公認心理師 2021-109

医療関係者が患者から取得した個人情報の取扱に関する問題です。

「医療関係者」という制限はあっても、根拠とする法律は個人情報保護法であることが「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」からも明らかですね。

問109 医療関係者が患者から取得した個人情報の開示について、本人の同意を得る手続が例外なく不要なものを1つ選べ。
① 財産の保護のために必要がある場合
② 公衆衛生の向上のために特に必要がある場合
③ 医療法に基づく立入検査など、法令に基づく場合
④ 本人の生命、身体の保護のために必要がある場合
⑤ 児童の健全な育成の推進のために特に必要がある場合

解答のポイント

個人情報保護法および「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」を把握している。

選択肢の解説

① 財産の保護のために必要がある場合
② 公衆衛生の向上のために特に必要がある場合
③ 医療法に基づく立入検査など、法令に基づく場合
④ 本人の生命、身体の保護のために必要がある場合
⑤ 児童の健全な育成の推進のために特に必要がある場合

まず本問全体に係る個人情報保護法の以下の条項を見ていきましょう。


第十五条(利用目的の特定) 個人情報取扱事業者は、個人情報を取り扱うに当たっては、その利用の目的(以下「利用目的」という。)をできる限り特定しなければならない。

2 個人情報取扱事業者は、利用目的を変更する場合には、変更前の利用目的と関連性を有すると合理的に認められる範囲を超えて行ってはならない。

第十六条(利用目的による制限) 個人情報取扱事業者は、あらかじめ本人の同意を得ないで、前条の規定により特定された利用目的の達成に必要な範囲を超えて、個人情報を取り扱ってはならない。

2 個人情報取扱事業者は、合併その他の事由により他の個人情報取扱事業者から事業を承継することに伴って個人情報を取得した場合は、あらかじめ本人の同意を得ないで、承継前における当該個人情報の利用目的の達成に必要な範囲を超えて、当該個人情報を取り扱ってはならない。

3 前二項の規定は、次に掲げる場合については、適用しない。
一 法令に基づく場合
二 人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき。
三 公衆衛生の向上又は児童の健全な育成の推進のために特に必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき。
四 国の機関若しくは地方公共団体又はその委託を受けた者が法令の定める事務を遂行することに対して協力する必要がある場合であって、本人の同意を得ることにより当該事務の遂行に支障を及ぼすおそれがあるとき。


本問は上記の内容を踏まえて構成されています。

こちらを前提としつつ「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」を引用しつつ解説していきましょう。

こちらのガイドラインにおける「利用目的の特定及び制限」では、以下のように述べられています。

  • 医療・介護関係事業者が医療・介護サービスを希望する患者・利用者から個人情報を取得する場合、当該個人情報を患者・利用者に対する医療・介護サービスの提供、医療・介護保険事務、入退院等の病棟管理などで利用することは患者・利用者にとって明らかと考えらえる。
  • これら以外で個人情報を利用する場合は、患者・利用者にとって必ずしも明らかな利用目的とはいえない。この場合は、個人情報を取得するに当たって明確に当該利用目的の公表等の措置が講じられなければならない。
  • 医療・介護関係事業者の通常の業務で想定される利用目的は別表2に例示されるものであり、医療・介護関係事業者は、これらを参考として、自らの業務に照らして通常必要とされるものを特定して公表(院内掲示等)しなければならない。

このように、基本的には個人情報保護法の条項の通り、利用目的を明示しながら個人情報を取り扱うことが定められています。

これに対して、本問に係る「利用目的による制限の例外」ですが、「医療・介護関係事業者は、あらかじめ本人の同意を得ないで法第15条の規定により特定された利用目的の達成に必要な範囲を超えて個人情報を取り扱ってはならないが(法第16条第1項)、同条第3項に掲げる場合については、本人の同意を得る必要はない」とされております。

そして、この具体的な内容が各選択肢の設問となっているわけです。

順を追って説明していきましょう。

まず選択肢③に該当する「法令に基づく場合」です。

医療法に基づく立入検査、介護保険法に基づく不正受給者に係る市町村への通知、児童虐待の防止等に関する法律に基づく児童虐待に係る通告等、法令に基づいて個人情報を利用する場合であり、医療・介護関係事業者の通常の業務で想定される主な事例は非常に多いですが、ガイドラインの別表3にまとめられていますから参考にしてください。

これの根拠となる法令の規定としては、刑事訴訟法第197条第2項に基づく照会、地方税法第72条の63(個人の事業税に関する調査に係る質問検査権、各種税法に類似の規定あり)等があります。

警察や検察等の捜査機関の行う刑事訴訟法第197条第2項に基づく照会(同法第507条に基づく照会も同様)は、相手方に報告すべき義務を課すものと解されている上、警察や検察等の捜査機関の行う任意捜査も、これへの協力は任意であるものの、法令上の具体的な根拠に基づいて行われるものであり、いずれも「法令に基づく場合」に該当すると解されています。

これは個人情報保護法第16条第3項第1号の条項を示したものであり、他の号と違って「本人の同意を得ることが困難であるとき」という但し書きが無く、法令に基づく場合であれば本人の同意を得る手続きが例外なく不要であることがわかります。

続いては、選択肢①および選択肢④の「人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合」ですが、これには但し書きとして「本人の同意を得ることが困難であるとき」が付されています(個人情報保護法第16条第3項第2号)。

具体的な状況としては以下の通りです。

  • 意識不明で身元不明の患者について、関係機関へ照会したり、家族又は関係者等からの安否確認に対して必要な情報提供を行う場合
  • 意識不明の患者の病状や重度の認知症の高齢者の状況を家族等に説明する場合
  • 大規模災害等で医療機関に非常に多数の傷病者が一時に搬送され、家族等からの問合せに迅速に対応するためには、本人の同意を得るための作業を行うことが著しく不合理である場合

こういう「本人の同意を得ることが困難な状況」で、「生命身体財産の保護のために必要な場合」であれば本人の同意を得る手続きが不要となります。

ただし、これらの選択肢は「本人の同意を得ることが困難な状況」という制限があるので、本問で問われている「本人の同意を得る手続きが例外なく不要なもの」ではないことがわかりますね。

続いては、選択肢②および選択肢⑤の「公衆衛生の向上又は児童の健全な育成の推進のために特に必要がある場合」ですが、こちらも「本人の同意を得ることが困難であるとき」が付されています(個人情報保護法第16条第3項第3号)

具体的な状況としては以下の通りです。

  • 健康増進法に基づく地域がん登録事業による国又は地方公共団体への情報提供
  • がん検診の精度管理のための地方公共団体又は地方公共団体から委託を受けた検診機関に対する精密検査結果の情報提供
  • 児童虐待事例についての関係機関との情報交換
  • 医療安全の向上のため、院内で発生した医療事故等に関する国、地方公共団体又は第三者機関等への情報提供のうち、氏名等の情報が含まれる場合

こうした状況は「公衆衛生の向上又は児童の健全な育成の推進のために特に必要がある場合」に該当するわけですが、上記の条項にある通り、こうした状況であっても本人の同意を得ることが出来るならば、それが必要となります。

すなわち、これらの選択肢の状況は「本人の同意を得る手続きが例外なく不要」とは言えないということになりますね。

以上のように、個人情報保護法第16条第3項に個人情報の取扱に関する例外が述べられていますが、ほとんどで「本人の同意を得ることが困難であるとき」が付されておりますが、その中で唯一「法令に基づく場合」に限りそれが付されていないことがわかります。

よって、選択肢③が個人情報の開示について、本人の同意を得る手続きが例外なく不要なものであると判断できます。

また、選択肢①、選択肢②、選択肢④および選択肢⑤は個人情報の開示について、本人の同意を得ることが必要な状況であると判断できます。

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