公認心理師 2020-109

公認心理師の倫理等に関する問題になっています。

多重関係や秘密保持義務に関しては頻出と言えますね。

また、治験等に関しても大まかに流れを理解しておくようにしましょう。

問109 公認心理師の対応として、不適切なものを1つ選べ。
① 親友に頼まれて、その妹の心理療法を開始した。
② カウンセリング中のクライエントに自傷他害のおそれが出現したため、家族に伝えた。
③ 治験審査委員会が承認した第Ⅲ相試験で心理検査を担当し、製薬会社から報酬を得た。
④ カウンセリング終結前に転勤が決まり、クライエントへの配慮をしながら、別の担当者を紹介した。
⑤ 1年前から家庭内暴力〈DV〉を受けているクライエントの裁判に出廷し、クライエントの同意を得た相談内容を開示した。

解答のポイント

多重関係、秘密保持義務等に関する基本的な理解を有している。

選択肢の解説

① 親友に頼まれて、その妹の心理療法を開始した。

こちらの選択肢には多重関係の問題がありますね。

多重関係とは「専門家としての役割と別の役割を、意図的かつ明確に同時にあるいは継続的に持ち続けること」を指します。

具体的には「クライエントと恋愛関係を持つ、性的関係を結ぶ」「ゼミの学生のカウンセリングを行う」「職務上の部下の家族をカウンセリングする」などの状況を指します。

家族間、友人間のカウンセリングも好ましいとされていませんね。

多重関係を避けるべきとされているのは、治療関係以外の関係性が治療関係に影響を与えることを防ぐためです。

外科医でも家族はなかなか切れるものではないと聞きますが、カウンセリングでも家族のカウンセリングが難しいのは少し想像すればわかると思います。

不登校児の親御さんに助言はできても、その助言と同じことを不登校になったわが子に実践できるかと問われれば、なかなか困難と感じる人も多いのではないでしょうか。

本選択肢は「親友の妹」ですから、「親友の妹」としての関係性と、「クライエント」としての関係性が入り混じるわけです。

このことは治療関係に大小さまざまな影響を与えることになります。

普通の治療関係でしないようなこと(例えば、一緒に喫茶店で話すとか)が、「親友の妹」という関係性が混ざっているせいで行われやすくなったり拒否しにくくなったりします。

逆に一般的には行われることがしにくくなることも考えられますね(例えば、直面化とかは「親友の妹」には普通はしないことだけど、「クライエント」には行う可能性はありますよね)。

また、「親友」は「クライエントの兄」ということにもなるわけです。

例えば、「妹」とはいえ「クライエント」なわけですから、いくら「親友=クライエントの兄」から求められても、面接で語られたことを伝えるわけにはいかないわけです。

親友からすれば「どうして教えてくれないんだ」と憤ることもあり得ますね(その辺を理解してくれないのに「親友」か?と個人的には思いますが、「親友」の感覚は人によって違いますからね)。

つまり、治療関係だけでなく、プライベートな友人関係にも影響が出る可能性があるということですね。

こういう多重関係を、私は100%否定するつもりはありません。

それなりに専門家として生きていれば、プライベートに専門家としての機能が入ってくることも当然であり、これを排除する方がおかしな話ということもあります(医師が親戚の集まりで健康相談されるのは当たり前のことかもしれません。そんな感じ)。

重要なのは、「多重関係にならざるを得ない状況」もあると理解し、「それが自分とクライエントとの関係にどのような影響を与えているか」をモニタリングし、その影響をカウンセリングに活用できるように工夫することだと思います。

とは言え、初心者の方は控えておいた方が良いことではあると思うので、基本的には「多重関係を避ける」というのが定石であると理解しておきましょう。

以上より、選択肢①が不適切と判断でき、こちらを選択することになります。

② カウンセリング中のクライエントに自傷他害のおそれが出現したため、家族に伝えた。
⑤ 1年前から家庭内暴力〈DV〉を受けているクライエントの裁判に出廷し、クライエントの同意を得た相談内容を開示した。

こちらは秘密保持義務の例外状況に関する理解が問われていますね。

秘密保持義務の例外状況は以下の通りです(現任者講習会テキストより)。


  1. 明確で差し迫った生命の危険があり、攻撃される相手が特定されている場合
  2. 自殺など、自分自身に対して深刻な危害を加えるおそれのある緊急事態
  3. 虐待などが疑われる場合
  4. そのクライエントのケアなどに直接関わっている専門家同士で話し合う場合(相談室内のケース・カンファレンスなど)
  5. 法による定めがある場合
  6. 医療保険による支払いが行われる場合
  7. クライエントが、自分自身の精神状態や心理的な問題に関連する訴えを裁判などによって提起した場合
  8. クライエントによる明示的な意思表示がある場合

上記のような例外状況を踏まえて、本選択肢を見ていきましょう。

まず選択肢②の内容に関しては「自殺など、自分自身に対して深刻な危害を加えるおそれのある緊急事態」に該当しますから、本人の意向に関係なく家族に伝えるという対応には問題ありません。

選択肢⑤についても、裁判とは言えクライエントの許可なくカウンセリングの内容を話すのは問題がありますが、明確に「クライエントの同意を得た相談内容を開示した」とされていますから、こちらも問題のない対応と言えますね。

秘密保持義務の例外状況は、試験問題として頻出なだけでなく、実践上も理解しておかねばならない事柄ですから、しっかりと把握するようにしておきましょう。

実践をしている人ならば理解できると思いますが、どうやって「クライエントの同意」を取るかが非常に難しい問題ですし、それ自体がカウンセリングとも言えますね。

以上より、選択肢①および選択肢⑤は適切と判断でき、除外することになります。

③ 治験審査委員会が承認した第Ⅲ相試験で心理検査を担当し、製薬会社から報酬を得た。

まず基礎知識として「治験審査委員会が承認した第Ⅲ相試験」とは何かを理解しておきましょう。

治験には3段階設けられています。


第I相臨床試験(Phase I)
まず、少人数の健康成人において、ごく少量から少しずつ「くすりの候補」の投与量を増やしていき、安全性はどうかについて調べます。また、血液や尿などの中に存在する「くすりの候補」の量を測ることにより、どのくらいの速さで体内に吸収され、どのくらいの時間でどのように体外に排泄されるのかも調べます。
体に現れた変化が「くすりの候補」の副作用かどうかを見きわめるため、プラセボ(有効成分が入っていない、見た目や味などの点で「くすりの候補」と区別がつかないもの)を同時に使って比較することもあります。
「くすりの候補」の種類によっては、効果があると予想される患者さんから治験を始める方が適当なことがあり、この場合には効き目についても予備的に調べることができるのが普通です。

第II相臨床試験(Phase II)
次は、「くすりの候補」が効果を示すと予想される比較的少人数の患者さんについて、病気の程度によってどのような効き目を発揮するのか(有効性)、副作用はどの程度か(安全性)、またどのような使い方(投与量・間隔・期間など)をしたらよいか、といったことを調べます。効き目や使い方を調べるのに当たっては、通常いくつかの投与量を用いて比較検討しますが、その際にプラセボを加えるのが一般的です。また現在使われている標準的な「くすり」がある場合には、それと比較することもあります。

第III相臨床試験(Phase III)
最後に、多数の患者さんについて、第II相試験の結果から得られた「くすりの候補」の有効性、安全性、使い方を最終的に確認します。 確認の方法は、現在使われている標準的な「くすり」がある場合にはそれとの比較、標準的な「くすり」がないときにはプラセボとの比較が中心になります。 これとは別に、長期間使用したときの有効性や安全性がどうかを調べることもあります。

※群馬大学医学部付属病院 臨床試験部 「治験の3つのステップ」より


このように、第Ⅲ相試験では、多数の患者を対象に、「くすりの候補」の有効性、安全性、使い方を最終的に確認することになります。

製薬会社からの依頼によって検査等を行うわけですから、正規の医療機関の業務に+αが加わるわけで、その+αの部分に対して報酬が支払われるのは自然なことだろうと思います。

ただ、業務の一環として行われており、検査者個人に報酬がそのまま行くかどうかは機関によって異なるのではないかと思います(製薬会社は医療機関に依頼しているはずなので、医療機関に報酬は支払われる)。

私自身、第Ⅲ相試験にて検査を実施したことがありますが、その時に報酬が支払われたかちょっと記憶にないです…。

ただ、検査実施に関する説明等があり、そこに向かう交通費や宿泊費は当然として、それに加えてそこに参加する謝礼が支払われました。

これらは正当な報酬と言えますから、受け取って問題がないものと言えますね。

以上より、選択肢③は適切と判断でき、除外することになります。

④ カウンセリング終結前に転勤が決まり、クライエントへの配慮をしながら、別の担当者を紹介した。

本選択肢で重要なのは「クライエントへの配慮をしながら」の箇所になります。

こうした問題では「配慮をしながら」と書けば済む話なのですが、実践では「どのような配慮が考えられるのか」を知っておくことが重要になります。

その点を踏まえつつ、解説していきましょう。

まず「カウンセリング終結前に転属が決まる」ということはよくあることです。

公務員であれば3年~5年程度で異動になるのが一般的ですし、SCであっても各都道府県で「継続で勤務できるのは〇年まで」と定めているところもあるでしょう(と言っても人手不足のところは、そううまくいかないのですが)。

大学院等の実習機関でカウンセリングを担当している人は、必ずと言っていいほど、こうした「外的な要因によるカウンセリング継続が困難な状況」に出会うと思います(卒業とかですね)。

余談ですが、私が所属していた大学院では、当初は卒業に伴って「外的な要因によるカウンセリング継続が困難な状況」を各院生が体験できるようにしてくれていたように思うのですが(つまり、臨床心理士資格を取得したら問答無用で出て行ってもらう)、風の噂によると最近になって「卒業生が事例を担当していて、希望するなら研修生として残ってカウンセリングを継続できる」というシステムに変更したようです。

これは個人的には残念なことです。

「外的な要因によるカウンセリング継続が困難な状況」は、先述の通り、多くの人が通る道です。

ですから、これをどのように体験する機会を与えるかは教育機関によって非常に重要なことだろうと思いますし、卒業というカウンセラーもクライエントも抗うことができない事情による「誰のせいでもない別れ」という状況は、ピュアに「外的な要因によるカウンセリング継続が困難な状況」を体験できるこの上ない機会であると言えます。

もちろん、当の院生には「外的な要因によるカウンセリング継続が困難な状況」の価値が理解しづらいかもしれません。

院生にとっては、大学院で初心者のころに担当したクライエントには思い入れがあるでしょうし、それを継続したいと思うのは人情だと理解できます。

ですから、教育機関としては、システムとして「外的な要因によるカウンセリング継続が困難な状況」を体験せざるを得ない状況を作っておくことが重要だと思うのです。

さて、本選択肢の正誤判断をする上で、必要なのは「終結時にはどのような力動が生じるのか」に関する理解です。

カウンセリングを何らかの理由で終える場合、その理由が明らかに外的なものであったとしても、クライエントに「見放された」という感覚が生じると考えるのが正しい理解です。

「外的な理由だから大丈夫」ということはありません。

外的な理由であろうが、クライエントよりも「そちら」を優先したことには変わりありませんから、クライエントの「見放された」という感覚は合理的なものとして見なす必要があります。

こうした陰性感情は、クライエントの「来談の契機となった心の傷」とリンクする可能性もあり、クライエントによっては症状を悪化させることもあり得るでしょうし、来談のキャンセルが続くという行動化が出現することも考えられます。

もちろん、多くのクライエントがこうした問題となる反応を示さず、表立ってはカウンセラーとの別れを受け容れてくれるのですが、内心として複雑な感情が生じるのは間違いありません。

要は、こうした事態においては「クライエントには複雑な感情を生じさせることは間違いないが、どういう反応になるかは個々のクライエントによって異なる」ということが言えるわけです。

このことを踏まえれば、まず大切になるのは「どういったタイミングで告げるか」ということです。

定石で言えば、3か月前には継続が困難になることを伝えることが望ましいとされていますし、それはおおむね正しいだろうと思います。

ただ、そこまでの余裕を確保できない人も多かろうと思いますので、その場合は継続困難がわかった時点でできる限り早くということになりますね。

そして、別れを告げてからの数セッションでは、これまでの面接をreviewすることが重要になります。

当初の主訴はどうなっているか、主訴にまつわるストーリーがどう変化したか、について話し合うことが多いだろうと思います。

クライエントの状態が改善してくると、クライエントのストーリーは内面化(クライエントが内省的になり、語られる内面がストーリーに組み込まれること)・歴史化(目の前のことばかり語っていたクライエントが、過去に目を向け、過去と現在を行ったり来たりしつつ語る。過去と現在の関係性が変わることで、書き換えられる体験が出てくる)・関係化(クライエントのストーリーの中の人間関係に広がりができる)というプロセスをたどることが多いです。

本選択肢の状況は「カウンセリング終結前」ですから、ここまでうまくいかないにしても、これまでカウンセラーとクライエントで行ってきたことを眺めてみるというイメージが大切だろうと思います。

主訴の改善に至ってはいなくても、クライエントの変化は間違いなくカウンセラーが介在して生じたものですから、それを共に眺めるという感じです。

これまでの経過を振り返ることで、これまで成しえてきたこと、これからの課題なども見えてくることがあるでしょうし、何よりもこうしたやり取り自体が関係の終結に向けての作業と言えますね。

クライエントによっては症状の再燃等の波乱を迎えることもあるでしょうが、その辺の対応は解説の枠組みを超えるので省きます。

カウンセラーの転勤に伴って、クライエントにはこのままカウンセラーを変えてカウンセリングを続けるか否かの判断がなされるわけですが、当然ここにカウンセラーとしての意見を伝えることも重要になります(クライエントに残された課題があると思うのであれば、それを伝えて継続を勧める等)。

継続ということになれば、可能な限りスムーズにカウンセラーが交代できるように様々な工夫がなされることになります。

例えば、現カウンセラーと新カウンセラーとが同席して新カウンセラーを紹介する、新カウンセラーの客観的情報を伝える、などが考えられるでしょうか。

現カウンセラーと新カウンセラーとが一緒にいる場面をクライエントに見てもらうことで、現カウンセラーに対する信頼感が新カウンセラーに引き継がれることもありますね(ただし、否定的感情も引き継がれることを忘れてはならない)。

これらはよくある工夫ですが、その機関の状況や人事の関係等を踏まえ、可能な限りの配慮をしておくということになります。

このように、カウンセラーの途中交代という状況で「クライエントへの配慮をしながら、別の担当者を紹介した」というのは、カウンセリングを継続していればごく自然な出来事であり、それも含めてカウンセリングの過程であると捉えて対応していくことが重要です。

以上より、選択肢④は適切と判断でき、除外することになります。

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