公認心理師 2018-117

社会構成主義を基盤とする心理的支援について、正しいものを1つ選ぶ問題です。

オープンダイアローグが好きでよく読むのですが、社会構成主義の考え方が随所に見られます。
と言っても社会構成主義自体にはあまり詳しくなかったので、以下の書籍を参考にしました。

特に「オープンダイアローグとは何か」はお勧めです。
上記を読むことで、本当の「安全な会話」とは何なのか、具体的に説明できるようになりました。

解答のポイント

社会構成主義の基本的な考え方を把握していること。

選択肢の解説

『①当事者と会話を維持することではなく、変化を起こすことを目標にする』

社会構成主義においては、以下のように考えます。
現実維持の最も重要な媒体は会話である。われわれは個人の日常生活を、彼の主観的現実をたえず維持し変形し再構成する会話機構の働きの中に見ることができる

この点はアンダーソン&グリシャンの「治療的会話」でも示されております。
ある経験を語る言葉が相手に理解され、相手の語る言葉が自分にとって理解可能であるという事実が、世界の在りように関して理解を共有していることを裏書きすると考えます。

すなわち、選択肢前半の「当事者と会話を維持することではなく」が既に誤りであると判断できます。
また選択肢後半の「変化を起こすことを目標にする」についても誤りです。

社会構成主義を背景にした支援として「オープンダイアローグ」があります。
オープンダイアローグで繰り返し主張されているのは、言葉のやりとりを通して相手の世界を共有することであり、それは変化を目指したものではありません。
変化はあくまでもその結果として生じるものとされています。

社会構成主義は「行き先を定めない」という考えを持ち、それを背景にしたセラピーでも、より重要で本質的な原因を特定しないという構えをとります。

以上より、選択肢①は誤りと判断できます。

『②人間の活動が文化や価値観に根差しているという考えに基づいて支援を行う』

われわれが日常、「本当」だとか「良い」とか判断するときの基準は、社会や人間関係に埋め込まれていると社会構成主義では考えます
われわれの現実感は「われわれが用いている言語体系によって導かれ、同時にそれによって制約されている」とし、自己と他者、世界をどう捉えるかは、人々の間で共有されている言語のやり取りや語り方の慣習によって決まってきます

この点は選択肢の「人間の活動が文化や価値観に根差しているという考え」という記述と矛盾しないと考えられ、社会構成主義を背景にした、ナラティブアプローチやオープンダイアローグも、こうした視点に拠った支援になっています。

以上より、選択肢②が正しいと判断できます。

『③論理科学的モードとナラティブモードとの2つの基本的な思考パターンに分ける』

社会構成主義では、考えや観念や記憶が、人々の社会的交流から生まれ、言語に媒介されると考えます。
これを背景にした支援では、会話がどこへ向かうのかをあらかじめ決めずに、「いまだ語られなかった物語」との出会いを求めて進んでいきます

この姿勢は、より本質的な原因を特定しないということを意味します。
例えば、症状や問題の原因を何かに求め、解釈するということをしません。
これらは「行き先」が決まった支援であると言えます。

そして、症状や問題の原因を何かに求めるという支援は、選択肢にある「論理科学的モード」に該当するものであり、その点でこの選択肢は誤りと判断できます。

なお、選択肢にある「ナラティブモード」の思考パターンが、社会構成主義のものとされています。
以上より、選択肢③は誤りと判断できます。

『④言語が現実を作り出すという視点から新たな社会意識を形成するという考えに基づいて支援を行う』

社会構成主義の基本的な主張は「現実は社会的に構成される」という点に要約されます
我々が生きる現実は我々相互の交流を通して、ソーシャルに構成されるというものです。
あくまでも共同作業を通して現実が立ち現れてくると考えます。

この際、人間は言語という所与の制度に従い、それによって思考せざるを得ない存在とされます。
すなわち、人間は言語という外在的で客観的な制度に規定された存在であると言えます。

以上より、選択肢前半の「言語が現実を作り出すという視点」については正しい内容と判断できます。
それでは後半の「新たな社会意識を形成するという考え」についてはどうでしょうか。

社会構成主義では、すべての知識は人々の間にある空間で発展し、「共通の世界」あるいは「共通のダンス」と呼びうる領域で発展すると考えます。
選択肢後半の「新たな社会意識を形成するという考え」という表現は、このことと矛盾があると判断できます。

以上より、選択肢④は誤りと判断できます。

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