公認心理師 2021-10

失読と失書に関する問題です。

それぞれの特徴と責任病巣を把握していることが求められますね。

問10 失読と失書について、最も適切なものを1つ選べ。
① 純粋失書では、写字が保たれる。
② 失読失書の主な責任病巣は、海馬である。
③ 純粋失読の主な責任病巣は、帯状回である。
④ 失読失書では、なぞり読みが意味の理解に有効である。
⑤ 純粋失読では、自分が書いた文字を読むことができる。

解答のポイント

読み書き障害の種類と特徴を把握している。

その他の読み書き障害・選択肢の解説

言語は音声言語と文字言語より成っており、音声言語の基本的要素は「聴く」ことと「話す」こと、文字言語の基本的要素は「読む」ことと「書く」ことになります。

後天的な脳の機能障害により出現する文字言語、すなわち読み書きの障害を「失読」や「失書」と呼びます。

読み書きの障害は多彩で、通常、失語症では音声言語の障害とともに程度の軽重はあっても文字言語の障害を伴っています。

失語症者に見られる読み書き障害は失語性失読・失語性失書と呼ばれています。

音声言語の障害を伴わない文字言語の障害は、失読失書や純粋失読、純粋失書、先行性失書などと呼ばれています。

なお、右半球障害で出現する諸事象外には空間性失書があります。

読み書き障害の評価にあたって、書字では自発書字と書き取り、写字(模写のこと)を検討します。

自発書字や書き取りは障害されるが、写字は保たれることもあり、また、その逆もあり得ます。

読みは音読と読解の両面から検討していきます。

音読は視覚的に与えられた文字言語を音声言語に変換する過程であり、読解は文字言語を読んでその内容を理解する過程と捉えることができます。

日本語の場合、文字言語に漢字(表意文字)と仮名(表音文字)という異なる文字体系を有しています。

漢字と仮名の障害に解離があることもあるため、漢字と仮名の両面からの検討が必要です。

以下では、本問で取り上げられていない読み書き障害について簡単に解説を行い、その後、各選択肢の解説に入っていきます。

ちなみに、本問の解説は上記からの引用を中心に行っています。

【失語性失読と失語性失書】

失語症では、通常読み書きにも障害をきたしてきます。

前述の通り、失語症で出現してくる読み書きの障害は失語性失読や失語性失書と呼ばれます。

失語症の書字の成績を見ると、自発書字や書き取りに比較して、写字の障害は軽度であると言われています。

読みにおける音読と読解を見ると、両者とも同時に障害されていることが多いが、解離をみることもあります。

伝導性失語では読解は保たれるが、音読が障害されます。

超皮質性感覚失語(特に語義失語と呼ばれる状態)では、音読は保たれているのに読解が障害されています。

【失行性失書】

文字の想起は可能であるが、構成行為の障害により、うまく書字できない場合を失行性失書、あるいは構成失書と呼びます。

文字が重なったり離れたりして、字画が乱れてきます。

自発書字や書き取りのみならず、写字にも障害がみられるとされています。

左の頭頂葉で上頭頂小葉を中心とした病巣で出現するとされています。

【空間性失書】

左半側空間無視の患者では、横書きした左の部分を無視して読むことがあります。

極端な場合は「旁(つくり)」のみを読み、「偏(へん)」を無視することもあります。

書字では空間性失書の存在が指摘されています。

書字が紙面の右方向に大きく傾くことに加え、余分なストロークがみられること、書字のラインが水平を保てないこと、単語内に余白が入ることなどが特徴です。

【その他の書字障害:鏡像文字】

運動麻痺のために右手が使用できないときに、左手で字を書くと文字が鏡像になることがあります。

パーキンソン病や本態性振戦で見られると報告があり、正常人でも同様の現象が確認されることもあります。

脳損傷では左半球の前頭葉や頭頂葉、大脳基底核領域、視床などの障害で出現してくることが報告されており、ある部位に責任病巣を特定できるものではありません。

【その他の書字障害:過書】

右半球損傷で見られる書字の異常として過書が知られています。

筆記用具や紙があると、何かをきっかけに次から次へと文字を書き続けることがあります。

文法的には特に問題はありませんが、内容的には一貫性に欠けることが多いです。

左半側空間無視や左片麻痺の否認(病態失認)などに伴って出現します。

脳血管障害の急性期から亜急性期にかけて出現する症状とされています。

① 純粋失書では、写字が保たれる。

純粋失書は書字の選択的な障害を主徴とします。

自発書字と書き取りは障害され、写字は保たれています。

口頭表出や聴覚的理解、読字が保たれ、書字実現のための運動能力に障害が認められないにも関わらず、後天的な脳損傷により書字のみが選択的に障害されている病態と定義されます。

責任病巣として左の頭頂葉や前頭葉が考えられており、頭頂葉性純粋失書や前頭葉性純粋失書と呼ばれています。

なお、頭頂葉では主として上頭頂小葉に病巣が存在するとの報告が多いが、下頭頂小葉に病巣をみることもあります。

前頭葉では中前頭回のExner中枢の障害が考えられています。

障害は両側性に出現してきます。

なお、左手のみに出現する「左手の失書」は、脳梁離断症候群として出現する症状です。

以上より、選択肢①が適切と判断できます。

③ 純粋失読の主な責任病巣は、帯状回である。
⑤ 純粋失読では、自分が書いた文字を読むことができる。

純粋失読では、書字は良好なのに、読みが障害され、自分が書いたものを読めなくなります。

しかし、書字が全く正常であるとは言えず、しばしば、漢字の書字に障害をみることが指摘されています。

純粋失読では、読みに際して書字運動を加えることで、読みの能力に改善をみることが知られています。

まずは読字の障害について述べていきます。

読字の障害の程度を示す用語として、字性失読や語性失読、文の失読がありますが、重症度を意味することに用いられています。

文章の読みは実用的であるのに、文字や単語が読めない状態は考えられません。

純粋失読では音読と理解に解離は無く、通常、音読されたものは理解されています。

純粋失読では読みが障害されていても、文字の種類(平仮名、片仮名、漢字)の識別は比較的容易であり、さかさまや横向きに置かれた文字を指摘できます。

また、場合によっては、誤字を指摘し、その訂正も可能とされています(純粋失読患者は文字形態を視覚的に十分把握していると見なすことができるということですね)。

純粋失読の漢字仮名問題については、未だに結論が出されているわけではありません。

漢字と仮名が同程度に障害されていると判定された症例もあれば、仮名の読みの障害が著明な症例、漢字の読みの障害が著明な症例が報告されています。

しかし、ある種の失語症者で見るような漢字と仮名の際立った解離はないことが指摘されています(なお、アラビア数字の読みは保たれている)。

続いて、書字の障害について述べていきましょう。

純粋失読では、自発書字や書き取りは正常であるのが原則ですが、日本の報告例では漢字の書字障害がしばしば指摘されています。

また、字画の多い、使用頻度の少ない感じが仮名に置き換わることが多いことも知られています(仮名の書字には通常障害は認められません)。

純粋失読にはしばしば写字の障害が認められており、写字障害の特徴として、右手と左手の成績の解離が挙げられており、写字の障害は右手に出現します。

左手の写字が可能であることは、視知覚に問題がないことを意味しています。

純粋失読の責任病巣は左の後頭葉と脳梁膨大部が重視されており、病理学的に見た後頭葉病巣は舌状回や紡錘状回を中心に楔状回や鳥距回に広がっています。

後頭葉と脳梁膨大部はともに後大脳動脈の灌流域にあるので、本症は左後大脳動脈閉塞症を原因として発症する頻度が高いです。

本症は脳梁離断症候群として捉えられています。

すなわち、左後頭葉の障害に、脳梁膨大部の損傷が加わることにより、保たれている左の視野の読みに際して、右後頭葉と読みに重要な機能をもつ左角回との連絡が遮断されるために読みの障害が出現すると考えられます。

なお、左後頭葉と脳梁膨大部の損傷により出現する古典的な純粋失読とは異なる、非古典型純粋失読の報告もあり、これの発現機序は半球内離断症候群と考えられています。

以上のように、純粋失読では、書字は良好なのに、読みが障害され、自分が書いたものを読めなくなるという症状が示され、純粋失読の責任病巣は左の後頭葉と脳梁膨大部が重視されています。

よって、選択肢③および選択肢⑤は不適切と判断できます。

② 失読失書の主な責任病巣は、海馬である。
④ 失読失書では、なぞり読みが意味の理解に有効である。

1891年にDejerineは左の角回に病巣を有する読み書き障害の症例を「失書を伴う語盲」として報告しました。

その後、類似の病態は失読失書として多数報告されています。

失読失書の基本症候は読み書き障害で、音読や読解が障害されます。

なぞり読みによる運動覚促通(読めない字の字画を指先で辿ると読みに成功するという現象)は認められません。

自発書字と書き取りはともに障害されますが、通常写字は保たれています。

ここまでで挙げた選択肢の答えは述べていますが、本症では責任病巣と日本語における漢字仮名問題が注目されているので、これらについて以下に述べていきます。

失読失書の責任病巣についてみると、以前は左の角回に求めることが多かったです。

しかし、1980年代になり画像診断の進歩とも相まって、左の側頭葉後下部病相で出現する失読失書の報告が続きました。

本症の責任病巣について、角回のみを責任病巣として特定するには臨床データが未だ十分ではないという指摘もあります。

画像診断で病巣をみると、角回近傍に病巣があるとしても、いずれも深部であり、角回より下方の側頭葉・後頭葉移行部の病巣により本症をみた症例も深部に病巣を有することから、角回という特定の皮質に責任病巣を結びつけるより、むしろ下部頭頂葉、側頭葉後縁および後頭葉の中間部に位置する白質病変と考える方が自然であり、深部白質の連合線維障害に病巣を求めるべきかもしれないとする見解も述べられています。

なお、病巣が前方へと広がれば失語要因が加わり、上方へ広がれば失書要因が強まり、後方へと広がると失読要因が増すことになります。

古典的な角回病巣にする失読失書では、一般に仮名の障害が著名であることが指摘されてきました。

一方、側頭葉後下部病相で出現する失読失書では、漢字の障害が著明である症例の存在が報告されています。

日本語における読み書きにおいて漢字と仮名の経路の解離が注目されることになりますが、側頭葉病変による失読失書の読み書きにおける漢字と仮名の障害の程度について常に感じが重度に障害されるわけではありません。

読み書きの神経機構をざっくりと述べると、漢字の読みは後頭葉から側頭葉へと向かう経路により、また、仮名の読みは後頭葉から頭頂葉へ向かう経路により処理されているために、側頭葉後下部の障害では漢字に強い読みの障害をきたすと考えられています。

以上のように、失読失書の責任病巣は基本的に角回とされてきましたが、近年は、下部頭頂葉、側頭葉後縁および後頭葉の中間部に位置する白質病変と見なす向きがあります。

また、先述のように、失読失書ではなぞり読みによる運動覚促通(読めない字の字画を指先で辿ると読みに成功するという現象)は認められません。

よって、選択肢②および選択肢④は不適切と判断できます。

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