公認心理師 2020-117

公認心理師の職責や倫理に関する問題ですが、見捨てられ不安の対応に関する理解も重要な問題です。

そこまで難しい内容ではないので、しっかりと押さえておくようにしましょう。

問117 公認心理師が留意すべき職責や倫理について、不適切なものを1つ選べ。
① 心理的支援に関する知識及び技術の習得など資質向上に努めなければならない。
② 法律上の「秘密保持」と比べて、職業倫理上の「秘密保持」の方が広い概念である。
③ 心理的支援の内容・方法について、クライエントに十分に説明を行い、同意を得る。
④ 心理状態の観察・分析などの内容について、適切に記録し、必要に応じて関係者に説明ができる。
⑤ クライエントの見捨てられ不安を防ぐため、一度受理したケースは別の相談機関に紹介(リファー)しない。

解答のポイント

公認心理師法に定められた義務等を把握している。

選択肢の解説

① 心理的支援に関する知識及び技術の習得など資質向上に努めなければならない。

こちらは公認心理師法第43条の「資質向上の責務」を指しています。


第四十三条 公認心理師は、国民の心の健康を取り巻く環境の変化による業務の内容の変化に適応するため、第二条各号に掲げる行為に関する知識及び技能の向上に努めなければならない。

※第2条各号は以下の通り。

  1. 心理に関する支援を要する者の心理状態を観察し、その結果を分析すること。
  2. 心理に関する支援を要する者に対し、その心理に関する相談に応じ、助言、指導その他の援助を行うこと。
  3. 心理に関する支援を要する者の関係者に対し、その相談に応じ、助言、指導その他の援助を行うこと。
  4. 心の健康に関する知識の普及を図るための教育及び情報の提供を行うこと。

上記のように、公認心理師は心理査定、心理療法、関係者への支援(コンサルテーション等)、普及活動について、知識及び技能の向上に努める義務を有しています。

以上より、選択肢①は正しいと判断でき、除外することになります。

② 法律上の「秘密保持」と比べて、職業倫理上の「秘密保持」の方が広い概念である。

法と職業倫理はどちらも社会的規範である点は共通していますが、いくつかの重要な点で違いがあります。

法は国家権力を背景に持ち、最終的に国家の強制力が法の規範を実行することを保障しているのに対しい、職業倫理とは、ある特定の職業集団が自分たちで定め、その集団の構成員間の行為、あるいは、その集団の構成員が社会に対して行う行為について規定し、律する行動規範であると共に、現実の問題解決の指針となるものです。

こうした違いを背景に、秘密の定義にも法的と倫理的に内容の違いがあります。

公認心理師は第41条に秘密保持義務が設けられていますが、法的な秘密保持に関しては「本人が秘密にしたいと考える事柄だけでなく、秘密にすることで本人に実質的利益があると客観的に認められる事柄」とされます。

これに対して、職業倫理的な秘密保持は「相手が専門家に対して完全なる信頼を有しており、その信頼を基にして打ち明けた事柄を、相手を裏切ることのないよう、誰にも漏らさないこと」を指します。

上記の文章の意味の違いを理解しておくことが重要です。

すなわち、「法的な秘密保持」ではその秘密の価値判断が含まれているのに対し、「職業倫理的な秘密保持」には秘密の価値についての判断は全く含まれないことになります。

つまり、職業倫理的な秘密保持の方が法的な秘密保持よりも広いということになりますね。

以上より、選択肢②は適切と判断でき、除外することになります。

③ 心理的支援の内容・方法について、クライエントに十分に説明を行い、同意を得る。

こちらはインフォームド・コンセント(説明と同意)についての記述になります。

これは、医療倫理的および法的な概念であり、医療の現場では医師や医療関係者が病状や治療方法についての十分な説明を行い、患者やその家族が納得・合意した上で、関係者間で情報を共有し、患者の自由意志の下で医療の選択が行われていくことになります。

つまり、インフォームド・コンセントは医療現場でよく使われる概念と言えますが、こうした「説明と同意」に関しては公認心理師にも同じく重要な概念と言えます。

公認心理師が、クライエントに対して説明するべき内容としては、「援助の内容および方法」「秘密保持義務とその例外」「費用(キャンセル時の取扱い等も含む)」「時間的側面(1回の時間、スペーシング:頻度など)」「公認心理師の資格・訓練に関する事項(SVや検討会、学会発表で公表することへの許諾等)」「質問・苦情に関する事項(質問や苦情は支援への協力である。カウンセラーもそれらを出されやすい姿でいるよう努力する旨)」「その他(リファーやその機関の限界について等)」が挙げられます。

この点については実践的な見地からも重要です。

そもそも本選択肢にある「心理的支援の内容・方法について、クライエントに十分に説明を行い、同意を得る」という行為自体がカウンセリングに含まれますから、これをしていないのはやはり問題と言えるでしょう。

また、公認心理師には「信用失墜行為の禁止」も規定されていますから、きちんとした説明を行っていないとなると、この辺にも抵触する可能性もあるでしょう。

いずれにせよ、本選択肢で示されている「説明と同意」は心理支援上、不可欠なものであると言えます。

以上より、選択肢③は適切と判断でき、除外することになります。

④ 心理状態の観察・分析などの内容について、適切に記録し、必要に応じて関係者に説明ができる。

本選択肢の前半部分(心理状態の観察・分析などの内容)については公認心理師法第2条の内容にありますね。


  1. 心理に関する支援を要する者の心理状態を観察し、その結果を分析すること。
  2. 心理に関する支援を要する者に対し、その心理に関する相談に応じ、助言、指導その他の援助を行うこと。
  3. 心理に関する支援を要する者の関係者に対し、その相談に応じ、助言、指導その他の援助を行うこと。
  4. 心の健康に関する知識の普及を図るための教育及び情報の提供を行うこと。

上記の第1号が観察・分析に関する事項であり、まずはこれが公認心理師の業務のひとつであるという認識が大切です。

後半部分の記録については、公認心理師法では、知り得た秘密の記録と保管について定められてはいません。

ですが、例えば、医療分野では、医療法が診療に関する検査所見等の記録を2年間、医師法が診療に関する記録を5年間保管するよう管理者らに義務づけています。

また、医師法第24条では患者を診察したら遅滞なく経過を記録することを義務付けられていたり、薬剤師法第28条では3年間の調剤記録の保存が義務付けられています。

このように、公認心理師が記録を取ることについては明確な法規制はありませんが、記録の保管は勤めている職場にいる他の専門職の規定に沿っておくことが取りあえずは大切だろうと思います。

もちろん、そうした規定がない職場であっても、きちんと記録を取っておくことが重要です。

公認心理師には、信用失墜行為の禁止(第40条)や資質向上の責務(第43条)がありますから、記録を取らないという行為はこの辺に抵触する可能性もあります。

何か重要な事態が起こった時に「記録はありません」では、困りますからね。

なお、この辺は各協会で独自に倫理綱領を設けているところも多いのではないでしょうか。

また、関係者に説明できることも重要ですね。

こちらは上記の公認心理師法第2条第3号に該当する内容であると思われます。

どれだけ立派な見立てを持っていても、相手に伝える力がなければ意味を持ちません。

専門家間なら理解されることでも、非専門家相手ではそうもいかないことも少なくありませんから、そういう人たちにこそ伝えられる力を持つことが専門家として重要ですね。

定期的に非専門家に対して見立てを伝えるという行為をしておくと、この辺の力は格段にアップしますが、逆に誰にも伝えないという日常を送ると、どんどん独りよがりで偏向的なものの見方になっていることが多いですね。

以上より、「心理状態の観察・分析などの内容について、適切に記録し、必要に応じて関係者に説明ができる」ということは、公認心理師として重要なことであると言えますね。

よって、選択肢④は適切と判断でき、除外することになります。

⑤ クライエントの見捨てられ不安を防ぐため、一度受理したケースは別の相談機関に紹介(リファー)しない。

「見捨てられ不安」とは、マスターソンが提唱した境界性人格に見られる特徴であり、こちらは現在のDSM-5にも基準として残っています。

とりあえずは「見捨てられる不安」と認識しておいて構わないのですが、その言葉に含まれる体験は一般的な感覚とは異質なものです。

目の前にいる対象の安定感が薄れ、自身の存在が足元から揺らぐような体験であり、単純に「この人に見捨てられるのが怖い」という認識では表現し尽くせないものであると考えておきましょう。


一度受理したケースを別機関にリファーする場合、当然、目の前のカウンセラーから見捨てられるという不安が生じることはあり得ます。

ただし、これはリファーしてはいけないということを示しているのではありません。

むしろ、見捨てられ不安を抱えている事例であるほど、カウンセラーが「無い袖を振らない」ことが重要になります。

見捨てられ不安が強い事例であるということは、境界性人格の特徴を備えている可能性があるわけですが、彼らには「本来、信頼できるはずの人が、信頼できなかった」という生育歴を有していることが多いとされています。

だからこそ、目の前に「信頼できる」と感じる人が現れると、同時に「信頼できない」という認識が強く生じてしまい、一挙手一投足の僅かな仕草から不信感を募らせることになってしまいます。

ですから、こういう特徴を持っている人と関わる場合、「安定した人」であることが重要になってきます(金太郎飴のようなイメージで、どこを切っても同じような顔が出てくるみたいなものです)。

そして、「安定した人」とは、自分の枠組みを持っている人であり、自身の責任の範囲や、実力でできること、そして自分の力量を超える事態をしっかりと認めているという側面を備えていることが求められます。

こうした自分の範囲でできることをしっかりと把握しており、それをクライエントに伝えることは、クライエントにとって残念ではあっても「安定した対象」と見なされる可能性が高まります。

逆に、自分の力量以上のことをしようとすると、それが関係の破綻を招き、結局はクライエントをさらに傷つけることになりかねません。

境界性心性を持つクライエントは、その生育歴において適切に支援されたという体験が不足していることも手伝い、「サポートに対するイメージ」が誇大的であることがあります(彼らがどこかで100%自分を受け容れてくれる対象を求めているとも言える)。

カウンセラーが自分の力量を超えたことをしようとすると(つまり、無い袖を振ると)、クライエントのそうした「誇大的なサポートイメージ」が活性化し(なんか救ってくれそうな感じがする、ということ)、よりカウンセラーに依存したり、その確かさを確認しようと試し行動に出るなどの可能性が高まります。

厄介なのが、無い袖を振るカウンセラーほど、こうしたクライエントからの「依存」が(一時ではあるのでしょうが)心地良く感じる傾向にあり、一方で、手に負えなくなると「クライエントの病理性」を指摘するようになることです。

これはカウンセラー側に「見捨てられ不安」があるという捉え方もできますし、そうなると事態は泥沼と化しますので、なんとかカウンセラーの皆さんにはその辺の成熟はしておいてもらいたいと切に願います。

なお、私は境界性心性を持つクライエントにとって、リファーされるなどの「このカウンセラーでは、自分の支援ができないのだ」という体験は無駄なものではないと思っています。

境界性心性を持つクライエントは、カウンセラーとの別れを繰り返すたびに安定する傾向があるという記述を読んだことがありますが、それは「自分のことを100%受け容れてくれる人はいない」という諦めを体験するからだろうと考えています。

私はこの諦めは「現実」だと思います。

相手が子どもであれ配偶者であれ、人のあらゆる特徴を100%受け容れることなど不可能だと思いますし、多くの人は「100%は受け容れられないけど、そこそこは受け容れてくれている」という事実で落としどころを作っているものです。

カウンセラーとの別れを繰り返すうちに、「100%は受け容れてもらえない」という体験にもなりますが、こうした諦め(明らめ)によって現実感のある対人関係に歩み出すことができるのではないかと考えています。

いずれにせよ、見捨てられ不安の有無にかかわらず、むしろ見捨てられ不安があると見立てられたならば尚更、カウンセラーは自身と自らの所属する機関において目の前のクライエントを支援し続けられるのかクレバーに考え、必要と判断すればそのことを誠実に伝え、リファーすることが重要になります。

以上より、選択肢⑤は不適切と判断でき、除外することになります。

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