自己効力感〈self-efficacy〉について、最も適切なものを1つ選ぶ問題です。
Banduraは社会的学習に関連して、人間の行動を決定する重要な要因として自己効力感を提唱しました。
自己効力感については何度か出ているので、しっかりと押さえておきましょう。
ちなみに本問はワイナーの原因帰属理論もちょっと関係させています。
公認心理師2018-118では、ワイナーの理論とバンデューラの理論で解答に導いています。
解答のポイント
バンデューラの理論を包括的に理解していること。
選択肢の解説
『①効力感は能力の評価や目標の内容に影響しない』
『③結果期待と効力期待はそれぞれ独立に行動に影響を及ぼす』
バンデューラは、行動遂行の先行要因として結果期待と効力期待の2つをあげています。
- 結果期待:
知識や過去の経験に基づき、特定の行動を行った際の結果を推測することを指します。ある行動がある結果を生み出すという推測のこと。 - 効力期待:
特定の結果を導くために必要な行動を自分自身が上手く行うことが出来るという確信のことを指します。ある結果を生み出すために必要な行動をうまく行うことが出来るという確信のこと。
社会的学習理論では、この2つからなる「自己効力感」という要因が行動の生起に重要であり、行動を行うかどうかの決定や課題遂行の是非や課題完了に費やす努力と時間を決定する大きな要因であるとしています。
バンデューラは特に「効力期待」を重視しており、選択肢④で挙げた要因が重要としています。
成功体験は「効力期待」「結果期待」を高めるので、自分ができるという感覚が強まり、目標も高く設定されることにつながります。
逆に失敗をすれば、「効力期待」は下がるため自身の能力を低く見積もることになりますし、よい「結果期待」を生み出すことができなくなるために目標を低く設定することになります。
上記の通り、自己効力感は「結果期待」「効力期待」によって構成され、ある行動の結果が、次の「結果期待」「効力期待」に影響することがわかります。
以上より、選択肢①および選択肢③は不適切と判断できます。
『②高い効力感をもたらす効果的な方法は制御体験にある』
自己効力感は「自分が行為の主体であり、自分が行為を統制しており、外部からの要請に対応できるという確信」のことを指します。
バンデューラの社会的学習理論における人間観は「個体は環境に働きかける、つまり個体は刺激を受けて反応するだけでなく、認知が媒介することによって行動を主体的に起こす」というものでした。
バンデューラは自己効力感のタイプを以下のように分けています。
- 自己統制的自己効力感:自己の行動を制御する基本的な自己効力感
- 社会的自己効力感:対人関係における自己効力感
- 学業的自己効力感:学校での学習などにおける自己効力感
カンファーやバンデューラらは、自己の内的な要因が行動に与える影響を重視し、自己制御という概念を提出しています。
この概念に基づくと、人は自己の行動をモニターし、その内容と自己のもつ何らかの基準(要求水準など)とを比較して行動を評価し、その結果に応じて自己の行動を統制するとされます。
自己制御ができる子どもの方が、学業、社会的スキル、対処能力において優れているとされています。
以上より、選択肢②は適切と判断できます。
『④モデリングによる代理体験で効力感をもたらすことは困難である』
自己効力感の変動に影響する要因(正確には効力期待に影響を与える要因)として以下が挙げられています。
- 達成経験:
いわゆる成功体験で、自分で何かに臨み、成功したという経験を指す。失敗経験は、自己効力感が確立されていないと、効力感が弱まることになる。 - 代理経験:
自分以外の他人が何かを達成・成功するのを観察すること。モデリングおよびコンピテンスと関連があります。 - 言語的説得:
自身の行為を言葉で励まされること(特に①の経験を褒められると良い)。松岡修造がやってくれそう。 - 生理的情緒的高揚:
生理的状態が自己効力の判断の手掛かりになる。生理的な状態の解釈を変えることで、自己効力感を高めることができる(情動の二要因理論に似ていますね)。
『⑤効力感が低い人ほど失敗したときに努力の不十分さに帰属することが多い』
先述したように「自己効力感」とは「自分が行為の主体であり、自分が行為を統制しており、外部からの要請に対応できるという確信」のことを指します。
すなわち、環境に対して統制できるという感覚を持っている人が自己効力感の高い人ということになります。
自己効力感の低い人は、自らが行為の主体ではなく、行為を統制しておらず、外部からの要請に対応できないという感覚が強いわけですね。
ここで、Weinerの原因帰属理論を振り返っておきましょう(公認心理師2018-118参照)。
ワイナーの原因帰属理論は結構出ているので要チェックです。
ワイナーによると原因帰属のスタイルは、「統制」と「安定性」の組み合わせによるとされます。
- 統制:内的統制(その人の内部要因)・外的統制(環境要因)
- 安定性:安定(あんまり変わらない要因)・不安定(変わりやすい要因)
ワイナーの理論ではこれらの組み合わせによって、帰属のパターンを分けています。
上記の組み合わせ4つとその例を挙げると…
- 内的+安定=本人の先天的・潜在的能力に帰属する:知能が高い、低い等。
- 内的+不安定=本人の頑張り次第の要因に帰属する:努力したから、努力が足りない等。
- 外的+安定=課題の困難度の帰属する:テストが簡単だったから、難しかったから等。
- 外的+不安定=神のみぞ知る的帰属:運が良かったから、悪かったから等。
この理論によると、努力の不十分さに帰属するということは「内的+不安定」という原因帰属ということになります。
ワイナーは帰属先によって動機づけの高低が変わってくるとしています。
- 動機づけが高い人:
成功の原因を能力や努力に帰属させ、失敗の原因を運や努力不足に帰属させる傾向が強いといわれています。自尊心が満たされ、努力すれば成功できるという成功期待も高い状態です。 - 動機づけが低い人:
成功の原因を課題の難易や運に帰属させ、失敗の原因を能力に帰属させる傾向が強いといわれています。失敗の原因を能力に帰属させると「何をしてもムダだ」というあきらめの気持ちが強くなり、達成動機が低下します。
上記の通り、努力に原因帰属する人は「自尊心が満たされ、努力すれば成功できるという成功期待も高い状態」とされております。
この点で、選択肢の内容と齟齬があることがわかります。
上記が理論上の説明ですが、本選択肢はもっと素朴に考えてみても良いと思います。
自己効力感が低い人が失敗した場合、「自分は何をやってもダメなんだ」「自分は何をしたって成功することはないだろう」と考えるイメージが強いように思えます。
これは「努力」への帰属ではなく、自身の変わらない能力、すなわち「本人の先天的・潜在的能力」(内的・安定)に帰属するということになると思われます。
以上より、選択肢⑤は不適切と判断できます。