公認心理師 2022-85

初期学習に関する問題ですね。

関連し合う用語について、弁別的に説明できることが大切です。

問85 特定の鍵刺激によって誘発される固定的動作に関連する用語として、正しいものを1つ選べ。
① 般化
② 臨界期
③ 刻印づけ
④ 生得的解発機構
⑤ プライミング効果

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解答のポイント

刻印づけ・臨界期・生得的解発機構の関連性を理解している。

選択肢の解説

① 般化

古典的条件づけや弁別オペラント条件づけにおいて、条件づけの結果、条件刺激や弁別刺激だけでなくそれらに類似した刺激によっても反応が生起されるようになることを「般化」と呼びます。

非常に簡単に述べれば「ある刺激に条件づけられた反応が、他の刺激に対しても生じること」を指します。

一般に般化の程度は、その刺激の物理的次元上の類似度の関数(=要するに、条件づけられた刺激と似ているほど般化が生じやすい)として決まります。

般化は、物理的類似性だけでなく、意味的類似性に対しても生じるとされており、物理的類似性による般化を刺激般化、意味的類似性による般化を意味般化と言います。

また、条件づけされた反応だけでなく、類似の別の反応の生起率が増大することがあり、これを反応般化と言います。

般化は、各刺激ごとに学習をしなくても、似た刺激のもとでは適切な反応が生じることを可能にするという点で重要です。

これとは逆に、ある特定の刺激に対してのみ反応が生じるようになることを分化と呼びます。

横軸に刺激の物理的類似度、縦軸に反応数をとって、刺激の物理的類似度の関数として反応数の変化をプロットしたものが、いわゆる般化勾配になります。

般化勾配は、ある刺激のもとで反応を強化し、次に、この刺激とこの刺激と物理的類似が異なる複数の刺激を消去手続きのもとで呈示するという方法によって得られます。

単一刺激の強化訓練後の般化勾配はフラットであり、すなわち、各テスト刺激に対して原刺激と同様の反応が生じます。

これに対して、刺激の提示されている時は強化、提示されてない時は非強化とする分化強化を行った後の般化勾配は、原刺激を頂点とし、概ね左右対称的に反応数が減少するパターンとなります。

更に、同じ物理的次元上の異なる刺激の一方のもとでは強化、他方のもとでは非強化とする分化強化を行った後の般化勾配は、頂点が原刺激(上記の図では550mm)にはなく、原刺激から非強化された刺激(負刺激570mm)と反対方向へ離れた位置に現われるという、いわゆる頂点移動の現象が見られます。

このような般化勾配の相違は、強化された刺激の次元上に生じると考えられる興奮過程と、非強化された刺激の次元上で生じると考えられる抑制過程という二つの過程の相互関係から説明されます。

この関係が加算的であるとする説が「加算説」と呼ばれます。

また般化勾配は、強化されない負刺激の次元についても考えられます。

この場合の般化勾配は、原刺激を最低点とするU字型のパターンとなり、これを抑制性般化勾配と呼びます。

以上のように、般化は「ある刺激に条件づけられた反応が、他の刺激に対しても生じること」ですから、本問の「特定の鍵刺激によって誘発される固定的動作に関連する用語」には該当しないことがわかりますね。

よって、選択肢①は誤りと判断できます。

② 臨界期
③ 刻印づけ
④ 生得的解発機構

ニワトリ、アヒル、カモなどのように孵化直後から開眼し、歩行可能な離巣性の鳥類のヒナでは、孵化後の特定の時期に目にした「動くもの」に対して後追い行動を取ります。

これは親に限らず、おもちゃでも光の点滅でも生じるとされています。

この現象を刻印付け、インプリンティング、刷り込み、などと呼びます。

Lorenzによると、刻印づけは、動くものを追従するという遺伝要因に根差した生得的行動と、どの物体を親と認識するかという後天的学習の組み合わせによって生じるとされています。

通常の学習と異なる点として…

  1. 敏感期(臨界期)が存在:孵化後のかなり早期の感受性の高い時期にのみ生じる。
  2. 練習・経験が不要:条件が満たされたときに、1回~少数回で、極めて短時間のうちに成立。
  3. 無報酬性:通常の学習に必要な報酬を要しない。
  4. 不可逆性:対象の変更も消去も成立しない。

…が挙げられております。

対象となった個体の特徴ではなく、種の特徴が刷り込まれ、性成熟後には、その種の動物に向けて求愛行動が見られ、これを性的刻印付け(性成熟後の求愛の対象は、刻印付けされた対象と同種の動物に向けられること)と呼びます。

上記にある、刻印づけの特徴の第一に挙げられている「敏感期(臨界期)」について述べていきましょう。

これはある行動を学習したり能力を獲得したりするのに適切な期間があるという考え方に基づいて、その期間の境目を指す言葉になります。

先述の通り、ニワトリ、アヒル、カモなどのように孵化直後から開眼し、歩行可能な離巣性の鳥類のヒナでは、孵化後の特定の時期に目にした「動くもの」に対して後追い行動を取りますが、数時間を過ぎるとこの刻印づけは生じなくなることから、臨界期があると解釈できます。

通常は、カモやガチョウが孵化後に最初に目撃する動く物体は親鳥であり、かつ時間がたつほどに周囲の動く物体は親鳥でない可能性が高まるため、親鳥を学習するにあたって臨界期が存在することは適応的と言えます。

人間においても、例えば言語習得において、第一言語獲得には幼児期に臨界期があるという見解があります。

ただし、臨界期という用語からは、その期間を超えると学習が不可能になるということが含意されていますが、実際は必ずしもそうした明確な線引きは無く、緩やかな広がりをもって考えるべきであるという見解もあり、そうした見解に立って「臨界期」を「敏感期」と呼ぶことも一般的とされています。

さて、こうした刻印づけ及び臨界期という概念ですが、Lorenzはこれらの概念を行動生物学の基本的な概念である「生得的解発機構(innate releasing mechanism:IRM)」の枠組みで説明しました。

生得的解発機構とは、動物に生まれつき備わった、特定の刺激に対して特定の反応をする生理学的な仕組みのことを指します。

行動パターンだけでなく、それを解発するのに必要な鍵刺激(解発刺激)に生得的に規定されていると考えます。

動物の行動を引き起こす最も基本的な仕組みと考えられており、Lorenzによって提唱されました。

繁殖期に別の雄の赤い色をみて攻撃するトカゲなどが例であり、これに働いている神経感覚機構のことを言います(その際、腹部の赤さ解発性はその雄のとる姿勢によって変動するとされています)。

このように、生得的解発機構は、それぞれの動物種の存続にかかわる機構と考えられ、摂食、防衛(攻撃行動も含む)、生殖、養育(営巣行動も含む)、社会的行為(この中には、本来の生物学的機能が失われ単に信号としての機能を獲得した儀式化と呼ばれる行為も含まれる)といった生物学的機能を持つ行動の発現機構として説明されています。

なお、こうした生得的解発機構の考え方を基に、行動の階層モデルを提示したのがティンバーゲンになります。

このモデルでは、生得的行動の発現を規定する内的要因が、外的要因と協働して信号を産出する中枢神経系の機構を想定します。

動物がある一定の生理的状態に達すると最上位の中枢が活性化され、それに応じた反応が起こると同時に、下位中枢を活性化します。

この活性化した中枢にはふだん抑制が働いているが、特定の外的要因に含まれる鍵刺激によって抑制を解かれると信号が放出され、刺激に対応した適応的行動が発現し、より下位の中枢を活性化するとされています。

以上をまとめていくと以下の通りです。

Lorenz (1935, 1937)は、刻印づけを上記のような生得的解発機構で説明しました。

つまり、刻印刺激は解発刺激(鍵刺激)であり、接近反応や追従反応といった刻印反応は生得的な定型的運動パターンということです。

しかし刻印刺激は、上で述べたように、同種他個体の形態的特徴や各種運動型である必要はなく、実に多様な刺激が刻印刺激になります。

そのことから Lorenz は、刻印づけがきわめて特異的な生得的過程であると説明しました。

このことを強調する目的で彼が取り上げたのが、刻印反応の不可逆性と臨界期の存在であったわけです(臨界期がないと、後々の「動く刺激=鍵刺激」に刻印づけが生じないことが説明できませんからね)。

以上のように、生得的解発機構‐刻印づけ‐臨界期というのは連なる概念群でありますが、本問の「特定の鍵刺激によって誘発される固定的動作に関連する用語」に該当するのは、生得的解発機構であることがわかります。

こうした生得的解発機構の一つとして刻印づけが示され、その刻印づけを強調するために導入されたのが臨界期という概念なわけですね。

よって、選択肢②および選択肢③は誤りと判断でき、選択肢④が正しいと判断できます。

⑤ プライミング効果

プライミング効果とは、先行する刺激(プライム刺激)の処理によって、後続刺激(ターゲット刺激)の処理が促進または抑制される効果と定義されます。

典型的には促進効果が見られるが、抑制的な負のプライミングが見られることもあります。

難しく書いてありますが、要は10回ゲーム(「ひじ」を10回言わせて「ひざ」を指差して、これは何?と問うやつ)が成立するための仕組みといえばわかりやすいでしょうか。

プライミング効果には直接と間接がありますが、直接プライミング効果を見るのに最もポピュラーなのが単語完成課題です。

例えば、「かたおもい」というプライム刺激が呈示された後に、「〇た〇もい」「に〇に〇ん」のような単語の断片を呈示し、「何でもよいので最初に浮かんだ単語で完成するように」と求めると、最初に提示されなかった項目(新項目)に比べ、提示されていた項目(旧項目)の方が出現率が高くなります。

この新項目と旧項目の完成率の差がプライミング効果として評価されます。

典型的には、最初に単語を呈示する際には後に記憶テストがあることは予告せず、単語完成課題遂行時には「旧項目を思い出すように」とは求めません。

すなわち、実験参加者が学習した単語を思い出そうとしなくても直接プライミング効果は認められ、それが潜在記憶の存在の根拠の一つになっています。

この単語完成のように、先行刺激と後続刺激の知覚的属性の一致度が重要となる場合は知覚的プライミング、一方、先行刺激と後続刺激の概念的関連性が重要な場合は概念的プライミングと呼ばれます。

先行刺激と後続刺激が同一と見なせない場合には、間接プライミングもしくは意味的プライミングと呼ばれ、主に意味記憶の構造を検討する場合に用いられます。

例えば、後続刺激「DOCTOR」が単語か非単語かの語彙判断に必要な反応時間は、意味的に関連の無い「BREAD」を先行刺激として提示した場合より、意味的関連のある「NURSE」を呈示した場合の方が短いという結果が出ています。

これは先行刺激の提示による活性化が意味記憶ネットワークのリンクにより後続刺激にまで伝播するためと解釈されています。

以上、プライミング効果に関する概要を述べましたが、こうした説明は本問の「特定の鍵刺激によって誘発される固定的動作に関連する用語」には該当しないことがわかりますね。

よって、選択肢⑤は誤りと判断できます。

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