公認心理師 2023-4

記憶研究では、記憶はいくつかの種類に分類されています。

それぞれの記憶種の特徴を把握していることが求められている問題です。

問4 運動技能、知覚技能及び認知技能に関わり、想起意識を伴わない記憶として、もっとも適切なものを1つ選べ。
① 意味記憶
② 展望記憶
③ 偽りの記憶
④ 手続き記憶
⑤ エピソード記憶

解答のポイント

各記憶の特徴を把握している。

選択肢の解説

① 意味記憶
④ 手続き記憶
⑤ エピソード記憶

人間の長期記憶は宣言的記憶と非宣言的記憶に分類することができます。

宣言的記憶は、その内容を言葉やイメージで表現することができる記憶で、Tulvingは宣言的記憶を意味記憶とエピソード記憶に分類しました。

意味記憶は、言葉の意味や概念などをはじめとする、世界に関する知識の記憶のことであり、自分自身の経験に関するエピソード記憶とは異なり、「いつ」「どこで」のような特定の文脈情報をもちません。

エピソード記憶は、自分自身が経験した出来事に関する記憶のことで、それを経験した時間や場所、自身の心理的状態などについての情報も含まれています。

タルヴィングが言うには、エピソード記憶の想起においては、自己認識の自覚のもとで心的な時間旅行が行われていると表現しています。

人は「意味記憶」の蓄積を重視しがちですが、その人個人の「らしさ」を構成しているのは間違いなく「エピソード記憶」の方です。

認知症高齢者との関わりの中で、エピソード記憶を引き出すような支援法が中心になっているのはそのためですね。

さて、問題文の「運動技能、知覚技能及び認知技能に関わり、想起意識を伴わない記憶」と照らして考えると、意味記憶やエピソード記憶は除外できることがわかると思います。

特に意味記憶やエピソード記憶に想起意識を伴うことは、自分の身体を使って考えればわかると思います。

宣言的記憶に対して、非宣言的記憶は、一連の認知活動や行動の中に組み込まれている記憶で、必ずしも言葉やイメージで表現することができる記憶です。

その代表例は運動や技能に関する記憶である「手続き記憶」になります。

例えば、自転車の乗り方に関する記憶は手続き記憶になり、自転車に乗れない人に対してどのようにすれば乗れるようになるかを言語的に説明することはとても困難であり、仮に説明できたとしても、乗れない人がその説明を言語的に覚えたとしても乗れるようにはなりません。

手続き記憶には、その内容によって運動性技能、知覚性技能、認知性技能(課題解決)の3種が区別されています。

例えば、先に述べた自転車の運転や楽器の演奏などは運動技能であり、鏡文字の読み取りなどは知覚性技能、複雑なパズルの解き方などは認知性技能にあたります。

いずれの場合も意識にはのぼらないが、反復により次第に習熟するような技能であり、行動に記憶が反映されることが特徴とされいます。

ある手続き記憶を獲得するまでには、一般的に学習者自身の反復訓練が必要になる反面、いったん十分な水準で獲得されれば長期間にわたって忘却されにくいです。

重要な特徴として、手続き記憶を利用する際には、それを獲得したときのエピソードを想起する必要がない、すなわち再現意識を伴う必要がないことが挙げられ、潜在記憶の一つに分類されています。

上記を踏まえれば、本問の「運動技能、知覚技能及び認知技能に関わり、想起意識を伴わない記憶」とは手続き記憶のことを指していると言えますね。

よって、選択肢①および選択肢⑤が不適切と判断でき、選択肢④が適切と判断できます。

② 展望記憶

日常生活では自らの予定や他者との約束を覚えておき、適切なタイミングで思い出すことが必要になります。

展望記憶とは、このような未来に行うことを意図した行為の記憶を意味し、過去に行った行為の記憶である回想記憶とは対比されます。

「明日、手紙を投函しないと」「あと1時間後にデートの約束」みたいな記憶のことですね。

展望記憶では、意図してから実行までに遅延期間があり、適切な時期に自発的にタイミングよく目的の行為を想起する認知処理が必要とされます。

このような処理は、多分にスキル的要素を含んでおり、メタ認知能力やモニタリング機能とも深い関連があります。

展望記憶の想起には「何か行うべき行為がある」ということの想起(存在想起)と、その行為内容の想起(内容想起)の2つの要素が含まれています。

これら2つの要素を支える神経基盤は独立していることが知られており、健忘症における脳損傷局在部位や、認知症の進行度把握のための指標としてもしばしば用いられています。

上記を踏まえると、展望記憶は「運動技能、知覚技能及び認知技能に関わり、想起意識を伴わない記憶」にはならないことがわかりますね。

運動技能はもとより、認知技能(複雑なパズルなど)には関係ありませんし、想起意識がばっちり伴いますからね。

よって、選択肢②は不適切と判断できます。

③ 偽りの記憶

偽りの記憶とは、実際に見たり、聞いたりしていないことを想起することであり、虚記憶、虚偽記憶、false memoryなどとも呼ばれます。

例えば、再生法を用いた記憶実験において「黒、サタン、こわい、天使、魔女」という記銘項目リストが呈示された場合、実験参加者はリストにはない「悪魔」という単語を想起する場合があります。

この「悪魔」は、提示されていない語であるが、提示されたすべての単語から連想される誤(ルアー語)になります。

参加者は内的に連想された「悪魔」という単語を、提示されたごと見なす間違いをしたということです。

本問のニュアンスでは、上記のような認知心理学的な観点での解説が適切だろうと思いますが、一般的に「偽りの記憶」というと他の事柄も出てきます(本質的には同じなんですけど)。

例えば、フロイトが性虐待の抑圧が症状の原因とされていると見なしていた初期の理論がありましたが、その後、その記憶は現実のものではないとする指摘がかなりなされました(抑圧された記憶、という表現で有名ですね)。

他にも、ある事件のニュースの後に流れた番組で出演していた人を、その事件の関係者と認識する等の例も挙げられますね。

上記を踏まえれば、偽りの記憶が「運動技能、知覚技能及び認知技能に関わり、想起意識を伴わない記憶」にはならないことがわかりますね。

よって、選択肢③は不適切と判断できます。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です