公認心理師 2021-7

ゲートコントロール理論に関する理解が問われてます。

私は、なぜ「痛いの痛いの飛んでけー」が効くのか、を理解するために過去に学んだことがありました(私の考えは解説中に述べておきました)。

問7 P.WallとR.Melzackのゲートコントロール理論が、元来、対象としていた感覚として、最も適切なものを1つ選べ。
① 温覚
② 嗅覚
③ 痛覚
④ 触圧覚
⑤ 自己受容感覚

解答のポイント

ゲートコントロール理論に関する理解がある。

「痛み」に対する心理支援の根拠としてゲートコントロール理論を理解しておくことが望ましい。

選択肢の解説

③ 痛覚

ゲートコントロール理論とは、メイザックとウォールが提唱した1965年ににScience誌に発表した痛みの制御に関する学説です。

痛みの知覚を引き起こす刺激である侵害刺激が身体に与えられたとき、触覚、振動感覚、圧覚などの非侵害刺激が同時に与えられると、脊髄後角にある機能的な関門(ゲート)により侵害刺激の信号が抑制されるとする理論です。

こちらのサイトにあった下の図がわかりやすいと思います(こちらで述べているのは、1965年に提唱された理論が修正されたものですが、こちらを理解しておけばよろしかろうと思います)。

脊髄後角にある関門では、侵害刺激を含む他の感覚が収束し、その投射先として脳へ痛み信号を伝達するT細胞と、そのT細胞を抑制する抑制性の介在ニューロンの2つがあると考えられています。

侵害刺激は、Aγ繊維およびC繊維を介してT細胞に対するゲートの役割をする抑制性の介在ニューロンを抑制し、T細胞の活動を上げ、脳への痛み信号の伝達を活性化します。

一方で、非侵害刺激は、Aβ繊維により抑制性の介在ニューロンを興奮させることによりT細胞の活動を抑制し、痛み信号の伝達も抑制されます。

また、このゲートの活動は、上位中枢である脳からの関与も受けており、最終的に痛みとして知覚されるのは、末梢からの侵害刺激量と中枢からの関与の総和であるとされています。

この画像もわかりやすいですね(こちらのサイトにありました)。

こうして読むとちょっと難しく感じると思いますが、要するに痛みを感じたときにその箇所をさすったりすると(つまり、触刺激を与える=触覚を刺激すると)触刺激が痛みを感じる経路を阻害し痛みを和らげてくれる、という事態などを説明した理論になります。

お母さんが小さい子どもにやる「痛いの痛いの飛んでけー」というのがあると思いますが、私はあれには大きく2つの効果があると考えています。

1つはここで挙げたようなゲートコントロール理論に基づく効果であり、「痛いの痛いの飛んでけー」と言いながらその箇所を優しくさすることで触刺激が生じ、痛みの経路を阻害して本当に痛みが和らいだように感じるという現象です。

もう1つは、「子ども自身に痛みの箇所に注意を向けさせる」という効果です。

身体的な痛みであっても、こころの痛み(その人がもつ精神的な課題、と言った方が適切な場合もありますが)であっても、共通しているのが「問題の箇所に正しく注意を向けることで、その箇所に向けて治癒力が発揮される」という点です。

これは神田橋條治先生やどこかのお坊さんが言っていましたが、転んで擦りむいたりした傷で、そこに注意を向けてもらうことで治りがずっと早くなるそうです。

これは身体面に限らず、精神面でも同様であり、例えばフォーカシング指向心理療法において、クライエントの問題の「中身」に関して語らせなくても、その「問題をイメージした箱に入れて、その感触を確かめる」といった技法によってでも改善がなされるのは、人間には「問題を正しく認識し、それに触れることで改善を促す力が発揮される」という特徴があるためです。

このことは多くの支援者が知っておく必要があります。

多くのクライエントは、そもそも「自分の問題が何なのか理解できていない」という状況にあります。

つまり、先ほど述べた「クライエントが正しく自分の問題を理解する」ということ自体が、まずは困難な状態にあるということなわけです。

問題への理解を促すために様々な技法や思想が各心理療法では生まれていますが、それを刃のように振るってはなりません(いわゆる、フロイトが述べている「乱暴な分析」などはその最たる例です)。

実践では「クライエントの問題を説明する「とある可能性」について、クライエントの認識としてもってもらうだけでも心理療法的効果はある」と理解しておくことで、より柔らかな支援が可能になることも多いです。

具体的には、不登校児が頑張って登校した後の数日間、体調不良に見舞われることがあります(Drはこの時の状態だけを診察して「起立性調節障害」と診断しないでほしいと思っています)。

当の本人はなぜそれが起こったのかわかっていないことも多く、その背景には自分が「登校することによってこんなに精神的ダメージを受けてしまう」という事実を受け容れられていないということも考えられます。

そういう時に「もちろん、あなたの不調は身体的な要因である可能性もあるけれど、時系列から見て登校直後から起こっているから、その可能性も切り捨てずに持っておくようにしましょう」と誘うと良い場合が多いですね。

話を戻して、より簡潔にゲートコントロール理論について再度述べてみましょう。

ゲートコントロール理論では、脊髄には脳に痛みを伝えるためのゲート(関門)があると考え、振動などの物理的刺激を脳に伝える信号を伝える神経の方が、痛みの信号を伝える神経よりも太く・速く脳に信号を伝えるとしています。

なお、心理的要因(気分や情動など)はゲートの開閉に影響を与える因子であることから、それを引き起こす社会的要因(家族の存在、孤立感など)も関連してくると見なすことができます。

上記では振動を例にとっていますが、脊髄は痛み以外にも振動や温冷、触覚などさまざまな感覚も認知していて、これらの刺激を与えることによってでも痛みの感覚を遮断させることは可能です。

これを活用している治療法はたくさんあり、例えば、寒冷療法(冷やすやつですね)だと温感によって痛覚が遮断されるわけですね。

以上のように、ゲートコントロール理論は痛覚に関する理論と言えます。

よって、選択肢③が正しいと判断できます。

① 温覚
② 嗅覚
④ 触圧覚
⑤ 自己受容感覚

上記でわかる通り、ここで挙げた各感覚は「ゲートコントロール理論において、痛覚を遮断するもの」と見なすことができますね。

温感は温かいとか冷たい、嗅覚はにおい、触圧覚は触れられている感覚、自己受容感覚は身体の深部感覚になります(自己受容感覚は、自分を受容している感覚、ではないですよ)。

ただ、温感、触圧覚、自己受容感覚については治療法として確立されているものがあると思うのですが(温感‐寒冷療法など、触圧覚‐経皮的電気神経刺激、自己受容感覚‐脳深部刺激療法)、嗅覚については明確に見つけることができませんでした。

ただし、アロマテラピーによる痛みの緩和についての知見は見られるので、こちらがゲートコントロール理論と関連しているとみてよいのかもしれません。

いずれにしても、ここで挙げた選択肢については「ゲートコントロール理論が、元来、対象としていた感覚」ではないことがわかります。

以上より、選択肢①、選択肢②、選択肢④および選択肢⑤は誤りと判断できます。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です