公認心理師 2023-1

第1問は秘密保持義務違反に関するものです。

基本的な内容ではありますが、細かいところも含めて確認しつつ解説していきましょう。

問1 公認心理師が被面接者の同意を得ずに行うことで、秘密保持義務違反に該当するものを1つ選べ。
① 被面接者が配偶者から身体的暴力を受けているという事実を知り、警察に通報した。
② 面接で自殺念慮と具体的な準備を語った被面接者の家族に、切迫した危険を伝えた。
③ 面接した児童が親から虐待を受けている可能性があると考え、児童相談所に通告した。
④ 被面接者の信条に関わる問い合わせを被面接者の職場の上司から受け、面接で知り得た関連情報を伝えた。
⑤ 面接した高齢者が、家族によって食事も十分に与えられず、脱水を起こしかけているという事実を知り、市町村に通報した。

解答のポイント

秘密保持義務の例外状況および法律との絡みを把握している。

選択肢の解説

① 被面接者が配偶者から身体的暴力を受けているという事実を知り、警察に通報した。

本問は公認心理師の秘密保持義務に関する問題ですね。

まずは基本として公認心理師法に定められている秘密保持義務について確認しておきましょう。


第四十一条 公認心理師は、正当な理由がなく、その業務に関して知り得た人の秘密を漏らしてはならない。公認心理師でなくなった後においても、同様とする。


秘密保持義務に関する問題で重要なのは「例外状況」に関する理解です。

過去の問題でも、出題されているのは「例外状況」と「秘密を守らねばならない状況」との境目を理解しているか否かという点になります。

この「秘密保持義務の例外状況」、すなわち秘密保持義務はあるけど、例外的にカウンセリングで得た情報を開示して良いという状況はさまざまです。

本問で論点となっているのは、①他の法律との絡みで秘密保持義務が適用されない、②秘密保持義務自体の適用範囲、の2点です。

選択肢①、選択肢③、選択肢⑤は上記の①であり、選択肢②は上記の②に該当しますね。

ここまでは本問全体の前置きになりますが、以下から選択肢①の解説に入っていきましょう。

本選択肢のように「被面接者が配偶者から身体的暴力を受けているという事実」を把握したときには、配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律に基づいた対応が必要になります。

関連するのは以下の条項になります。


(配偶者からの暴力の発見者による通報等)
第六条 配偶者からの暴力(配偶者又は配偶者であった者からの身体に対する暴力に限る。以下この章において同じ。)を受けている者を発見した者は、その旨を配偶者暴力相談支援センター又は警察官に通報するよう努めなければならない。
2 医師その他の医療関係者は、その業務を行うに当たり、配偶者からの暴力によって負傷し又は疾病にかかったと認められる者を発見したときは、その旨を配偶者暴力相談支援センター又は警察官に通報することができる。この場合において、その者の意思を尊重するよう努めるものとする。
3 刑法(明治四十年法律第四十五号)の秘密漏示罪の規定その他の守秘義務に関する法律の規定は、前二項の規定により通報することを妨げるものと解釈してはならない。
4 医師その他の医療関係者は、その業務を行うに当たり、配偶者からの暴力によって負傷し又は疾病にかかったと認められる者を発見したときは、その者に対し、配偶者暴力相談支援センター等の利用について、その有する情報を提供するよう努めなければならない。


上記の条項を踏まえ、本選択肢を正しく理解するための思路を辿っていきましょう。

まずはDV防止法独自のポイントになる「配偶者又は配偶者であった者からの身体に対する暴力に限る」という箇所になります。

例えば、児童虐待防止法であれば、虐待種は身体的虐待、心理的虐待、ネグレクト、性的虐待となっており、このいずれに該当したとしても通告は義務となっています。

これに対し、DVという事象に関しては「身体的暴力」のみが通報に絡むことになり、しかもそれは「努力義務」となっています(努めなければならない=努力義務であることを示す文言)。

DVの最中にある人は、DV被害を受けていたとしても「自分がされているのはDVである」という認識を持ちづらいものです(これはそういう「仕組み」が、DVというよりも「人を支配する」という行為に含有されているためです)。

だからこそ「社会通念に照らして、明確にストップをかけるべきもの」と大多数が賛同できるポイントである「身体的暴力」が明確なラインとして設定されているのでしょう。

もちろん、だからと言って「精神的な攻撃はDVに該当しない」と考えないことも大切ですね。

あくまでも法律的な線引き(というか限界)であるというだけです。

さて、上記を踏まえると、本選択肢では「配偶者から身体的暴力を受けているという事実」とありますから、通報の努力義務が発生することになります(ちなみに「配偶者:元配偶者、内縁の配偶者、元内縁の配偶者も含む」からでなければ該当しません)。

そして、その通報に関しては「刑法(明治四十年法律第四十五号)の秘密漏示罪の規定その他の守秘義務に関する法律の規定は、前二項の規定により通報することを妨げるものと解釈してはならない」とありますね。

ですから、この通報は公認心理師法に定められている秘密保持義務を違反するものとはならないことになるわけです。

秘密保持義務があることで通報ができず、クライエントの利益に反することがあってはならないということですね。

以上より、選択肢①は秘密保持義務違反に該当しないと判断でき、除外することになります。

② 面接で自殺念慮と具体的な準備を語った被面接者の家族に、切迫した危険を伝えた。

本選択肢では、秘密保持義務の例外状況に関する理解が問われていますね。

上記の書籍に記されている秘密保持義務の例外状況は以下の通りです。

ちなみにYouTube版でも秘密保持義務の例外状況に関しては解説しています。

  1. 明確で差し迫った生命の危険があり、攻撃される相手が特定されている場合
  2. 自殺など、自分自身に対して深刻な危害を加えるおそれのある緊急事態
  3. 虐待などが疑われる場合
  4. そのクライエントのケアなどに直接関わっている専門家同士で話し合う場合(相談室内のケース・カンファレンスなど)
  5. 法による定めがある場合
  6. 医療保険による支払いが行われる場合
  7. クライエントが、自分自身の精神状態や心理的な問題に関連する訴えを裁判などによって提起した場合
  8. クライエントによる明示的な意思表示がある場合

これらの状況下では、秘密保持義務が適用されないということになるわけです。

本選択肢の状況は、上記の2に該当しますね。

クライエントが自殺など明確な意図をもって自分自身に危害を加えようとしているのであれば、その緊急性を周囲に伝えるということは秘密保持義務違反にはなりません。

なお、クライエントの自殺が「実行されるか否か」を見立てるポイントを知っておくことも重要になり、本選択肢ではその点の理解も求められています。

選択肢中に「具体的な準備を語った」という記述が確認できますが、これが自殺リスクの評価ポイントの一つとされています。

単に「自殺念慮を示した」というだけで家族に連絡するというのは、責められないにしても専門家としていかがなものかと言わざるを得ませんし、そういうことばかりしていてはクライエントは離れていってしまうでしょう。

きちんと自殺リスクの評価ができるからこそ、クライエントの「自殺念慮」にどういう意味が内包されているかを探索していくという行為が可能になってくるわけです。

また、マニュアル化されている「自殺リスクの評価ポイント」を単に当てはめるだけではなく、目の前の人間の命が遠ざかっていくという感覚も掴んでおきたいところです(自殺前に丁寧な態度でお礼を言ってくるということはよく耳にしますが、こういう時に感じられることが多いかもしれません)。

以上より、選択肢②は秘密保持義務違反に該当しないと判断でき、除外することになります。

③ 面接した児童が親から虐待を受けている可能性があると考え、児童相談所に通告した。

こちらは児童虐待防止法の該当箇所を見ていきましょう。


(児童虐待に係る通告)
第六条 児童虐待を受けたと思われる児童を発見した者は、速やかに、これを市町村、都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所又は児童委員を介して市町村、都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所に通告しなければならない。
2 前項の規定による通告は、児童福祉法第二十五条第一項の規定による通告とみなして、同法の規定を適用する。
3 刑法(明治四十年法律第四十五号)の秘密漏示罪の規定その他の守秘義務に関する法律の規定は、第一項の規定による通告をする義務の遵守を妨げるものと解釈してはならない。


上記の条項が本選択肢の正誤判断に使われることになります。

まず第1項にある通り、虐待を受けたと「思われる児童」を発見した場合は、それだけで通告「しなければならない」とされています。

ですから、本選択肢の「親から虐待を受けている可能性がある」という記述だけで、通告する「義務」が生じることになります。

確かな証拠が無くても、虐待を受けている「可能性」があれば、通告しなければならないのです。

そして、この通告は「刑法(明治四十年法律第四十五号)の秘密漏示罪の規定その他の守秘義務に関する法律の規定は、第一項の規定による通告をする義務の遵守を妨げるものと解釈してはならない」とありますから、秘密保持義務違反にはならないと考えて良いのです。

さて、子どもたちと関わる仕事をしていると、こうした「虐待される可能性がある子ども」への対応で困ったことが生じます。

例えば、子どもが学校で困ったことをたくさんしているけど、その子どもが「過去に虐待を受けたことがある」ために、学校側に「このことを伝えると、この子が虐待を受けるかもしれない」と考えて、学校での問題を親に伝えないという事態などです。

情緒的で子どもへの思いが強い管理職などに見られるものですが、結果としては悪循環を生み、問題がより大きい状態になってから親に伝達するため、学校と親との関係が悪くなるということも見受けられます。

組織として伝えるべき内容は、どういった事情があろうとも基本的には伝えていくということになるでしょうね。

以上より、選択肢③は秘密保持義務違反に該当しないと判断でき、除外することになります。

④ 被面接者の信条に関わる問い合わせを被面接者の職場の上司から受け、面接で知り得た関連情報を伝えた。

この選択肢の内容は、冒頭で述べている、①他の法律との絡みで秘密保持義務が適用されない、②秘密保持義務自体の適用範囲、のいずれにも関わらないので面接で知り得た情報を他者に提供することはできないはずです。

より詳しく見ていきましょう。

まずは「被面接者の信条」についてです。

信条とは「固く信じて守っている事柄」となり、この中には宗教の教義なども含まれることになります。

ですから、「被面接者の信条」とはクライエントにとって非常に重要な個人情報と言ってよいわけです。

ちなみに個人情報保護法において「この法律において「要配慮個人情報」とは、本人の人種、信条、社会的身分、病歴、犯罪の経歴、犯罪により害を被った事実その他本人に対する不当な差別、偏見その他の不利益が生じないようにその取扱いに特に配慮を要するものとして政令で定める記述等が含まれる個人情報をいう」とありますから、信条が重要な事項であることがわかると思います。

本問を解く上では「クライエントの信条」というものの重要性を正しく理解していることが求められているということになりますね。

さて、その上で「問い合わせを被面接者の職場の上司から受け」という状況になります。

試験問題に書いていないことを想像するものではありませんが、クライエントの信条によって職場内での人間関係の困難さが生じているなどの可能性がありますね。

ただ、どのような事情があろうとも、クライエントの信条という非常に重要な個人情報を伝えるということはあり得ません。

「それを伝えないとクライエントの生死に関わる」のであれば話は別ですが、そういった情報は示されていませんね。

ですから、本選択肢の状況で「職場の上司」に対して、面接で語られた内容を伝えるということはあり得ません。

これは「家族」であっても同様と考えてもらってよいです(本選択肢で示されている情報範囲であれば)。

ついでに「こういう問い合わせがあった時に、どう対応するべきか」についても述べておきましょう。

流れで述べると、①まずは個人情報なので伝えることができない、②事情をクライエントに伝え、クライエントから了承が得られれば可能である、③上司から問い合わせがあったこと、そしてその情報を知りたい事情をクライエントに伝えた上で、了承の確認をすることは可能である、といった感じになります。

だいたいは「上司から問い合わせがあったことを伝える」というところで引っかかることもありますし、「信条を知りたい事情」をクライエントに伝えることが難しいということもあります(上司側が)。

ですが、こういう手順を踏んでおかないと、クライエントとの関係性が維持できません。

なお、こういう時のクライエントと上司との関係性から、クライエントの対人関係上の問題を見立てる上で重要な情報が得られることがあります。

それは上司からの「情報(内容)」ではなく、上司の困り方、どのように問い合わせるのか、個人情報の壁を前にした反応などから、クライエントを取り巻く対人関係の「構造」が窺えるからです。

見立てにおいて重要なのは、その「内容」ではなく、「構造」であることがほとんどであるということを知っておきましょう。

例えば、「子どもを叩いてしまうんです」という言葉を受けて、どのくらい叩くのか、強さはどの程度か、頻度はどのくらいか、といった「内容」に目を向けることがカウンセリングでは本質として重要ではありません(リスク査定としては重要だけど)。

それよりも「しまう」という表現の「構造」から、「本当は止めねばならないのに、自分では止めることができない」という心情を読み取り、クライエントの内にある葛藤を支え、クライエントが自らをコントロールできる状態にしていくことがカウンセリングでは重要なのです。

こうした「葛藤」の発見および育成がカウンセリングという営みの、非常に重要な役割であると理解しておくことが大切です。

以上より、選択肢④は秘密保持義務違反になると判断でき、こちらを選択することになります。

⑤ 面接した高齢者が、家族によって食事も十分に与えられず、脱水を起こしかけているという事実を知り、市町村に通報した。

こちらについては高齢者虐待防止法を見ていきましょう。


(定義等)
第二条 この法律において「高齢者」とは、六十五歳以上の者をいう。
2 この法律において「養護者」とは、高齢者を現に養護する者であって養介護施設従事者等(第五項第一号の施設の業務に従事する者及び同項第二号の事業において業務に従事する者をいう。以下同じ。)以外のものをいう。
3 この法律において「高齢者虐待」とは、養護者による高齢者虐待及び養介護施設従事者等による高齢者虐待をいう。
4 この法律において「養護者による高齢者虐待」とは、次のいずれかに該当する行為をいう。
一 養護者がその養護する高齢者について行う次に掲げる行為
イ 高齢者の身体に外傷が生じ、又は生じるおそれのある暴行を加えること。
ロ 高齢者を衰弱させるような著しい減食又は長時間の放置、養護者以外の同居人によるイ、ハ又はニに掲げる行為と同様の行為の放置等養護を著しく怠ること。
ハ 高齢者に対する著しい暴言又は著しく拒絶的な対応その他の高齢者に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと。
ニ 高齢者にわいせつな行為をすること又は高齢者をしてわいせつな行為をさせること。
二 養護者又は高齢者の親族が当該高齢者の財産を不当に処分することその他当該高齢者から不当に財産上の利益を得ること。

(養護者による高齢者虐待に係る通報等)
第七条 養護者による高齢者虐待を受けたと思われる高齢者を発見した者は、当該高齢者の生命又は身体に重大な危険が生じている場合は、速やかに、これを市町村に通報しなければならない。
2 前項に定める場合のほか、養護者による高齢者虐待を受けたと思われる高齢者を発見した者は、速やかに、これを市町村に通報するよう努めなければならない。
3 刑法(明治四十年法律第四十五号)の秘密漏示罪の規定その他の守秘義務に関する法律の規定は、前二項の規定による通報をすることを妨げるものと解釈してはならない。


上記の条項を踏まえて、本選択肢の解説をしていきましょう。

まずは「家族によって食事も十分に与えられず、脱水を起こしかけているという事実」が高齢者虐待に該当するか否かです。

これは上記のロに該当する行為になりますから、高齢者虐待になると判断して差し支えありません(脱水を起こしかけている高齢者と面接するという状況があり得るのかはともかくとして。施設だとあり得るか?いや、それなら職員の方が気づくでしょう…)。

そして、高齢者虐待の場合には、通報を「市町村」にするということになりますから、本選択肢の内容で相違ありませんね(過去の試験問題だと、こういう細かいところを変えて出題してきていたので大変でした)。

そして、この通報は「刑法(明治四十年法律第四十五号)の秘密漏示罪の規定その他の守秘義務に関する法律の規定は、前二項の規定による通報をすることを妨げるものと解釈してはならない」となっているから、秘密保持義務違反には該当しません。

以上より、選択肢⑤は秘密保持義務違反に該当しないと判断でき、除外することになります。

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