公認心理師 2021-25

ホルモンの作用を問う問題です。

代表的なホルモンの作用を理解しておくことは、過去問から見ても必要だと言えますから、比較的解きやすい問題であったと思います。

問25 ホルモンの作用の説明として、正しいものを1つ選べ。
① メラトニンは睡眠を促す。
② インスリンは血糖値を上げる。
③ 副腎皮質ホルモンは血圧を下げる。
④ プロラクチンは乳汁分泌を抑制する。
⑤ 抗利尿ホルモンは血中のナトリウム濃度を上げる。

解答のポイント

代表的なホルモンの作用を把握している。

選択肢の解説

ホルモンは「刺激するもの」あるいは「呼び覚ますもの」を意味するギリシャ語に由来します。
ホルモンは、①内分泌腺(細胞)で分泌(産生・放出)され、②血流によって運ばれて特定の標的器官(細胞)に作用し、③少量で特異的効果を表します。

これらホルモンの分泌が多すぎたり少なすぎたりすると、心身にさまざまな障害が起こることがわかっていますね。

① メラトニンは睡眠を促す。

メラトニンは視床上部の松果体から分泌されるホルモンです。

メラトニンの主な作用としては睡眠と概日リズムの形成が知られています。

こちらについては「公認心理師 2020-86」で詳しく述べているので、こちらも踏まえつつ解説していきましょう。

松果体におけるメラトニン合成には顕著なサーカディアンリズムが認められ、昼行性夜行性を問わず夜間に合成が亢進します。

光入力経路はサーカディアンリズムの光同調経路と共通しており、網膜から入った光情報は網膜視床下部路、視交叉上核を経由して交感神経系に入り、松果体細胞に達します。

明るい光によってメラトニンの分泌は抑制されるため、日中にはメラトニン分泌が低く、夜間に分泌量が十数倍に増加する明瞭な日内変動が生じます(この経路は形態視を司る視神経から独立しており、完全盲の人でも眼球が保存されている場合には、メラトニン合成が光によって抑制されることがわかっています)。

光によるメラトニン抑制反応は、ヒトでは500ルックス以上の光で生じるとされています。

よく朝日を浴びるようにと言われますが、朝に光を浴びることで脳にある体内時計の針が進み(人間の体内時計は24時間50分なので、どこかの時点で早送りが必要)、体内時計がリセットされて活動状態に導かれます。

この際、こうした強い光を浴びることでメラトニンの分泌が止まります。

メラトニンには目覚めてから14〜16時間くらい経過すると、また光が弱くなってくると再び分泌が始まります。

このメラトニンの分泌の高まりによって、脈拍・体温・血圧を低下させ、睡眠の準備ができたと体が認識し、休息に適した状態に導かれて眠気を感じるようになるわけです。

メラトニンは幼児期に一番多く分泌されることがわかっており、それ以降、年齢を重ねるごとに分泌量が減っていきます。

これが歳をとると眠る時間が短くなるメカニズムの一つとされていますね。

以上より、メラトニンは概日リズムの形成と睡眠に作用することが知られています。

よって、選択肢①が正しいと判断できます。

② インスリンは血糖値を上げる。

膵臓は、胃の後ろにあり十二指腸に接しています。

ほとんどが外分泌組織でできていますが、膵臓全体にわたって直径0.2mm前後の球状の、ランゲルハンス島と呼ばれる内分泌組織が散在しており、その数は約100万個です。

ランゲルハンス島には、α、β、δ、PPという4種類の細胞があり、それぞれグルカゴン、インスリン、ソマトスタチン、膵臓ポリペプチドを分泌します。

インスリンは食後の血糖値の上昇に伴って分泌されます。

同化(エネルギーを消費して物質を合成)を促進し、異化(エネルギーを畜産)を抑制します。

インスリンにはさまざまな作用がありますが、このうち、主に骨格筋と脂肪組織へのグルコース取り込みの促進、並びに肝臓におけるグリコーゲン分解と糖新生の抑制などの作用の結果として、インスリンは血糖値を低下させます。

一方、血糖値が低下するにつれて分泌されるグルカゴンは、肝臓に対するインスリンの作用のいくつかについてインスリンとは逆の作用を発揮し、血糖値を上昇させるように働きます。

血糖値の上昇にかかわるホルモンは、グルカゴンの他、成長ホルモン、糖質コルチコイド、甲状腺ホルモン、副腎髄質ホルモン(アドレナリン、ノルアドレナリン)などがありますが、血糖値を低下させるのはインスリンだけです。

そのため、インスリンが分泌されにくくなったり、インスリンは分泌されても作用が発揮されにくくなると、血糖値が高い状態、つまり糖尿病になります。

なお、インスリンの作用が発揮されにくくなるのは、主にインスリンとインスリン受容体との結合後の細胞内情報伝達の何らかの異常によります。

このように、食事によって血糖値が上昇するとインスリンが分泌され、その結果、血糖値が低下することになります。

以上より、選択肢②は誤りと判断できます。

ちなみにインスリンの作用に関しては糖尿病の問題(「公認心理師 2020-29」など)で複数回出題がありますね。

③ 副腎皮質ホルモンは血圧を下げる。

副腎は、両側の腎臓の上部に1つずつあり、それぞれ4〜6gの器官です。

約90%を占める皮質と約10%の髄質からなり、皮質は外側から球状体(5%)、束状体(70%)、網状体(25%)の3層に分かれます。

副腎皮質では各種のステロイドホルモンが作られますが、それらの材料はいずれもコレステロールです。

副腎皮質の3つの層では、反応経路の中で主に働く経路が異なるため、各層で生じるステロイドが違ってきます。

球状体では、鉱質コルチコイド(電解質コルチコイド)であるアルドステロンが、束状体では主に糖質コルチコイドであるコルチゾンやコルチコステロンが、また束状体と網状体では男性ホルモン(アンドロゲン)と卵巣ホルモン(エストロゲン)の前駆体が作られます。

この中でも硬質コルチコイド:電解質コルチコイド(アルドステロン)は、腎臓の集合管に働いてNa +・Cl-の再吸収とK +・H +の排泄を促進します。

Naイオンの再吸収は水の再吸収を伴うので、体液量が増加し、血圧が上がります。

また、中枢神経にも作用して、血管を収縮させることによっても血圧を上昇させ、飲酒行動を促します。

その他、糖質コルチコイドは糖代謝を調節する作用と抗炎症作用を持ちます。

アンドロゲンは末梢組織でテストステロンやエストロゲンに変換され、性ホルモン作用を発揮します。

以上より、副腎皮質ホルモンにはさまざまな役割がありますが、特にアルドステロンは血圧の上昇を促すことが示されています。

よって、選択肢③は誤りと判断できます。

④ プロラクチンは乳汁分泌を抑制する。

プロラクチンは下垂体前葉から分泌されるホルモンで、哺乳動物の乳腺の発育と乳汁産生を促進するなどの作用が知られています。

ヒトの妊娠においては、妊娠中に血中のエストロゲンとプロゲステロンの濃度は高い値に保たれており、これによって妊娠が維持されます。

妊娠の初期は黄体からのエストロゲンとプロゲステロンが面であるが、妊娠8週以降には胎盤からエストロゲンとプロゲステロンが役割を担うことになります。

分娩には子宮で産生されるプロスタグランジンと下垂体後葉から放出されるオキシトシンが重要で、前者は子宮平滑筋を収縮させます。

陣痛の開始から分娩までのオキシトシンの分泌は高まり、子宮平滑筋を強力に収縮し、分娩を促進します。

出産後にはすぐに授乳が始まります。

妊娠中にプロゲステロンとエストロゲンの作用で乳腺が発達し、脂肪が蓄積して乳房が肥大します。

妊娠中にはこれらのホルモンが乳腺に作用し、乳汁産生の準備をします。

分娩後、下垂体後葉からのプロラクチンが作用し、乳腺の上皮細胞の増殖を促し、乳汁畜生を促進します。

また、プロラクチンは視床下部にも作用し、ドーパミンの分泌を促進し、下垂体前葉からのプロラクチン分泌を抑制します(負のフィードバック)。

ちなみに、プロラクチンの分泌刺激は乳児の吸乳です。

このようにプロラクチンは母乳を作るホルモンであり、このホルモンが活発な間、つまりは妊娠や授乳期間中は(負担軽減のため)身体が自然と妊娠しにくい状態となります。

ちなみに高プロラクチン血症に関しては「公認心理師 2018追加-103」で解説していますから、併せて理解しておきましょう。

以上より、プロラクチンは乳汁分泌を促す作用があることが示されています。

よって、選択肢④は誤りと判断できます。

⑤ 抗利尿ホルモンは血中のナトリウム濃度を上げる。

下垂体後葉からは抗利尿ホルモンとオキシトシンが分泌されます。

このうち、抗利尿ホルモンのことをバソプレシンとも呼びます(vasopressin:vaso=血管、press=加圧、を意味する)。

バソプレシンは、集合管(腎臓に存在する管系。遠位尿細管に続き、尿を排泄する通路となる)での水の再吸収促進による抗利尿作用を持つとともに、血管平滑筋の収縮による血圧上昇作用も有します。

すなわち、バソプレシンは腎臓から排出される水分量を制御することで体内の水分量を調節する役割を担っています。

バソプレシンは腎臓から排泄される水分量を減少させるので、その結果、体内により多くの水分が保持され、体内のナトリウム濃度が薄まります。

ちなみに、血液中のナトリウム濃度が低いことを低ナトリウム血症と言います。

このことから、本選択肢の「抗利尿ホルモンは血中のナトリウム濃度を上げる」というのは誤った内容であることがわかりますね。

以上より、選択肢⑤は誤りと判断できます。

先日、勤務先の高校の授業で心理学について調べるというものがあり、SCとして質問を受けました。

その内容の一つに「人には浮気防止ホルモンであるバソプレシンがあるのに、どうして浮気をしてしまうのですか?」というのがありました。

とりあえず、人間はホルモンとか脳内で分泌される物質だけで説明ができるほど単純ではないんだよ、という内容を伝えておきました。

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