公認心理師 2018-47

公認心理師が他の職種と連携して業務を行う際の秘密保持に関する留意点として、不適切なものを選ぶ設問です。

公認心理師法第41条を踏まえておくことは大前提ですが、こちらの問題はより現場に即した対応について問われています。
念のため、第41条では「公認心理師は、正当な理由がなく、その業務に関して知り得た人の秘密を漏らしてはならない。公認心理師でなくなった後においても、同様とする」とされています。

厚生労働省の通知等を見ても、第41条の細やかな状況について述べたものは見当たらないため、臨床的な判断としてこちらの問題を解説していこうと思います。
(見落としがあった場合はご指摘いただけると幸いです)

解答のポイント

秘密保持義務違反の例外状況を把握していること。
各領域における心理師の責任の範囲を理解していること。

選択肢の解説

『①教育分野では、相談内容を担任教師に報告する場合、クライエントである児童生徒の同意が必要である』

こちらについては、教育分野では例えば「集団的守秘」といった表現で同意が得られない場合の理由づけがなされていたことがあったように思います。
ですが、「集団的守秘」は守秘義務を有しない職種がいる場合の難しさが指摘されています。
また、法に則った対応が求められる公認心理師としては、より厳密に秘密保持について考えておく必要があると思われます。

面接内容を教員等に報告する場合、当然ながら児童生徒にもその同意を得ることが重要です。
相手が未成年であるとか、法的責任能力がないこととは無関係に秘密保持義務は発生します。

個人的には、心理師側がこの手順を「支援の一環」と考えておくことが大切だと思います。
教員等に伝えて良いこと、伝えてほしくないことなどをやり取り、共有すること自体が心理療法的意義を有する行為だと思われます。
心理師が教員に報告したいことが、児童生徒が伝えてほしくないこともあるでしょうが、そのときにどのように折り合いをつけるのかも含めて心理療法です。

以上より、選択肢①の内容は正しいと言え、除外することができます。

『②医療分野では、全職種が守秘義務を有しているため、クライエントの秘密の扱いについて本人に同意を得る必要はない』

医療分野で働く職種は守秘義務を有していることが多いのは確かです。
しかし、そのこととクライエントに秘密の扱いについて同意を得る必要がないこととは無関係と言ってよいでしょう。

選択肢の内容では、公認心理師資格に定められた秘密保持義務の遵守がなされておらず、公認心理師という専門家としての責務を果たしていないことになります。

また、例外的に本人が望まない形で情報共有がなされる場合もあるとは思いますが、本人に同意を得ようとする行為やその努力については、どのような状況下でも行われるべきものだと言えます。

よって、選択肢②の内容は誤りであり、こちらを選択することが求められます。

『③産業分野では、うつに悩むクライエントから許可を得れば、クライエントの上司に対して業務量の調整を提案してよい』

よく問題として出されるのが「うつ状態がひどいので、クライエントに許可を取らずに上司に業務量の調整を提案した」といった類のものですが、本選択肢ではきちんと手順を踏んでいるのがわかります。

うつ状態であることによって、業務量の調整について適切に話し合いができない場合や、それ自体が負担になることもあります。
クライエントと上司の間に入って業務量の調整について提案することは、起こりえることだと言えますが、その前にクライエントの意向をきちんと理解しておくことが重要です。
例えば、残業があるならそれをどの程度減らすのか、納期等によっては減らすことが端的に業務軽減にならないこともあると踏まえる、業務量全体の軽減になっているか、などが重要です。

「クライエントから許可を得る」ということには、上記のようなクライエントの意向を確認するということも含まれていると考えた方が良いように思います。

以上より、選択肢③の内容は正しいと言え、除外することができます。

『④犯罪被害者のカウンセリングで得られた犯人に関する情報の提供を求められても、正当な理由がなく警察官に伝えてはならない』

まずは、秘密保持義務の例外状況は以下の通りです(現任者講習会テキストより)。

  1. 明確で差し迫った生命の危険があり、攻撃される相手が特定されている場合
  2. 自殺など、自分自身に対して深刻な危害を加えるおそれのある緊急事態
  3. 虐待などが疑われる場合
  4. そのクライエントのケアなどに直接関わっている専門家同士で話し合う場合(相談室内のケース・カンファレンスなど)
  5. 法による定めがある場合
  6. 医療保険による支払いが行われる場合
  7. クライエントが、自分自身の精神状態や心理的な問題に関連する訴えを裁判などによって提起した場合
  8. クライエントによる明示的な意思表示がある場合
上記のように、生命が差し迫った場合(タラソフ判決等)や法的な定めがある場合等を除いては、例外状況にはなりません。
これがわかりやすく出ているのがDV防止法です。
第6条の「配偶者からの暴力の発見者による通報等」では、以下のように記載があります。

「配偶者からの暴力を受けている者を発見した者は、その旨を配偶者暴力相談支援センター又は警察官に通報するよう努めなければならない
「医師その他の医療関係者は、その業務を行うに当たり、配偶者からの暴力によって負傷し又は疾病にかかったと認められる者を発見したときは、その旨を配偶者暴力相談支援センター又は警察官に通報することができる。この場合において、その者の意思を尊重するよう努めるものとする
「刑法(明治四十年法律第四十五号)の秘密漏示罪の規定その他の守秘義務に関する法律の規定は、前二項の規定により通報することを妨げるものと解釈してはならない
上記のように、DV被害者を発見したとしても、それをもって通報するよう「努めること」が定められており、それを行う上では「その者の意思を尊重するよう努める」とされています。
この辺が虐待事例との違いと言えますね。
一般感覚だと、犯罪被害者の犯人の話を聞いていて、警察から問い合わせがあると言った方が良いようにも感じるかもしれません。
ですが、犯罪にも親告罪・非親告罪など分かれているように、被害者の意向を汲む部分があるのも事実です。
選択肢の「正当な理由」には、こうした被害者の意向や状況の危険度、その他係わる法律等などが考えられ、それらの要因を複合的に判断した上で警察官に伝えるか否かを決める必要があると思われます。
また、継続的に支援が必要と考えるなら、秘密保持義務の例外と考えたことを含めてクライエントと話し合うことが重要でしょう。
よって、選択肢④の内容は正しいと言え、除外することができます。

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