公認心理師 2022-116

心理的な支援を行う際のインフォームド・コンセントの説明に関する問題です。

医師の治療で行うインフォームドコンセントとは異なる事情が心理支援には有り、そういう面も含んだ問題ということで面白い内容でした。

問116 心理的な支援を行う際のインフォームド・コンセントの説明として、不適切なものを1つ選べ。
① リスクの説明を含む。
② 支援の経過に応じて常に行われる。
③ 他の可能な支援方法の提示は控える。
④ 文書だけではなく、口頭のみによる説明もある。
⑤ クライエントだけではなく、代諾者に対しても行われる。

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解答のポイント

心理支援の独自性に基づいたインフォームドコンセントについて理解している。

選択肢の解説

① リスクの説明を含む。
② 支援の経過に応じて常に行われる。
③ 他の可能な支援方法の提示は控える。
④ 文書だけではなく、口頭のみによる説明もある。
⑤ クライエントだけではなく、代諾者に対しても行われる。

本問を解くにあたって「臨床心理学におけるインフォームド・コンセント」という論文を引用しつつ行っていきます(とてもまとまっています)。

まずは医療領域(医師‐患者)におけるインフォームドコンセントについて述べていきましょう。

治療を受けるかどうかを決定するにあたって以下の3つの要素が要求されます。

  1. 医師からの情報が開示されること
  2. 自発的な選択ができるような環境でなされること
  3. 患者に治療を受けるかどうかを判断する能力が備わっていること

これらの要件は、治療関係の在り方に関する原則であり、医師と患者の対話を通して治療関係をより信頼のあるものとし、共同の意思決定を行うことで患者自身が主体的に治療に取り組んでいくことを目的とします。

医師と患者との間に存在する情報の差を可能な限り縮小させ、最終的には、実際に治療を受ける患者自身の意思や価値観などに基づいた患者の自己決定権が優先されなければなりません。

上記の通り、一般に「インフォームドコンセント」は医師による治療について行うものですが、その内容を述べていくと、検査や治療についての目的や内容、病状と診断結果(病名)、治療方針、治療内容 (投薬内容など)、予測される死亡や身体障害のリスク、見通し(予後)、検査や治療行為に伴って生じる生活上の変化、治療のために利用可能な各種の保健福祉サービスについての情報、かかる費用などになります。

これらは方針を自己決定するために必要とされる情報であり、患者は説明を元に自身の価値観に基づいて方針を選択することになります。

カウンセリング場面で行うインフォームドコンセントの内容も、医師が行うものと本質的に異なるものではありません。

金沢(2006)は心理面接におけるインフォームド・コンセントの具体的内容として、①援助の内容・方法について (援助の効果とリスク、援助を行わない場合のリスクと益など)、②秘密保持について(秘密の守られ方とその限界についてなど)、③費用について(費用と支払い方法など)、④時間について(時間帯・相談時間、場所、機関など)、⑤カウンセラーの訓練などについて(カウンセラーの訓練、経験、資格、職種、理論的立場など)、⑥質問・苦情などについて(カウンセリングはいつでも中止することができることなど)、⑦その他、の7点を挙げています。

これらは以下のように分類することができます。

  1. 援助の根拠や援助方法、予想される結果に関する説明:
    アセスメントやケース・フォーミュレーションをクライエントと共有しつつ、幾つかの援助方法を提案する。 クライエントは与えられた情報と自身の価値観を照らし合わせて援助方法を選択し、その実施に同意することになる。
  2. 臨床心理学的援助の実施者である心理臨床家自身に関する説明:
    有効な援助方法が複数ある場合、カウンセラーの訓練経験や専門領域等の情報は、クライエントの選択に影響を与える可能性が高い。 また、カウンセラー自身について説明することは、インフォームド・コンセントに留まらない向治療的な効果も期待できる(カウンセラー側からの適度な自己開示は相手を尊重し対等な人間であることを伝える意味がある)。ただし、クライエントの知る必要のない情報が含まれる過度の自己開示は適切な治療関係からの逸脱になるため、その自己開示が客観的に見て援助プロセスに必要なのか吟味する必要がある。
  3. 時間帯や場所、費用など実施機関やシステムに関する説明:
    援助方法やカウンセラーの能力には満足しているが、平日は仕事をしているために日中の来談ができない、といった場合にはクライエントの来談可能な時間に実施可能な施設へのリファーを考える必要がある。 クライエントやその家族の経済的な負担も無視できない要因である。

インフォームドコンセントの内容はすべて説明することが望ましいが、現実的には時間の制約等があり全てを行うことが困難な場合もあります。

しかし、インフォームドコンセントでは説明に基づいた意思決定を可能にする情報が重要であるとされ、伝えられる情報には優先順位があることになり、ここで優先されるのは、その人の自由な意思決定につながる情報ということになるわけです。

例えば、リスクが気になるクライエントであればリスクに関する情報やリスクを減らす方法、費用を重視するクライエントであれば手続きにかかるコストや費用面をサポートする制度などです。

また、リスクについて積極的に尋ねるが費用面については気がついていない、など意思決定につながる可能性があるが、クライエントが目を向けていない面があれば、それを伝えることも必要になります。

もちろん、正確に伝えることが前提となるが、納得した上での意思決定に至るために、クライエントの価値観や心情に配慮したわかりやすい説明も必要となるのは言うまでもありませんね。

さて、ここまでを踏まえて各選択肢の検証を行っていきましょう。

まず選択肢①の「リスクの説明を含む」ですが、こちらについては上記の「援助の内容・方法について (援助の効果とリスク、援助を行わない場合のリスクと益など)」に該当し、インフォームドコンセントで行われるべき事項と言えるでしょう。

一つ付け加えることがあるとするなら、カウンセリングにおいて「リスク」とは、一概にネガティブなものとは限らないということを知っておくことが重要です。

Kannerの症状の意義の一つに「問題解決の企図」が示されていることが一例ですが、クライエントの問題行動はその言葉通りの意味でない場合が少なくありません。

具体的には、カウンセリングを続けていく中で、何かしらの逸脱行動が見られる場合があり、それ自体は「リスク」になりますが、それは「回復過程で起こりうる事態」と見なすこともできます。

例えば、年少~思春期の子どもたちの支援をしていると、彼らの中には「重要な他者とのごちゃごちゃした関係」を希求しているとしか思えない言動を示す者がおり、そのごちゃごちゃした関係を引き起こすために「社会的には好ましくない行動」が見られることもあり得るわけです。

ですから、カウンセリングにおいて「リスク」を伝えるときには、その事実とともに、その「リスク」が当該クライエントにとってどのような意味を持つものかを、そのクライエントや状況に合わせて伝えることも支援の一環と言えるでしょう。

続いて、選択肢②の「支援の経過に応じて常に行われる」ですが、こちらは上記の解説内に示されている事項ではありませんが、やはりインフォームドコンセントにおいて重要な事項になります。

なぜなら、カウンセリングという営みにおいて、ある程度の未来予測はなされるべきですし、その予測の距離と深さがそのカウンセラーの力量の多寡と関連するとも言えますが、やはり予測不可能な面は出てきます。

究極を言えば「神のみぞ知る」という領域に関しては、人の身である以上予測の範囲を超えていると言えます。

カウンセリング(というか人対人)という営みにおいて、その経過は読み切れない面があり、その時々の局面において新たな選択肢が設けられることになります。

例えば、不登校児の保護者(母親)と面接していて、その期間中に夫の不貞が明らかになった場合、どこまでその出来事に関わるかを設定し直す必要に迫られます。

この場合、「夫婦関係のことを何でも対応する」というのは元々の治療契約(不登校の支援)から外れているわけですから、軽々に採用するわけにはいきません。

ですから、例えば「家族間の諍いや母親の精神的不調が子どもに与える影響は大きい。ですから、子どもの安定を目指すという枠組みで、その件についても必要に応じて話し合っていきましょう」といった枠組みの再設定が必要になりますし、その再設定によって生じる様々な事項について確認していくことがインフォームドコンセントであると言えますね。

このように、カウンセリングにおいては、その時々の経過によってその都度検討せねばならない出来事が生じるものであり、その経過中であってもインフォームドコンセントを継時的に行って、クライエントの同意を得ていくことが重要になってきます。

続いて、選択肢③の「他の可能な支援方法の提示は控える」ですが、これは明確に上記の「援助の内容・方法について (援助の効果とリスク、援助を行わない場合のリスクと益など)」や「カウンセラーの訓練などについて(カウンセラーの訓練、経験、資格、職種、理論的立場など)」と反する内容になっていますね。

クライエントに援助の内容や方法を説明した際、その内容や方法に同意ができないという事態も想定できるわけですし、そうなれば別の方法の提示をしていくのも当然の流れだと言えるでしょう。

心理支援に限らずですが、クライエントの意思に反した支援はできませんから、合意が可能なラインを探してお互いに(これはカウンセラー側だけでなくクライエント側も)折り合いをつけていくことが重要になります。

もちろん、クライエントの求めるものが「お腹いっぱい食べたいけど、太りたくない」的なニュアンスのものであれば、その不可能性・不合理性についてどのようにやり取りしていくかがカウンセリングの焦点になっていくことも考えられますね。

また、カウンセラーの経験や立場によっては、クライエントの問題の解決に結びつかないということも、一応は考えられます(本当はどのような立場であれ、それなりに力をつけていくと対応はできるというのが正直なところですが)。

その場合には、クライエントのニーズに沿って別機関を紹介するということも考えられ、これも「他に可能な支援方法の提示」であると言えるでしょうね。

いずれにせよ、「他の可能な支援方法の提示は控える」というのは支援の倫理においてはあり得ないことですから、こちらが不適切であると言えます。

次は選択肢④の「文書だけではなく、口頭のみによる説明もある」になります。

こちらは上記の項目には含まれておらず、もしかしたら医療におけるインフォームドコンセントと最も異なる点であるかもしれません。

先述した通り、カウンセリング過程は予測の利かない様々な事態によって左右されます(上記の例で挙げたパートナーの不貞などは、可能性を頭の片隅に置いていたとしても、それが起こるという前提では話をしていないですよね)。

ソンディテストの背景にある運命分析学において運命は選択の連続であるという捉え方をしますが、カウンセリング過程もその都度細かい選択の連続ということになります。

治療構造の変化など大きな方針については書面でのやり取りも可能ですが、1回1回の面接で訪れる細かい選択についてその都度書面で合意を取るというのは現実的ではなく、その場のカウンセリングの流れの中で自然と行われていると見なすのが妥当です。

公機関への訴えの一つとして「書面で出せ」と言ってくる人もいるのですが、私が心理支援でそのような人と関わるときには「1回前の面接で妥当と思われていた対応が、その次の回では優先度が低くなるということも少なくないのが精神的支援の実情です。書面で示せるものは示しますが、書面で示すことで、却って本人のためにならないことも少なくありません。例えば、方針を変えるべきなのに、書面で合意しているがために契約違反になるから方針を変えられないなどの事態は避けたいことです。もちろん、大枠として変わらないと思われる方針については、組織と相談して書面で示すことも検討させていただきます」などと伝えます。

不登校児への支援などは「教室に向けて刺激を与えましょう」などと言っていても、その状況によっては「今日は絶対に無理だな」という日もあるわけで、その都度で支援者となる人の「肌感覚と浮かぶイメージ」によって当初の予定を変更しつつやっていくことが重要になります(この辺は他の領域の支援でもあり得る事態だと思います)。

この辺は「人のこころ」に関わる中で起こる特異な事態と言えるかもしれませんね。

いずれにせよ、「文書だけではなく、口頭のみによる説明もある」というのは、少なくとも心理支援の枠組みではあり得ることだと言えるでしょう。

最後に選択肢⑤の「クライエントだけでなく、代諾者に対しても行われる」についてです。

こちらも上記の項目には含まれていませんが、あり得ることなのはわかりますね。

医療では、患者が疾病等何らかの理由により有効なインフォームドコンセントを与えることができないと客観的に判断される場合があり得ますが、カウンセリング場面ではこれは少ないだろうと思います。

それよりもあり得るのが、クライエントが未成年者の場合で、保護者に代諾者としてインフォームドコンセントを行うわけですが、こちらは自然なことですね(他にもクライエントが認知症などで判断が困難な場合、頭部外傷などで認知機能に著しい問題がある場合なども考えられますね)。

ただし、この場合においても、クライエントにわかりやすい言葉で十分な説明を行い、理解が得られるよう努めなければならないのは言うまでもなく、また、クライエントがある程度の年齢に達している場合には(もしくはクライエントの認知機能が回復してきたなどの場合も)、代諾者とともにクライエントからのインフォームドコンセントも受けなければなりません。

このように、クライエントだけでなく、代諾者に対してもインフォームドコンセントが行われることもあり得ます。

以上のように、選択肢①、選択肢②、選択肢④および選択肢⑤は適切と判断でき、除外することになります。

また、選択肢③は不適切と判断でき、こちらを選択することになります。

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