の行動障害を低減させるのに意味があると考えられます

領域特異的知識の学習は日常的機能に関係ある情報の獲得に焦点をあてた方法で、人名学習、新しい語彙の獲得等に用いられます
特に、中等度から重度の例では領域特異的な技術や知識(ある特定の領域に特化した技術や知識)の獲得を学習する訓練が勧められます。

領域特異的知識としてよく検討されているものは、コンピュータ用語などの新しい語彙の獲得と、既知人物の名前の学習訓練です
コルサコフ症候群などでは、こうした領域特異的訓練によって、病棟スタッフの名前をある程度覚えられることなどが報告されています。

以上より、本選択肢の内容は問題文の「メモリーノートを勧める」という内容とは乖離があることがわかります。
よって、選択肢⑤は誤りと判断できます。

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