公認心理師 2022-137

事例で起こっていることが、いずれの恋愛理論に該当するかを選択する問題です。

10年以上ぶりに恋愛心理学の書籍を開きました。

問137 20歳の女性A、大学2年生。 1か月前から男性Bと交際している。AはBが誰か別の人物と一緒に食事をしたり、自分が知らないうちに出かけた話を聞いたりすると不安が高まり、Bの行動に疑念を抱くという。AはBの行動を常に確認しないと安心できず、Bがソーシャル・ネットワーキング・サービス〈SNS〉に投稿する内容を常に確認し、Bの携帯端末の画面に表示される通知を頻繁にのぞき込んでしまう。そのことでAとBは言い争いをし、関係が悪化する状態が繰り返されている。
 Aの状態として、最も適切なものを1つ選べ。
① 感情の誤帰属
② 恋愛の色彩理論におけるアガペ型
③ 愛の三角理論におけるコミットメント
④ とらわれ型のアタッチメント・スタイル
⑤ 同一性地位〈アイデンティティ・ステータス〉理論における早期完了

関連する過去問

公認心理師 2020-125

解答のポイント

恋愛に関する諸理論を把握している。

選択肢の解説

① 感情の誤帰属

こちらは恋愛心理学との関連で有名な「吊り橋理論」に関連するものです。

「誤帰属」とは、本来の原因でないものに原因を帰することであり、錯誤帰属とも呼びます。

自己の情動に関する誤帰属の理論としては、Schachter&Singerの情動二要因説があり、情動が生じるには生理的喚起と認知的要因が必要であり、同じ生理的喚起であっても、状況に対する認知の仕方が異なれば、怒りあるいは喜びのように相反する情動が引き起こされることになります。

一般に感情は「出来事→その出来事への解釈→感情」という経路で発生すると考えられており、恋愛で言えば「魅力的な人物に出会う→魅了される→ドキドキする」という経路になります。

Schachterは、実際には「出来事→感情→その感情への解釈」という、感情が認知に先立つ経路もあると考え(これが情動二要因説)、恋愛で言えば「魅力的な人物に出会う→ドキドキする→これは恋?」という流れとなるわけです。

Dutton&Aronは、感情が認知より先に生じるのなら、間違った認知に誘導できる可能性があると考えて「恋の吊り橋実験」を行いました。

実験は、18歳から35歳までの独身男性を集め、バンクーバーにある高さ70メートルの吊り橋と、揺れない橋の2か所で行われました。

男性にはそれぞれ橋を渡ってもらい、橋の中央で同じ若い女性が突然アンケートを求め話しかけて「結果などに関心があるなら後日電話を下さい」と電話番号を教えるということを行いました(要するにナンパした感じですね)。

結果、吊り橋の方の男性18人中9人が電話をかけてきたのに対し、揺れない橋の実験では16人中2人しか電話をかけてきませんでした。

実験により、揺れる橋を渡ることで生じた緊張感がその女性への恋愛感情と誤認され、結果として電話がかかってきやすくなったと推論されました。

このように吊り橋での生理的喚起を、恋愛感情と誤帰属することによって吊り橋効果が生じるということになります。

こちらと、本問の事例の状況とは合致するものではありませんね。

よって、選択肢①は不適切と判断できます。

② 恋愛の色彩理論におけるアガペ型

こちらはLeeの「恋愛の色彩理論」や「愛情の色彩理論」などと呼ばれる、恋愛に対する体系的に分類した理論に関する選択肢になります。

Leeは、恋愛に関する多数の文献、哲学書、歴史書、小説などから、4000以上もの記述を収集し、また、ラブストーリーカード分類法と呼ばれる方法を用いて、数多くの面接調査を行い、恋愛に対する態度(ラブスタイル)を6つに分類しました。

Leeはこの6つのラブスタイルを、それぞれの関連性をもとに円形に配置しています。

この配置図が色相環と類似していることから、Leeはラブスタイルにかかわる自身の理論を「恋愛の色彩理論」と呼んでいるわけです。

6つのラブスタイルとその特徴は以下の通りです。

  • エロス(美への愛):
    恋愛を最も重要なものと考えており、ロマンティックな考えや行動を取る。相手の外見を重視し、身体的特徴に関して明確な好みがあるため、強烈な一目惚れを起こしやすい。
  • ストルゲ(友愛的な愛):
    穏やかで、友情に近い愛であり、相手の外見に対する理想をあまりもっておらず、考え方や価値観が似ていたり、信頼できるかどうかを重視している。長い時間をかけて、知らず知らずのうちに愛が生まれるという考え方をもっている。
  • ルダス(遊びの愛):
    恋愛をゲームとして捉えており、恋愛をとおして楽しむことを第一に考えている。好みのタイプなどは無く、複数と同時に恋愛することもできる。相手に執着せず、執着されるのも嫌うため、相手と距離を取った付き合い方をする。
  • マニア(熱狂的な愛):
    独占欲が強く、些細なことで嫉妬や執着、疑い、悲哀を感じる。相手に対しても関係へのコミットメントを強要し、なかなか関係を安定させることができない。
  • アガペ(愛他的な愛):
    相手の利益だけを考え、自分を犠牲にしても、相手に対して献身的に尽くす。見返りを求めることはなく、相手の幸せを強く願う。
  • プラグマ(実利的な愛):
    恋愛を地位の上昇などの手段として考えており、そのため、相手を選択するときには、社会的な地位や経済力など、多くの基準を持ち、それが自分に満足感や報酬を与えるかを考える。

こうした色彩理論は実証研究の中で、Leeの仮定と一致しなかったり文化によって異なる結果が出るなど、さまざまな報告がなされています。

本事例の問題は…

  • AはBが誰か別の人物と一緒に食事をしたり、自分が知らないうちに出かけた話を聞いたりすると不安が高まり、Bの行動に疑念を抱くという。
  • AはBの行動を常に確認しないと安心できず、Bがソーシャル・ネットワーキング・サービス〈SNS〉に投稿する内容を常に確認し、Bの携帯端末の画面に表示される通知を頻繁にのぞき込んでしまう。
  • そのことでAとBは言い争いをし、関係が悪化する状態が繰り返されている

…ということになります。

対して、恋愛の色彩理論におけるアガペ型は「相手の利益だけを考え、自分を犠牲にしても、相手に対して献身的に尽くす。見返りを求めることはなく、相手の幸せを強く願う」というものですから、明らかにAの状態とは異なると言えますね。

以上より、選択肢②は不適切と判断できます。

③ 愛の三角理論におけるコミットメント

Sternbergの「愛の三角理論」は、特定のパートナーとの現在の関係について捉えようとした理論になります。

Sternbergは、これまでの愛に関する研究の多くが、親密性に焦点を当ててきたことを指摘してきた上で、愛を「親密性」「情熱」「コミットメント」の3要素からなる構成概念であることを提唱しています。

  • 親密性:親しやさ結合、相手とつながっているという感覚であり、相手との感情的な関わりの中で形成されていくものである。お互いの親しみの深さを表す。
  • 情熱:ロマンス(燃え上がり)や身体的魅力によって引き起こされ、性的な達成を目指した関わりを導く要因である。お互いがどれくらい夢中になっているかを表す。
  • コミットメント:短期的には相手を愛する決意であり、長期的にはその関係を維持していこうとする意志を意味している。お互いがどれくらい離れられない関係であるかという関連の強さを表す。
    他の2つとは異なり、コミットメントには相手と関係を持とうとする意識的な決断が含まれる。コミットメントを維持しようとするかは、相手との関係についての満足度が決定的な役割を果たす。
    コミットメントは、次の3つの仕方で定義される。
    ①なにかをする、またはなにかを与えることを約束すること
    ②相手に対して、忠実であることを約束すること
    ③相手に対して一生懸命はたらく、あるいはサポートすること

また、Sternbergは、愛の三角理論では、これら3つの要素をそれぞれ頂点とする三角形のかたちによって、特定の相手に対する愛情を類型化できるとしています。

このとき、三角形の大きさは、愛情の強さを表し、かたちは愛情の類型を示しています。

例えば、上記の⑤であれば親密性と情熱だけが高い形になりますし、⑥であれば親密性とコミットメントだけが高い形になり、いびつな三角形になるわけです(ひし形を半分にしたような形になるわけですね)。

本事例の問題は…

  • AはBが誰か別の人物と一緒に食事をしたり、自分が知らないうちに出かけた話を聞いたりすると不安が高まり、Bの行動に疑念を抱くという。
  • AはBの行動を常に確認しないと安心できず、Bがソーシャル・ネットワーキング・サービス〈SNS〉に投稿する内容を常に確認し、Bの携帯端末の画面に表示される通知を頻繁にのぞき込んでしまう。
  • そのことでAとBは言い争いをし、関係が悪化する状態が繰り返されている

…ということになります。

これらの内容は愛の三角理論におけるコミットメント(短期的には相手を愛する決意であり、長期的にはその関係を維持していこうとする意志を意味している)には該当しないことがわかりますね。

コミットメントが、①なにかをする、またはなにかを与えることを約束すること、②相手に対して、忠実であることを約束すること、③相手に対して一生懸命はたらく、あるいはサポートすること、で定義されるとすれば、Aの言動はそれと反することがわかりますね。

よって、選択肢③は不適切と判断できます。

④ とらわれ型のアタッチメント・スタイル

こちらはアダルト・アタッチメント理論に関連する内容ですね。

アダルト・アタッチメント理論はHazan&Shaverによって提唱された理論であり、Bowlbyのアタッチメント理論に基づいています。

アタッチメントは「ある特定の他者に対して強い心理的な結びつきを形成する人間の傾向」と定義され、主に乳幼児期の子どもと養育者との関係に焦点があてられた概念になります。

Hazan&Shaverは、アタッチメントの対象が、乳幼児期は養育者であったものが、青年期・成人期では恋人や配偶者に移行し、恋愛関係や夫婦関係において、アタッチメントが形成されると考え、アダルト・アタッチメント理論を提唱しました。

また、Bartholomew&Horowitzは、アダルト・アタッチメント理論について青年期・成人期におけるアタッチメントの形成の仕方は、それまでの子ども‐養育者間でのアタッチメント関係の影響を、内的作業モデル(自己および他者への信念や期待であり、自己モデルと他者モデルに大別される)を介して受けることにより、個人差が生じるとされています。

内的作業モデルの自己モデルは、対人関係における過度な親密さの希求や相手から見捨てられることへの不安の経験のしやすさを意味する「関係不安(見捨てられ不安)」として表出され、他者モデルは、対人関係における親密さからの回避や他者への信頼感の欠如を意味する「親密性回避」として表出されます。

こうした関係不安(見捨てられ不安)と親密性回避は、アダルト・アタッチメントの2次元として機能し、これらの高低で分割し、組み合わせることで、アタッチメントの個人差は4つに分類されます。

このアタッチメントの個人差は「アタッチメントスタイル」と呼び、これが青年期・成人期のアタッチメントの形成の仕方、つまりは恋愛関係や夫婦関係のあり方に影響を及ぼすとされています。

それぞれの型の特徴は以下の通りになります。

  • 安定型:
    不安も回避も低く、他者から尊敬され、愛される価値があると感じており、アタッチメント対象は概して応答的で、信頼出来ると感じている。恋愛を幸せを供給してくれる、信頼できるものであると見なしている。また、愛は長く続いていくものであると考えている。
  • 回避型:
    愛は長期間持続しないもので、時間とともに弱まっていくと考えている。また、愛をあまり必要でないものと見なしている。このタイプの人は、アタッチメント要求を最小化し、他者から距離を取り、情動表出を抑制することで潜在的な拒絶に対抗し、ポジティブな自己イメージを維持しようと試みる。
  • 恐れ型:
    相手から拒否されることを恐れ、恋愛関係を回避する傾向がある。また、相手を信頼できず、不安を抱きやすい。他者に対して、拒絶されるという予測と結びついた対人不信感を経験しており、それが親密さに対する不快感や親密な関係の回避につながっている。
  • とらわれ型:
    親密さへの過剰な要求はあるものの、他者の利用可能性や要求に対する応答性への信頼が欠けている。本当の愛は稀なものであると考えており、恋愛に過度に依存する傾向にある。また、自分に自信がなく、恋愛関係の中で不安を経験しやすい。親密な関係に過剰にのめり込む、自分の幸福感を持つ上で他の人の受容に依存している、対人関係について議論するとき一貫性がなく情動を大げさに表出するなどの反応を見せる。

これらを踏まえて、本問の事例を見ていきましょう。

本事例の問題は…

  • AはBが誰か別の人物と一緒に食事をしたり、自分が知らないうちに出かけた話を聞いたりすると不安が高まり、Bの行動に疑念を抱くという。
  • AはBの行動を常に確認しないと安心できず、Bがソーシャル・ネットワーキング・サービス〈SNS〉に投稿する内容を常に確認し、Bの携帯端末の画面に表示される通知を頻繁にのぞき込んでしまう。
  • そのことでAとBは言い争いをし、関係が悪化する状態が繰り返されている

…ということになります。

こうしたAの言動は、とらわれ型のアタッチメント・スタイルに該当すると思われます。

とらわれ型のアタッチメントスタイルでは「親密な関係に過剰にのめり込む、自分の幸福感を持つ上で他の人の受容に依存している、対人関係について議論するとき一貫性がなく情動を大げさに表出する」といった反応が見られるわけですが、これらは事例Aの言動と一致していると言えます。

疑念を抱いていること、相手の存在に依存的であること、それによって情動の問題が出ていることなどが一致していますね。

以上より、選択肢④が適切と判断できます。

⑤ 同一性地位〈アイデンティティ・ステータス〉理論における早期完了

青年期のアイデンティティの発達に関するエリクソンの理論は、ジェームズ・マーシア(Marcia, J. E.:1980,1966)によって検証され、展開されました。

Marciaは、半構造化面接法と文章完成法テストを用いてアイデンティティの測定を行い、この判定においては、アイデンティティの危機または探求の経験と、現在の傾倒(積極的関与:commitment)の二つの側面が重視されました。

ここでの「危機」とは、児童期までの過去の同一視を否定したり再吟味する経験を指しています。

また、「傾倒」とは、危機後の意味ある選択肢の探求の末に自己決定したことに対してどれだけ強く関与し、自分の資源を投入しているか、そのあり方を示しています。

Marciaは、この「アイデンティティ・クライシスの有無」と「ある生き方への傾倒(=具体的には自分の考えや信念を明確にもち、それらに基づいた行動を一貫して示すことを指す)の有無」によって、アイデンティティ確立の程度を、「達成型」「早期完了型」「同一性拡散型」「モラトリアム型」の4つに分けました。

つまり、各型は「アイデンティティの危機の有無」×「生き方への傾倒の有無」によって分けられており、本問はこの2領域の有無の把握を求めているものです。

一般に「同一性拡散」→「早期完了」→「モラトリアム」→「同一性達成」という順番になるとされていますが、早期完了のままであったり、他の発達の順序も見出されています。

また、1つの地位のままでいる人が5割以上いることもわかってきました。

さらに、変化した場合でも「向上」している場合は、「退歩」している場合に比べて、多少多い程度であるという報告があります。

ここでは本選択肢の「早期完了」について述べていきましょう。

早期完了型の若者は、同一性達成の若者と同様に職業やイデオロギー的立場にかかわっていますが、これまでにアイデンティティの危機を脱したような兆候は何ら見られません。

例えば、彼らは自分たちの家族の宗教に疑いを抱くことなく受け入れています。

政治的な立場について尋ねると、彼らは今までそれについて十分考えたことがないと答えることが多いとされています。

つまり、早期完了型では「危機経験はないが、自分の信念に基づいた行動をしている状態」と言えます。

彼らの中にはそれにかかわっていてまた協調的であるように見えるものもいるが、柔軟性のない、教条主義的で重農的に見える者も存在します。

また自分たちのもつ吟味したことのないルールや価値を脅かすほどの、何らかの大きな出来事が生じた場合、彼らは自分を失い、どうしていいかわからなくなるような印象を受けるとされています。

アイデンティティ理論の大本と言ってもよいEriksonですが、彼は「青年期の恋愛は、その大部分が、自分の拡散した自我像を他人に投射することにより、それが反射され、徐々に明確化されるのを見て、自己の同一性を定義づけようとする努力である」としています。

これ以上、エリクソンが何かを述べているというのは把握していませんが、こちらの論文によると、早期完了の青年たちはステレオタイプ的で表面的、つまり、友人関係においても恋愛関係においても、浅く短い関係性を志向しているとされています。

自己内省力の乏しさとも関連するが、他者との関わりにおいても、相手や関係に深く入り込むことを好まない傾向を持つことが推測され、現代特有のSNS等を通した他者とのつながり方は、まさに浅く短くという特徴を併せ持っており、早期完了の青年にとっては適応しやすい環境であるとも考えられます。

これらの特徴は、本事例Aの在り様とは異なることがわかりますね。

以上より、選択肢⑤は不適切と判断できます。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です