公認心理師 2021-34

スーパービジョンに関する問題です。

過去問に出ている内容も多いですし、スーパービジョンの歴史を想定すれば解きやすい選択肢ばかりだと言えます。

問34 心理支援におけるスーパービジョンについて、誤っているものを1つ選べ。
① スーパーバイジーの職業的発達に適合させることが望ましい。
② スーパービジョンの目的の1つに、特定のスキルの熟達がある。
③ 後進の指導に当たる立場では、スーパービジョンの技能を学ぶことが望ましい。
④ スーパービジョンの目的の1つに、心理療法理論の臨床場面への応用と概念化がある。
⑤ スーパービジョンとは、スーパーバイジー自身の心理的問題を扱うカウンセリングのことである。

解答のポイント

スーパービジョンの特徴について理解している。

過去問を把握していれば、すぐに解くことができる。

選択肢の解説

① スーパーバイジーの職業的発達に適合させることが望ましい。

こちらについては「公認心理師 2018追加-3」や「公認心理師 2020-110」などで同様の問題が示されています。

まずはこちらを引用しながら解説していきましょう。

心理臨床大事典(p250)には、各段階における留意点について記載されています。

初心者の場合は以下の通りです。

  • 見立ての指導と不安の軽減。
  • コンプレックスに触れるか否かはバイザーのタイミングをはかる技量に委ねられる。

中級者の場合は以下の通りです。

  • 自身のカウンセリングに対する枠組みができあがり、どこかマンネリの状況が漂ってくる時期に多い。
  • 自分を超えたクライエントが続くときに受けると良い。
  • 自分の課題を示すケースに集中して受けるのもいいし、すでに終わっているケースをもう一度初めから検討するような形も良い。
  • 複数のバイザー、性別の異なるバイザーにつくなども視野を広げる良い体験になりやすい。

上級者の場合は以下の通りです。

  • バイザーになっているような段階でも、SVはやはり必要。
  • 上級者にとっての最大のバイザーはクライエント。カウンセリングをクライエントから学ぶ、と言えるのは上級者になってから。
  • 上級者では、人間のみならず、自然や動物、異文化や古典などのあらゆるものがバイザーに成り得る。

以上のように、それぞれの習熟段階に課題があり、それに応じたスーパービジョンがあることがしめされていますね。

さて、蛇足になるかもしれませんが、カウンセラーの発達モデルについても示しておきましょう。

例えば、M. H. Rønnestad と T. M. Skovholt は、カウンセラーの段階的な発達モデルを示していますが、これは、臨床家の職業的発達が生涯続くものとして職業的自己と個人的自己が統合していくプロセスを6段階に分けたものです。

  1. 素人援助者期:心理援助の訓練を受ける前の状態。自分の体験をもとにアドバイスをしがちである。
  2. 初学者期:訓練をうけることへの熱意はあるが、自信に乏しく不安が強い。学ぶ対象の情報量に圧倒される。出来るだけ簡単に学べ即効性のスキルを求める。
  3. 上級生期:博士課程相当にあたる。1人前になろうと完璧主義的になりがちの時期。臨床家を理想として学ぶ。特定の臨床心理学モデルや手法に固執しがち。
  4. 初心者専門家期:実践経験が5年程度の時期。受けた訓練を見直す時期になる。クライエントとの関係性を重視し始める。1つの理論よりクライエントに合うものに注意を向けるようになる。
  5. 経験を積んだ専門家期:実践経験が15年程度の時期。多角的に柔軟に理論や経験を使いこなし困難な状況に遭遇しても落ち着いて対処できる。自己の価値観・特性を反映させていく時期。柔軟で粘り強いアプローチがとれる。
  6. 熟練した専門家期:実践経験が20年以上の時期。自身の臨床家としての力を現実的に認識する一方で限界も謙虚に受け入れる。職業的人生を振り返り、満足を感じる一方、知識の発展に冷めた見方や職業への関心が薄れることもある。

職業的発達段階を理解することで、自分自身の段階を評価し、その時に直面する課題の対応にも役立つとされます。

上記のような各段階によって適切なスーパービジョンというものがあるのだと考えられます。

もちろん、それは「この段階だから、これをすればいい」という単純なものではなく、もっと個人的な段階にも合わせて考えられるべきではあると思いますが、こうした発達プロセスを知っておくことで大まかなSVの在り様も見通せるかもしれません。

当然、初心者の段階のバイジーに対して、上級者の段階のSVを実施すれば混乱を招くことになるでしょうし、逆の場合も効果が薄いと言えるでしょう。

以上より、選択肢①は適切と判断でき、除外することになります。

② スーパービジョンの目的の1つに、特定のスキルの熟達がある。
④ スーパービジョンの目的の1つに、心理療法理論の臨床場面への応用と概念化がある。
⑤ スーパービジョンとは、スーパーバイジー自身の心理的問題を扱うカウンセリングのことである。

こちらは以下の書籍を中心に解説していきましょう。

大学院のころの(つまり、まだ資格を取る前の段階を想定)スーパービジョンでは、セラピストとしての基本的態度、インテーク面接の進め方、治療契約の結び方、心理アセスメントや目標設定の仕方、クライエントの感覚や知覚、思考や感情の推測(解釈)の仕方、今後のプロセスの大まかな予測、想定されるクリティカルなポイント、セッションごとの仮説の立て方や修正の仕方、プロセスの進歩や停滞のサイン、中断や終結に関する留意点を学ぶことになります。

一方、プロになってからのスーパービジョンでは、特定の技法の熟達、難しいクライエントへのアプローチの探求、職場やクライエントの状況に応じた対応の模索、セラピストの人格的成長や個人的問題の克服などが目標になることが多いです。

ここで挙げた選択肢②および選択肢④は、上記のプロになってからのスーパービジョンの内容と言えますね。

スーパービジョンが一定期間継続されるのは、スーパーバイジーに学習と成長のプロセスが起こる期間が必要であるからであり、その間に、異なったクライエントの経験、カウンセリング・プロセスの体験、カウンセリングの経過・結果の軌跡の経験、異なった介入方法や技法が試みられることになります。

また、スーパービジョンは、専門職としての機能、すなわち、概念化の能力、介入、アセスメントなど、カウンセラーの実践能力の有効性を高めるための援助でもありますから、心理療法理論を臨床実践の場で用い、その体験をスーパーバイザーと共有し、それまでバイジーが表現できていなかった体験を概念化していくことになります。

なお、大学院生のスーパービジョンでは、スーパーバイジーの個人的問題が取り上げられることは少なく、タブー視する向きも多いですが、プロになってからのスーパービジョンでは、ケースを通して現れるスーパーバイジーのコンプレックスや対人関係の特徴について取り上げられることも多く、その場合はスーパービジョンと心理療法(教育分析や個人分析)の境界があいまいになってくる面があります。

ですが、基本的にスーパービジョンにおいて「バイジーの個人的問題」については扱うものではないというのがベースの理解でよいです。

ただし、本当に難しいクライエントとのやり取りでは、バイジーの個人的な特徴がそのカウンセリング過程に影響を及ぼさざるを得ず、そうしたカウンセリング過程についてバイザーが言及する場合には、どうしても「バイジーの個人的問題」にまで踏み込まざるを得ないこともやはりあるということです。

ただ、選択肢⑤にあるように「スーパービジョン=スーパーバイジー自身の心理的問題を扱うカウンセリング」という理解は明らかに不適切な理解であると見なして良いでしょう。

以上より、選択肢②および選択肢④は適切と判断でき、除外することになります。

また、選択肢⑤は不適切と判断でき、こちらを選択することになります。

③ 後進の指導に当たる立場では、スーパービジョンの技能を学ぶことが望ましい。

平木(2008)によれば、スーパービジョンとは「監督訓練、あるいは監督教育と呼ばれる専門家になるための実践的、具体的、直接的、個別的訓練のことをいう」と定義されており、その特徴として「専門領域の先輩から後輩に対して行われること、継続的に一定期間、特定の指導者によって続けられること、実践への評価的介入であること」が指摘されています。

この後半のスーパービジョンの特徴について読むと、「後進の指導に当たる立場」と「スーパービジョン」に大きな隔たりがないのがわかると思います。

ですが物事の流れを考えれば、上記は当然のことでもあります。

すなわち、元々スーパービジョンという営みがはじめからあったのではなく、カウンセリングを続けていく中で後輩に教える、その中で後輩が育っていくということが自然と生じており、そうした自然と行われていたやり取りに「スーパービジョン」という枠組みを与え、専門領域として昇華させてきたという流れがあるわけです。

元々はカウンセリングの技術の向上を目指す上での教育方法であった営みが、1922年のベルリン精神分析研究所で専門的に用いられるようになり、後にアメリカのソーシャルワーカーの領域で広く普及し、現代においては精神医学、心理学にとどまらず福祉、教育、介護などの分野で一般的な教育方法として広く用いられるようになったのです。

ですから、選択肢③の「後進の指導に当たる立場では、スーパービジョンの技能を学ぶことが望ましい」という記述は、「後進の指導」と「スーパービジョン」というもともと一つのものを、わざわざ分けて述べているだけであって、そこで展開される技能はかなり共通しているとみてよいでしょう。

ただ、やはりスーパービジョンは専門的に展開されてきていますし、職場で日常的に行われる指導と重なる面はあっても、まったく同じではないですし、スーパービジョンという形をとるからこそ出てくる関係性や体験もあることを忘れてはなりません。

なお、スポーツ選手のスーパービジョンなどでは、現役を退いた人がスーパーバイザーになることもありますが、心理療法においては、スーパーバイザーは現役のセラピストであることが望ましいとされています。

心理療法の分野では、常にクライエントから学び、自分を磨き続ける姿勢がないとインパクトが失われやすいのです。

また、セラピストは数年に一度くらいは、カンファレンスに事例を提示したり、別のスーパーバイザーからスーパービジョンを受ける方がよいとされています。

一人のスーパーバイザーだけに限っていると、どうしても見方が偏り柔軟性を欠きやすくなってしまいます(もちろんバイザーにもよりますけどね)。

ただ、師匠を得るときもそうですけど、早々にバイザーに見切りをつけるようなバイジーの在り様は、バイジーの成長の歩みを遅々としたものにするでしょう。

そもそもバイザーはバイジーよりも深く広い経験を有していることを踏まえれば、バイジーが「見切りをつけられるほどの知見を持ち合わせているはずがない」という構造が論理的に正しいはずです。

それにも関わらず、バイジーがバイザーの意見に対して、いったん飲み込んでみることもせずに批判したり離れたりするのは残念なことです(世阿弥も守破離を示していますし、まずは「守」が大切です)。

以上のように、スーパービジョンという営み自体、そもそも後進の指導などが展開して専門化してきたものですから、スーパービジョンの技術は後進の指導にも応用できる面が大きいでしょう。

よって、選択肢③は適切と判断でき、除外することになります。

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